254 激突1
ニーナは、飛び出した勢いで、宙に浮いたまま右手突き、左脚回し蹴り、左手薙ぎ、右脚蹴りと立て続けに放つ。だが、ハーマンの全身は白銀色に輝いており、カキンカキンという甲高い音がしただけでニーナの攻撃は全く効いていない様子だった。ハーマンはニーナの攻撃を忖度することなく、両腕を振るう。ニーナは肘をそろえて防御するが、殴られた衝撃でそのまま吹き飛ばされた。くるりと回って着地する。
「さすが、ミスリルだね。傷1つつきやしない。面白いね」
その横で、マートは2本の剣を抜き、もう一人の男を待ち構えた。衛兵隊長の格好をしている男で、エイモスはノーマンと呼んでいた。
「その命、頂くっ」
その男は、ニーナとハーマンの戦いには目もくれず、まっすぐにマートに斬りかかった。マートはその剣を2本の剣で捌くのが精一杯だ。
「やるな」
【肉体強化】
マートは身体を回転させるようにしながら、2本の剣で攻め立てる。ノーマンの剣の腕は★4はありそうだった。もしかしたら★5かもしれない。彼は蛮族や魔獣の特徴をもっておらず、おそらく普通の人間だ。マートは魔獣スキルで強化をした筋力と敏捷度で押してみる。しかし、ノーマンは堅実にその力をうまく逸らせ捌いていく。
“向こうのほうが上手じゃぞ。能力に頼り、訓練をさぼっておったツケが回ってきたのじゃ。このままではこちらのほうが先に疲れるぞ”
得意げに魔剣が話しかけてきた。
“うっせぇ、こうすりゃどうだ”
『生命力吸収』
マートは例によって無言で呪術をつかった。だが、呪文はノーマンには効かない。魔法の素質が高いのだろう。
“ニーナが顕現しておる間、そなたの呪術は★3、生命力吸収が抵抗されたということは、すくなくとも素質☆3はありそうじゃな”
“じゃ精霊ならどうだ”
“ウェイヴィ、頼むぜ”
『氷結』
ノーマンの右足が氷に覆われた。ノーマンは驚愕の表情を浮かべつつバランスを崩し片膝をつく。その衝撃で氷は砕けたが、ノーマンの足は止まった。その隙を見逃さず、マートは左手の剣で薙ぐようなしぐさでフェイントを入れつつ、右手の剣を突き出した。剣はノーマンの右肩を深く突き刺さる。マートは跳ね上げるようにしてその剣を抜いた。ノーマンの傷口から血が零れた。“神聖魔術★4を強奪しました”と通知が来た。強欲の剣の能力だ。こいつは神官戦士だったらしい。それも★4というとかなりのものだ。だがこれで魔法が効くかもしれない。強奪したスキルは一度使うと持ち主に帰ってしまうが、使わない間は相手も能力を失ったままだ。
『治療』
ノーマンは傷口を抑えつつ、呪文を唱えたが何も効果が発生しない。顔を歪めながら左手で剣を持ち直しゆっくりと立ち上がった。右腕はだらんと垂れたままだ。まだ血は止まっていない。
「おのれ、まだだ」
<速剣> 直剣闘技 --- 2回攻撃
ノーマンは、少しふらついては居たものの、気力を奮い立たせ突っ込んで来た。マートは防御に専念し、2本の剣でそれぞれを受けた。肉体強化で筋力が上がっていたおかげか、かるくしびれる程度だ。だが、このままでは攻撃に移れない。そのうち、魔法で不意を突くのもできなくなるだろう。マートは少し焦りを感じた。
「どうして、エイモスを助ける。あいつは蛮族の手下だぞ」
「私は従う」
「ちっ、こいつは呪いをかけられてやがるのか。魔法適性が4あるくせによ」
そこに人影が屋根の上に飛びあがってきた。
「何をしている。さっさと片付けんか。空を飛ぶ魔道具をもっているのはそなたら2人だけなのだぞ」
エイモスだった。100人ほどの部下たちは昇階段を探して右往左往している。ノーマンは傷口を抑えながら片方の手にもった剣を構えている。ニーナは目にもとまらぬ速度でハーマンに拳を連続で打ち込んでいた。だが、ハーマンはダメージを受けた様子もなく足を刈る回し蹴りを放つ。ニーナは軽く飛び上がりそれを楽々と避けた。
「ハーマンとノーマンの2人が手こずるとはな。1人と思ったら、なるほど、英雄と呼ばれる陰には腕の立つ護衛が居るという事か。それも女とはな。いい身体をしているではないか。儂のものにしてやろう。ノーマン、フラフラするな。儂が手を貸してやる。二人でマートを先に潰すぞ。ハーマン、その間、その女の相手をしておけ」
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