248 探索3
花都ジョンソンから西に行ったところにある街の名前をブリームと書いたりブルームと書いたりしてしまっております。申し訳ありません。ブルームに統一しようとしておりますが、一部地図も含めて訂正に時間がかかっております。追って訂正しますので、少しの間お待ちください。
マートとモーゼルが王都の邸宅に戻り、自室から出て食堂に下りていくと、シェリーとアレクシアはジュディを連れて帰ってきていたようで、3人仲良く焼いた栗を食べながらテーブルに座って仲良くお喋りをしていた。
「マート殿、どこに行っていたのだ?部屋を何度ノックしても返事はないし、だれも居る気配はなかったのだが」
2人に気付くと、シェリーはその2人の顔を見比べなが尋ねた。
「そうよ、猫、どこに行ってたの?」
「部屋には誰の気配もありませんでした。どこに行かれてたんですか」
ジュディとアレクシアもニコニコしながらそう尋ねる。
「ん?ああ、ちょっと出かけてたんだ。モーゼルの身体ってすげぇんだぜ?」
そのマート本人は特に気にした様子もなく、そんなことを言ったが、モーゼルはあわててマートの後ろに隠れる。
「身体が凄い……?!」
マートの言葉に三人とも真っ赤になり、慌てた様子で顔を見合わせている。
「いや、ああ、それは言っちゃいけねぇんだった。とりあえずドアノブで新しいところを開けてな」
魔獣スキルについては詳しいことは言わないのは蛮族討伐隊やマートたちの間での不文律だ。この3人相手でつい言いそうになったマートだったがそこは思いとどまった。3人は違うことを聞きたい様子だったが、マートはそれには構わず新しく見つかった研究所のような所の説明を3人にし、とりあえず明日は皆で行こうとマートから誘われて渋々といった様子だったが了承したのだった。
「マート様、ご歓談のところ申し訳ございません。お客様でございます。ダービー王国のリサ姫です」
その時、執事がマートに近寄り耳元で来客を告げた。ダービー王国のリサ姫とは、エミリア伯爵のパーティで出会って以来、王都に居るときには頻繁に交流があった。
「リサ姫が来たらしい。通していいか?」
「ど、どうぞ……いいわよ」
ジュディが答えた。4人ともリサ姫の名前は知っているものの、話したことはなく、人となりは知らない様子だった。リサ姫はつやつやとした栗色の長い髪をきれいに整え、桜色のドレスでメイドを二人つれてやってきていた。一人は大きめのカゴを持っている。
「よぉ、久しぶりだな。リサ姫。年明け以来か」
「はい、ようやく王都に来られたと聞いて、飛んでまいりました」
そこまで言って、彼女は4人の視線に気が付いた。
「リサ姫、紹介するよ。うちの隣の領地、アレクサンダー伯爵の令嬢でジュディ、彼女は魔法の達人だ。そして、うちの騎馬隊の隊長で、聖剣の騎士に選ばれたシェリー、うちの領で俺の補佐官を務めてくれてる騎士のアレクシアと蛮族討伐隊のモーゼルだ」
「リサと申します。ダービー王国よりワイズ聖王国に救援を願いに参っております」
お互い彼女たちは少し遠慮するような様子だ。
「リサ姫には、故郷の大陸東部が産地の農作物の育て方や調理方法、保存方法といったものを教えてもらってるんだ。領地をもらった時に、うちの内政官たちがいろいろと変わった農作物を手に入れてな。湿地帯でよく育つものや海辺で塩害に強いものがあるらしいんだがなかなか難しくてさ。すげぇ助かってる」
「私たちこそ、随伴団の者も含めて大陸東部の故郷の味を提供していただいて非常に喜んでおります。故国を離れて早3年。今では連絡すらとれていないのが現状です。見捨てられてもしかたない我等ですのに、マート子爵様には良くして頂いております。今日は新しくダイズを発酵させて作ったソースと、お米でつくったお酒を味見していただきたくてお持ちさせていただきました」
4人はお互い顔を見合わせ、リサ姫は気づかれないようにこっそり小さなため息をついたのだった。
-----
翌日になって、マートはジュディ、シェリー、アレクシア、モーゼル、そして海辺の家からバーナードとローラも連れ出して魔法のドアノブをくぐり、研究所のように思われる新しい場所に向かった。マートとモーゼルは皆に一通り説明をすると、バーナードとローラは研究室らしき場所の設備を調べてもらい、マート自身はジュディとアレクシアと一緒に新たな転移装置や開かない扉について調べ始めた。こういうのがあまり得意でないシェリーは、モーゼルと共に食堂の調査と称して、料理や飲み物の出る魔道装置を試したり、転移門型の転移装置から移動できる鳥の営巣地のある島を探検しに向かったのだった。魔石生成装置はまだ動いており、マジックバッグに入れて数を確認すると、すでに4000個程の魔石が引き出しの中に溜まっていた。
