255 激突2
「ちっ、2対1かよ」
マートはバックステップを踏み、ノーマンとの距離を取った。エイモスは、ノーマンの後ろでそれぞれの手で指を揃え貫手のような形をつくって構える。その手の背後に巨大な鶏のくちばしのイメージが浮かびあがった。
「鶏のような頭を持つ魔獣?」
訝しげにマートは呟きながらどう仕掛けてくるかと身構えた。
“マート、気をつけよ。そいつはコカトリスじゃ。触れると石化がくるぞ”
マートはぞっとした。すこしでも掠ると石化させられるやばいやつだ。
“手や足ならその部位が石化するだけですむが、頭や胴体は一発でやられるぞ”
部位によっては1度ぐらい掠っても大丈夫ってか、ぜんぜん救いにならねぇな。マートはそう思いながらさらに一歩下がる。ノーマンが右側に一歩踏み出した。エイモスはその左側に出て、二人は横に並んだ。
「石化かよ、たちが悪りいな」
「よくわかったな。降参するのなら、命だけは助けてやる。その代わり、儂の命令に逆らえないようになる呪いを受け入れるのじゃ」
「誰がそんなのを」
「くくっ、ノーマンは妻の命の代わりに受け入れたがな」
得意そうにエイモスがそう言った。その横でノーマンは顔色一つ変えず、マートの隙を伺っている。
「汚ねぇやつだ。様子を見に来ただけで、そろそろ退散しようと思っていたが、そういう話を聞いちまったらダメだな。もうちょっと頑張ってみるか」
マートは少し怒ったような顔をしていたが、2本の剣を軽く振り回しにやりと笑った。
「ほう、そんな余裕があるのか? 行くぞノーマン」
ノーマンがマートの足元を、エイモスがマートの胸元をそれぞれ狙ってくる。マートは地面を蹴り、後ろ向きにジャンプ回転しそれを避ける。
そこから少し離れたところでは、ニーナとハーマンの戦いがまだ続いていた。単純に手数で攻撃しても、ハーマンの魔獣スキルで硬化した皮膚は硬く攻撃は通らない。ニーナは少しでも装甲の薄そうな関節を狙って攻撃する形となっていた。
<影打> 格闘闘技 --- フェイント攻撃
<縮地> 格闘闘技 --- 踏み込んで殴る
<岩破> 格闘闘技 --- 装甲無効技
ニーナがなんどもサイドステップを踏んでフェイントをかけた後、一気に飛び込んでハーマンの膝の裏を狙って攻撃した。
<逆突> 格闘闘技 --- カウンター攻撃
だが、ハーマンは、それを狙いすましたかのように、飛び込んできたニーナに肘を振り下ろして一撃を入れる。ニーナがくるくると回転して地面に倒れこんだ。
「痛ったっ、もー、狙いすぎちゃったか。読まれちゃったね」
ニーナは仮面のずれを直しながら、よろよろと立ち上がる。すこしは衝撃は逃がしたものの、かなりのダメージを受けたようだ。
「んー、まだまだ僕も修行が足りないなぁ。次は強化していくよ」
『治療』
【肉体強化】
ニーナは一度後ろに身体を反らすと、勢いよく地面を蹴った。立っていた所、倉庫の屋根が軋む。
<崩撃> 格闘闘技 --- ダメージアップ
真正面から飛び込んでの正拳突き。ハーマンは拳を握り、腰を落とす。ニーナの攻撃を両腕で防いだ。ガキンと大きな金属同士がぶつかったかのような音。
「やっぱり硬いなぁ、これは結構時間がかかるかも。困ったなぁ」
言葉では困ったと言いつつ、ニーナの口ぶりはかなり嬉しそうだった。
「おいおい、ニーナ、こっちはちょっとヤバいんだけどさ。ちょっとだけで良いんだが、何とかならねぇ?」
その横で、マートは2人の攻撃から必死に逃げ回っていた。もうちょっと頑張ると言ったものの、なかなか反撃するような余裕がなさそうだ。
「ん?わかった、じゃぁ、これ」
『死霊術:操作』 ≪いでよ、ゾンビ≫
ニーナの身体から、今度は黒いもやのようなものがあふれ出し、足元に固まった。そのもやが晴れると、そこにはゴブリンのゾンビが2体現れた。
『死霊術:操作』 ≪戦え、ゾンビ≫
「なんだと?死霊術だと?」
エイモスとノーマン、マートまでもが驚いて一瞬動きが止まった。ゾンビは魔法か聖別された武器でなければ消滅させられない。ゾンビがノーマンとエイモスに襲いかかる。
それを見てエイモスは冷静にゾンビを攻撃して石化させた。ノーマンは目の前のゾンビを蹴飛ばしてとりあえず屋根から落とす。
ゾンビはすぐにやられたが、それでできた隙に、マートは呪文を唱えた。能力奪取でノーマンから奪った神聖魔法スキルによる呪文だ。
『呪い解除』
呪いの解除は熟練度による。解けるかどうかは賭けだった。だが、マートはノーマンがいつか自分の呪いを解く隙があることを狙って呪文の熟練度を上げていると直感していた。そして、それは予想通りだった。奪った神聖魔法スキルの呪い解除呪文で、無事ノーマンの呪いが解けた。エイモスが彼を従わせていた呪いだ。たまたまだったが、神聖魔法スキルが強欲の剣で奪えたとわかった時から、できるんじゃないかと狙っていたのだ。
「おっさん、目を覚ませ」
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