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猫《キャット》と呼ばれた男 【書籍化】  作者: れもん
第33章 ハドリー王国

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258 講和成立 (世界地図あり)


「礼? なんか俺があんたにしたかい?」


 マートは不思議そうな顔をした。

 

「私は幼いころからずっとエイモスに監禁されていたのです。マート様のおかげでようやく彼から解放されました。まずはその礼を」


 そう言って、ネストルと名乗った男は立ち上がり、丁寧にお辞儀をした。

 

「ああ、そういうことか。まぁ、それは偶々さ。とりあえずよかったな」


「そして、次はお願いです。私を保護していただけませんか?私が自由に生きるにはあなたに保護していただくしか方法はない。そしてこれをお願いできるのはこの機会しかないのです」


 マートは首を傾げる。

 

「私の前世記憶はスフィンクスです。私の叡智スキルは様々な事柄を知ることができます。今回、マート様が出没するところをエイモスに伝えたのは私です。申し訳ありませんでした。ですが、マート様にエイモスを倒して頂くにはこれが必要だったのです。ずっと利用されてきました。そして、この機会を逃したら、また私は誰かに利用される事になります。その時にはまた軟禁されてしまうでしょう。それを払いのける力は私自身にはありません。その運命から是非、私をお救いください」


 そう言って、ネストルはその場に(ひざまず)いた。ネストルの目をマートはじっと見つめた。

 

 彼は今までの事を話し始めた。彼は下級貴族の生まれだったが、生まれながらに尻尾があり、魔人として半ば日陰者として扱われていた。だが、その彼が3歳だった時に事件があった。当時12歳であった第二王子であるグラント王子の背中に鱗があることが分かったのだ。王子の慰め役のような形で彼は王城に呼ばれた。その頃、同じように数人の魔人がグラント王子の為に集められた。その一人にエイモスも居た。当時彼はまだドラゴンの前世記憶を持つ男との関わりを公にはしておらず、魔人としての能力について詳しいという話であった。

 

 まだ幼いネストルは、求められるままにステータスカードをエイモスに見せてしまった。その結果、様々な場面でエイモスはまだ幼い彼の叡智スキルを利用して王子の側近として立場を強めていった。それから数年経って、グラント王子の親衛隊が創設され、エイモスはその隊長となった。その頃にはドラゴンの前世記憶を持つ男との関わりも明らかにしたが、その時にはネストルを利用して様々な事に実績を上げており、その立場は揺らぐことはなかった。ワイズ聖王国とハドリー王国との国交を彼の進言で断絶したのもこの頃だった。

 

 その頃から、ネストルは保護するという名目でもう外に出ることは禁止され、エイモスの屋敷に軟禁されてしまった。およそ20年の間、それが続いたのだ。その間、ずっと彼は自由になる方法を探ってきたのだ。彼の叡智スキルをもってしても、それはなかなか見つからなかった。他の実力者に助けを求めたとしても、保護者が変わるだけで今と同じような状況から抜け出すことができなかったのだ。そして、ようやく可能性がでてきたのがマートだった。しかし、彼が興味を持ってくれる可能性は少なかった。(スネーク)を介して会うこのタイミングだけが可能性がある。それが叡智スキルが出した答えだった。彼は、そのために、たまたまこの地に流れてきていた(スネーク)を自身の牢番となるように仕組んだらしい。それに関しても、ネストルは深く頭を下げた。

 

「そういうことか。他の人間から見ればすごい事ができるお前さんも前世記憶の犠牲者ってことなんだな」

 

 ネストルは頷いた。

 

「わかった、良いぜ。たしかにノーマンも今なら何も言えねぇだろう。俺の領地に連れて帰ってやる。したいことはあるのか?まぁ、いいや、(スネーク)も一緒に飲みながらこの後どうするか話そうぜ。(スネーク)、俺の街はだいぶ良い所だぜ。一緒に来て欲しいんだ。どうだ?」

 

 マートはそう言って、朝から開いている飲み屋を探したのだった。

 

----- 

 

 ブライトン子爵による和平の下交渉は苦労しつつも順調に進み、ライラ姫も数日後には合流して、ワイズ聖王国の国王の主張がほぼ認められた形で講和が成立することになった。湿地帯からブロンソン州に至る広大な占領地はワイズ聖王国に返還、賠償金として金貨25万枚が支払われる事となり、また、白き港都と別名を持つ内海に突き出た半島にある都市 オランプは国土が回復されるまでという条件付きで新生ダービー王国に貸与される事となった。


