252 尾行のおかえし
最初の2行は前回の最後に載せるべきだったような気もします。
(どうするか悩んでいたので、こっちになっちゃいました)
“まだ、戦争中だもんな。尾行はしてくるが、待ち伏せはできねぇみたいだし、よし、決めた”
マートは木の上でゆっくりと身を起こした。100人程の尾行者はそのまま放置し、幻覚呪文で姿を隠すとその場を立ち去った。
-----
その部屋の四方の壁と床と天井は石でつくられており、扉は鉄で補強された頑丈なもので外から開けられる覗き窓付き、窓は天井近くに小さいもので、こちらは鉄格子付きになっていた。
部屋の内装は暖かそうな濃いえんじ色の絨毯が敷き詰められており、置かれているベッドやソファといった調度品は高級品であった。壁の本棚にはびっしりと本が詰まっていて、暖炉には薪が暖かく燃えていた。真ん中のソファには華奢で青白い肌をした男が一人、身体を半ば横たえるような様子で座っていた。年のころは20代後半だろうか。身体は少女のように細く、金色の髪はきれいに手入れをされて背中まで伸びていた。服装は薄青色のチュニック一枚である。温めた赤いワインをゆっくりと啜っている。そして、その前には衛兵を3人つれた男が立っていた。こちらは40代後半のすこし肥えた男だ。黒い髪は短く刈られ、浅黒い肌には少し汗をかいていた。
「ネストル、本当に林に居るのか?」
男は、華奢な若い男にすこしイライラした様子で尋ねた。
「それは再び質問でしょうか? エイモス様」
ネストルと呼ばれた男はワインのカップをテーブルに置き、40代の男を見上げた。
「うむ、そうだ。あれから1時間、捜索隊はまだ見つけれておれぬ。もう移動したのではないのか?しかし、マートとやらは本当に剣の腕はたいしたことないのか?」
エイモスは矢継ぎ早に質問を投げたが、ネストルは慌てる様子はない。
「私の叡智スキルで調べたところでは素質は☆4、実力は★3です。まちがいありません。場所については少しお待ちください調べます」
ネストルは、座ったまま、目を閉じた。じっと身体を動かさず、30秒程が経過した後、ゆっくりと目を開ける。
「移動したようですね。88番通り88番地に居ます」
「ノーマン、88番通りとはどこだ? 捜索隊を向かわせろ。剣3程度なら簡単に倒せるはずだ」
「88番通りというと倉庫街です。行ってまいります」
側にいる衛兵のうち、一番立派な服を着ている男はそう答えると、部屋を出ていった。
「ネストル、なぜ、88番通りなのだ? これだけの人数でどうして捕まえられぬ」
エイモスはそう呟き、拳を握りしめた。
「私の叡智スキルで調べられるのは現状のみです。考えていることやそのようなあいまいな質問には答えられません」
ネストルは再びカップを持ち、赤ワインを一口すすった。
「わかっておるわ、この役立たずのスフィンクスめ」
スフィンクスと呼ばれて、ネストルはゆっくりと微笑んだ。
「役立たずと思われるのであれば、この牢からそろそろ解放してください。外出できない生活にはもう飽きました」
「だめだ。そなたの叡智スキルは誰にも知られるわけにはいかぬ。欲しいものは何でも買ってやろう。それとも女が良いか? この間の少女はどうだった?」
その言葉にネストルは首を振った。
「もう女性は要りません。あの後、彼女を殺しましたよね」
エイモスは苦笑を浮かべたが、何も言わなかった。1時間ほど経ち、ノーマンと言われた男は帰ってきた。エイモスに耳打ちする。
「88番通り88番地は国の魔道具製造施設の一つでした。主に空飛ぶ絨毯を作っている場所です。そこの警備担当の衛兵たちは全く侵入に気づいておらず、魔石や魔道具はすべて持ち去られており、マートの姿は見つかりません」
「くそっ!」
エイモスは床を蹴った。
「ネストル、今、マートはどこだ?」
彼はまた、しばらくの間、目を閉じた。
「66番通り66番地です」
「……そこも魔道具製造施設です」
「おのれ、逃げられてばかりではどうしようもないではないか。ノーマン、他に王都に魔道具製造施設はいくつある」
「おそらく2つかと」
「どうせ、66番通りに向かってもすでに逃げておるだろう。コソ泥め。ノーマン、残った2つのうち、ここから近いのはどこだ? 捜索隊をそちらにむかわせよ。我等も向かうぞ。念のためにハーマンも呼ぶのだ」
「は、かしこまりました」
エイモスたちは慌ただしく去っていった。その後、牢番らしい男がネストルの部屋の扉にしっかりと鍵をかけた。その男の背中と腕は緑色の鱗に覆われていた。
読んで頂いてありがとうございます。
誤字訂正ありがとうございます。いつも助かっています。
評価ポイント、感想などもいただけるとうれしいです。よろしくお願いします。