その後、昼過ぎになって、彼らは、食堂に集まり、魔道装置から食事を取り出して舌鼓を打ちながら情報交換をおこなった。
「転移装置のパスワードについては、打つ手なし。どこかにメモが残ってないか調べるしかないけど、それらしいものは全くないわ。今のところお手上げね。あと、扉の方は、扉そのものもそうだけど、警備室と思われるパネルも動かないのよ。魔石をあててみたけど、エネルギーが不足してるって訳ではないみたい。どちらを動かすにも何かの資格か権限が要るのではないのかしらというのが、私の印象ね」
ジュディがそう言いながら、チーズや肉、野菜などを挟んだパンを上品にちぎりながら口に入れている。
「冒険者ランクによって、仕事の紹介してもらえないとか、そんな感じか?」
首を傾げながらマートが尋ねる。
「それに近いわね。転移装置から突き当りのところにあったパネルと料理を出すところのパネルだけが動いているから、そちらになにか手がかりがないかなって思ってる。でも、パネルに浮かび上がってる言葉がわからなくて、翻訳をしてもらいながらだから、時間がかかりそう。今日一日じゃたぶん無理ね。それに、私も魔法庁の仕事があるから、こちらにかかりきりというわけには行かないわ」
「なるほどな。シェリーとモーゼルは何か見つかったか?」
シェリーは丸い半球状のものをスプーンで少しずつすくって味わっていた。
「鳥と糞だらけ。あとは、海は魚や貝、エビたちの宝庫だが、それは海辺の家の海岸とはあまり変わらない。いやぁ、これは冷たくて甘くておいしいな」
「そうか、バーナードたちの方はどうだった?」
バーナードは巨大な身体を揺すりながら、齧っていたリンゴのような果物を慌てて飲み込んでマートの方を見た。茶色い髭だらけをくしゃくしゃにしてにこやかな顔だ。
「すごいよ。いつもなら魔道具の魔道回路を描くのに魔石を粉にしたり、線を引くのに前のインクが乾くのを待ったりとかしないといけないんだけど、壁際にあった斜めにせり上がるテーブルには、専用の魔石の粉やインク、乾かすための粉、必要に応じて綺麗に平行線が引ける定規、拡大鏡といったものも現れてどんどん魔道回路が描けるんだ。あれを使えば、今の倍、いや三倍ぐらいの速度で魔道回路が描けるよ」
「引き出しの方もすごいです。魔道回路を描くための特別に絶縁した金属板や固定するための小さなネジといった道具類が入っていて、ああ、こういう事をすれば、魔道具が作りやすいというような工夫がほどこされたものが盛りだくさんなんです」
そう付け足したのはローラだ。顔の半分が木の色の肌で、耳の上に枝が伸び、長く伸びた髪は黄緑から濃い緑といった感じのグラデーションになっていた。
「今、海辺の家で生活している魔道回路を描いているのは私達の他に5人いますが、是非、こちらに引っ越しをさせてください。ここには食堂もあるようなので、身の回りの世話をしてくださっている方たちの負担も少なくて済みそうです」
マートは少し考え込んだ。
「わかった。だが、ここはまだ開けれない扉、そして転移装置もあるから、いつ誰が侵入してくるかわからないし、誰かが潜んでいるかもしれない。そういった意味で安全かどうかわからねぇ。俺が居るときの昼間だけ使うのなら良いが、あとは、ハドリー王国の親衛隊の調査をしているアマンダかワイアットの手が空いたら護衛させるからそれまで待ってくれ」
「それなのですが、一つ試したい事があります。研究室の天井近くに一つ、何に使っているかわからない箱がありました。1辺が10cm程の小さな箱です。なんだろうと思って、調べてみたのですが、その中の魔道回路が、以前調べたことのある長距離通信用の魔道具とよく似ているのです」
ローラの言葉にマートは首を傾げた。ローラは話を続ける。
「もしかしたら、長距離通信用の魔道具の中継をする魔道装置かもしれません。海辺の家に以前見つけた3枚の長距離通信用の魔道具があります、それを持ってきて、接続できるか試したいのです。もしそれができるのであれば、異変があればすぐにマート様に知らせることができるようになります。それが使えるのなら、それを持ってこちらに引っ越しというわけには行きませんか」
「へぇ、それはいいな。是非試してみようぜ」
読んで頂いてありがとうございます。
誤字訂正ありがとうございます。いつも助かっています。
評価ポイント、感想などもいただけるとうれしいです。よろしくお願いします。




