260 依頼の精査
リサ姫の話によると、彼女がダービー王国のセドリック王子と別れ、水都ファクラでワイズ聖王国行きの船に乗ったのは4年前の春のことだったらしい。20年以上続いていた蛮族の侵攻によりダービー王国の王都は陥落しており、水都ファクラ、古都グランヴェルという2つの拠点を中心として抵抗を続けている状況だったようだ。
マートは、ハントック王国について聞いてみた。すると、その頃、既にハドリー王国は、ハントック王国を急に攻め併合を済ませていたのだという。ハントック王国は2国の間に挟まれながらも存在していた小国で、魔法技術が特に優れており、山間部で大軍に攻められにくいという立地条件を持ち、ハドリー、ダービー2国の間でバランスをとりながら生き残ってきた国であったらしい。
ところが、ハドリー王国はダービー王国が蛮族との戦いで不利な状況になったと見るや否や、騎士団を送り込みあっという間に占領してしまった。ダービー王国は王都の防衛戦を行っていた頃で、ハドリー王国の急な侵攻に抗議したものの、救援の騎士団はついに送れなかったのだった。
その後、ハドリー王国の魔法技術は格段に進化したらしかった。彼女も空飛ぶ絨毯の魔道具の存在については全く知らなかった。ハントック王国を占領した後、極秘裏に10年かけてその技術を完成させたのだろう。
これについては、マートが発見した魔石鉱山に置かれていた秘密の研究所で見たものと辻褄が合っていた。
リサ姫が到着して半年も経たず、ハドリー王国とワイズ聖王国は戦争状態となった。内海のワイズ聖王国側の都市も陥落したため、リサ姫はワイズ聖王国で焦燥にかられながら何もできない日々を過ごすことになった。
今回の講和で、ダービー王国の情報がようやく入るようになったが、すでに水都ファクラ、古都グランヴェルも蛮族の手に落ちていることがわかり、セドリック王子の行方も不明だったのだ。リサ姫は残された唯一の王族として、ダービー王国の復活という重圧に1人耐えていた。
「ライラ姫様、マート様を…聖剣の方々に兄の捜索のご助力をお願いできませんでしょうか?我が兄セドリックが存命で、抵抗勢力を指揮しているということであれば、我々ダービー王国の復興ははるかに早まります」
リサ姫はそう言ってマートの横に居たライラ姫の前で膝を屈めた。
「マート様、最後にセドリック様とお会いになった時はどのようなご様子だったのですか?」
マートはゆっくりと当時を思い返した。
「蛮族に占領された古都グランヴェルに動きが有ったので調査に来たと言っていたように思う。その時はたしか、南部の拠点を守りつつ耐え忍ぶのが精一杯と言っていたな。いまからだと2年前ぐらいだろう」
「わかりました。父上と相談しましょう。リサ姫様、少しお待ちくださいね。シェリー様、ジュディ様、マート様はご一緒にお願いできますか?」
ライラ姫とマートは、パーティ会場を抜け出し、すでに休息のために居室に帰っていた国王の許を訪れたのだった。
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「うむ、おそらくこのような事になることは予想できておったが、早速か。気をつけてもらいたい。聞いたが、そなたも聖剣の間に入ったのであろう。儂はそこに籠って中に描かれた壁画を何度も見た。儂の解釈では、聖剣の騎士は蛮族の王が力を持ち、人間の脅威となったときに現れるのものなのだと考えておる。そして、マート、そなたの力は強大だ。我らはそなた達を信頼して聖剣を預けた。だが、今後、そなた達の力を借りたいと言う者たちが多く現れるだろう。それについてどこまで応えるかは慎重に考えて判断せねばならぬと思う」
そこまで言って、国王は言葉を切り、4人の顔を順番に見る。
「今回のリサ姫の依頼に関しては、助力してもらって問題ないと思う。もちろん、マート、シェリー、ジュディの3人が良いと判断した上での事じゃがな。だが、今後、ますますこのような事は増えるじゃろう。助力を頼む者たちの間には自らの利益のために頼んでくるものがいるかもしれぬ。注意が必要じゃ。また、今まではライラも含めて儂も、我が国に利益になることについては十分に報いてきたつもりではあるが、今後は依頼によっては儂らが対価を提示することはできぬ場合が出てくる。今回のような場合じゃな。そのあたりはマートはしっかりしておるようじゃが、シェリーやジュディは注意したほうがよいじゃろう」
そう言われて、マートは軽く頷いた。シェリーとジュディはお互い顔見合わせて、恐る恐る頷く。
「すでにマートは高位貴族としての地位も所領もある。シェリーやジュディも少しは所領もあり、マートからの助力も受けられるじゃろう。となれば、なにも貰わなくても十分暮らして行ける。民を守るためにそなたらが納得さえすれば問題はないやもしれぬ。あとは、その力を安易に使われぬように注意するが良い。そのために儂やライラの名前を使っても構わぬ。もちろん、儂やライラもどうしても手助けが必要な時は無理でも頼むことがあるやもしれぬので、その時は少しは考慮してもらいたいがの」
そういって、国王は少し微笑んだ。
「わかった、王様。ありがとな」
マートはにやりと笑うと、そう言った。その口調にライラ姫が驚いた顔をしたが、王は何かを言おうとした彼女を制した。
「マートよ、今は良いが、皆が居る場では、言葉には気をつけよ。余計な軋轢を生むときもある」
「そうだな。気をつける。すまなかった」
「リサ姫の依頼はどうする?」
「セドリックの捜索は俺も受けてもいいと思う。どうせ古都グランヴェルは行かないといけない場所の一つだしな」
「なるほど。ではよろしく頼んだぞ。ハドリー王国との2国間の協定では、ダービー王国やラシュピー帝国への助力の戦費は後でそれぞれの国から貰うことにしようということになっておる。必要であれば間に入って交渉するがどうじゃ?」
「いや、そこまでは良い。どうせ、すぐには貰えないんだろ?」
マートたちは頷き、国王の居室を出て行ったのだった。
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4人が居室を出ていくと、しばらくしてワーナー侯爵が王の居室を訪れた。
「いかが思われましたか?国王陛下」
「話は通じるようじゃな。まぁ、良いのではないか?今回の領地も受け取ったようじゃし、民を守るという為政者としての仕事に関しては異論もないようじゃ。言葉遣いさえ注意すれば、有能な貴族としてやっていけそうじゃぞ」
「これで、ハドリー王国との国境近くは両方ともマート伯爵の土地が配置されることになりました。今回の成り行きからしてハドリー王国とすぐに敵対関係となることはなさそうですが、万が一そういう雲行きになっても、あのマート伯爵が国境に居るとなれば、彼の国も躊躇することでしょう。これで我々は安全に蛮族との戦いに集中できそうです」
「何事もないに越したことはないのだがな。あとはロレンスとライナスが蛮族相手の戦いを有利に戦いを展開してくれる事を祈るのみじゃ」
「マート殿が鹵獲した魔道具を返却した際に少し強引でしたが、半分ほどをハドリー王国から格安で分けていただくことが出来ました。それも考えればきっと期待に応えてくれるかとおもいます」
「なんとか早くラシュピー帝国を蛮族から解放してやりたいものじゃな」
読んで頂いてありがとうございます。
感想欄で発売のお祝いや購入したよとの声を頂きました。ありがとうございます♪マートたちはこれから蛮族との戦いになります。完結まではまだ少しかかりそうですが、がんばって書き続けて行きたいと思います。今後ともよろしくお願いします。
誤字訂正ありがとうございます。いつも助かっています。
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