262 山道
「そうだな。何かうまいものでも残ってたかな」
マートは自分のマジックバッグに手を突っ込んだ。燻製肉と野菜を煮込んだスープの鍋はあったが、後は干からびたパンと豆、硬くなったチーズぐらいだった。最近はあまり狩りをする暇もなかったのだ。
「大したものはねぇ、まいったな。じゃぁ、どうだ、一緒に狩りをしないか?手伝うぜ」
マートの言葉をウェイヴィが訳すると、ハーピーたちは、うんうんと何度もうなずいた。
「とちにのにみみこちみみつらのなきち・・・」(最近蛮族が増えて獲物が減って困っていた。俺達がおなか一杯になれるほどの獲物を狩るのを手伝ってくれたら、知ってる事をおしえてやる)
「よし、それでいこうぜ」
マートは、ぐるりと周囲を見回す。たしかにあまり動植物が豊富だとは言えない様子だった。だが、マートの能力からすればそれほど難しいことではない。ハーピーは100体程いるらしく、マートの見つけた獲物の居場所を順番に彼らに教え始めた。ハーピーたちは聞いた獲物の場所に素早く急降下をして、脚のカギ爪で兎や雉、大きいものでは猪、鹿といったものを、次々と仕留めていく。マート自身も何頭かを弓で仕留めた。
「てちかちとにからにととんらみに・・・」(私とずっと一緒に暮らさないか?)
女性のハーピーがマートにそう声をかけてきた
「よく言われるよ。だが、俺の家は既にあるんだ」
「つちみみみいみみしち」(残念だ)
マートの答えにそのハーピーは苦笑を浮かべた。彼らは狩りの成果に満足し、ここしばらくの間で見たり聞いたりした内容を教えてくれた。それによると、ここから南西にある旧ハントック王国、いまはハドリー王国領につながる山道に何度か鎧を着た人の姿を見たというのだ。マートは彼らに感謝し、獲物を少し分けてもらうと、その山道に向かったのだった。
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山道に沿って1時間程飛ぶと、比較的大きな街についた。その街の中心は小高い丘になっており、そこには小さいながらも城が築かれていた。その城にはハドリー王国の旗が掲げられている。おそらく国境を守る拠点なのだろう。ダービー王国からの山道はその街につながっていたが、今は利用するものはほとんど居ないようで荒れていた。マートは姿を消したまま街の中に入り城を守る騎士や街の人々の会話を立ち聞きしてみた。だが、彼らはごく普通の国境の街の住民であり、城の騎士たちもハドリー王国に忠誠を誓っている様子で、表面上は偽装しているが実はダービー王国の住民といった事はなさそうだった。
マートは首を傾げた。途中はずっと山道があるだけで、人々が隠れて暮らせそうな場所というのは一つも見当たらなかったはずだった。ハーピーたちがみたという騎士は一体どこに行ったのか。ハーピーが嘘をついたとは思えなかった。
マートは街を出て、今度は道を逆に辿ることにした。何か見落としがあったのかもしれない。今回は空は飛ばず、徒歩で進むことにした。夕暮れになった頃、マートは山道に迫っている岩壁のでっぱりに、色褪せた布切れが結び付けられているのを見つけた。何かの目印かもしれないと思い、付近を探すものの変わったものはなにも見当たらない。その時、急に雷が鳴って激しい雨が降り始めた。マートは辺りを見回し、雨を避けるのにすこし離れた道の脇で窪みになっている程度の浅い洞窟に飛び込んだのだった。
だが、その中に入ると、マートは2週間程前にここに滞在したであろう人間の臭いに気が付いた。誰かが同じように雨宿りをして過ごしただけかもしれないが、気になった彼はこの1mほどしかない窪みの中を丹念に調べた。魔法感知の呪文も使う。すると、壁の一部がその呪文に反応した。土が分厚く塗りつけられていて一見何の変哲もない壁の中に魔法感知に反応するパネルが存在したのだった。
マートは注意深くそれに手を伸ばし触れた。すると、奥の壁全体が光り、次の瞬間、奥の壁に魔法の転移門が開かれたのだった。
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