 新生ダービー王国といっても、ダービー王国から逃げ出してきた騎士たちはハドリー王国内に逃げ込んだ後バラバラになってしまっているようで、それらが集まるまでの間はワイズ聖王国の第2騎士団から一部の騎士を派遣しているので、実質ワイズ聖王国に貸与されたようなものだった。


 これらの条件をハドリー王国が呑むことで、ワイズ聖王国とハドリー王国との間の戦争は終結したのだった。

 

 また、新たに2つの国は共同で蛮族と戦うという同盟が結ばれ、主にラシュピー帝国に攻め込んだ蛮族はワイズ聖王国が、ダービー王国に攻め込んだ蛮族はハドリー王国がそれぞれ対応するが、必要に応じて協力をすること。そして、それらによって取り戻した土地はラシュピー帝国、ダービー王国に返還され、それに費やされた戦費については、返還をうけた2国から将来的に返還を求めるという合意がなされたのだった。

 

 そしてそれとは別に、ハドリー王国からマートに救国爵という特別な爵位が与えられることになった。これは一代限りの土地を持たない名誉貴族で、年に金貨5千枚の俸給と身の回りの世話をする三名の従士が派遣されるというものだった。これは、ハドリー王から、救ってもらった礼として受け取ってもらいたいと願われたもので、ブライトン子爵としても断るのは難しく、そのままマートに伝えられたのだった。


 挿絵(By みてみん) 


 後日のことであるが、ワイズ聖王国内でもこの一連の事柄について賞罰が定められた。アレン侯爵家は、爵位は下がらなかったものの、領地の半分は没収となり、ジュディには男爵位と、没収されたアレン侯爵領の一部からアレクサンダー伯爵家と地続きの新しい領地を与えられることになった。また、最大の功労者であるマートには今回の褒賞として伯爵位と、返還された領地のうちのほぼ東半分である紅き港都 ローレライを中心とした一帯が領地として与えられることになった。これはいままで子爵領のおよそ3倍以上の広さであり、ワイズ聖王国内でも屈指の豊かな土地であった。

 

 当初、こんな広さの土地は巡り切れないから無理だと抵抗したマートであったが、家内会議の結果、シェリーを子爵、パウル、ライオネル、アニス、オズワルト、アズワルト、ケルシー、ワイアットをそれぞれ男爵としてそれぞれ土地を任せる(アマンダはどうしても爵位は断ると言って辞退した)ことで納得したのだった。全体の領主はマートではあるが、それぞれの土地の担当としては以下の通りとなった。

 

 ローレライを中心とした地域:

  家令長 :パウル(男爵)

  家令  :ライオネル(男爵) (赤き港都ローレライの代官を兼ねる)

  第2騎馬隊 隊長:オズワルト(男爵)

  衛兵隊隊長:アニス(男爵)

  第1蛮族討伐隊:ワイアット(男爵)

 

 ウィードを中心とした地域:

  シェリー(ウィード子爵) 

  家令  :ケルシー(男爵) (救都ウィードの代官を兼ねる)(※ウィードは街から都市に昇格した)

  第1騎馬隊 副隊長(シェリーが聖剣の騎士として王都に居るので実質 隊長)

  /ウィード、グラスゴー地域衛兵隊隊長(兼務):アズワルト(男爵) 

  第2蛮族討伐隊隊長:アマンダ  

 

 ウィード子爵の称号はシェリーが引き継ぎ、マート自身はローレライ伯爵と名乗ることになったが、結局この2人は内政も軍事も皆に任せて、王都で聖剣の騎士及びその助力者としての仕事に注力することになったのだった。

 

 

読んで頂いてありがとうございます。


次回は章を改めます。


誤字訂正ありがとうございます。いつも助かっています。

評価ポイント、感想などもいただけるとうれしいです。よろしくお願いします。


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― 新着の感想 ―
うん?こいつ少女を殺したとか言ってなかった??
マートはウィード地域と隣接したアレクサンダー伯爵領を譲り受けて、アレクサンダー伯爵家には豊かなローレライ地域へ移ってもらうのが常識的な対応だと思うけど、マートをローレライ地域に行かせたいという作者様の…
[良い点] あれ、双子ワルトのどっちか、即死呪文で死んでなかったっけ…? 蘇生したのかな
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