247 探索2
研究室らしき部屋を出て、マートは続く扉を順番に開けていく。最初にあったベッドもある個室のような部屋がさらに5つ続いた。そのあとは突き当りに扉があったが、最初の開け方が分らない扉と同じようにこれも全く反応がなかった。
「さて、どうするか。開かない扉が2つと、転移装置が3つ……」
開け方のわからない扉の前で、モーゼルと二人考え込みながら、マートがそう呟いたとき、遠くでカタリと何か硬いものが落ちたような小さな音がした。
「ん?」
だが、モーゼルには聞こえていなかったようで、マートの声に彼女はよくわからないというような顔をした。マートは、周囲を注意深く見回しながら、音のした方角をさぐる。こういう狭いところだと反響したりしてよくわからないこともある。だが、来た方向なのは間違いないようだった。マートはモーゼルをかばいながら、音のした方角にむかって移動をし始めた。
カタリ
マートにはまた音が聞こえた。かすかな音なのでモーゼルは聞こえていないだろう。良く判らない様子でマートのうしろを不安げについて歩く。その音は、およそ10秒間隔と規則的だった。個室と思われる部屋の前を通り過ぎ、つぎは研究室のような部屋だ。カタリとまた音がした。その音はその中から聞こえてきたようだった。誰か居るのだろうか?
ゆっくりと扉を開け中に入る。人影はなかった。再びカタリという音。その音は、引き出しの並ぶ棚の方から聞こえていた。マートは不審に思いながら引き出しを順番に開けていく。すると、魔石の引き出しに、15個の魔石が入っていた。
??
先程、ここに入っていた魔石は全部マジックバッグに入れたはずだった。どうして、ここに15個も残っているのだろう。マジックバッグに入っている魔石の数を確認する。5万241個、この引き出しから魔石を全部取り出した時から変わっていなかった。では、この15個の魔石はどこから出てきたのだ?
カタリ、コロコロコロコロ
また音がして奥から一個魔石が転がってきた。今引き出しの底にある魔石に並ぶ。全く同じように見える新しい魔石。形も大きさも同じだ。
「なぁ、これって……」
“マートよ、識別してよいか?”
“ああ、してみてくれ。これって……”
魔剣がその引き出しとそのおそらく魔石が転がりだしてきた穴を識別した。すると、魔剣がすこし興奮しているような様子で早口で念話を送ってきた。
“これは、魔石の生成装置……のようじゃ。どのようにして魔石を作り出しているのかわからぬが、最盛期には魔石を作り出すことが出来たというのか。儂も初めて知った。驚いたわい”
こんなに粒がそろってるんだから、たしかに可能性は感じていた。だが、作りだせるというのはすごい。マートは頷いた。
“音の間隔からすると、10秒に一個、ということは、一時間で360個、1日で8640個……”
魔法庁が出来てほぼ2年、マートがその魔法庁に魔石を提供したのは魔道具の対価や魔道具作成の技術提供の礼とした渡したのも含めておよそ10万個だ。魔法庁はマート以外にまとまった数の魔石の入手ルートはなかったはずで、もしそれだけの数が生成できるのであれば、一つの国の年間の魔石需要をたった6日で賄える計算になる。とは言え、魔石も何もないところから作れるわけではないだろう。なんらかの材料があるはずだ。ただし、このようなことが出来るのであればピール王国の最盛期には魔石が安かったという話も頷ける。
“いつ出てくるのが止まるかわからねぇぜ”
“そうじゃの”
マートたちは、その引き出しをじっと見た。また新しい魔石が奥から転がりだしてきた。発生が止まる様子はない。どうやって作られるのかは気になるがこれをじっと見ていても仕方ないだろう。その仕組みはあの開かない扉の向こうにありそうな気がする。
“少し間を開けて見に来るしかないな。しかし、ある程度の魔石は手に入った。魔剣よ、識別呪文はまだ使えるか?”
“いや、今日の分はあれで全部使ってしもうた”
ということは、開かない扉は次の機会にするしかない。マートはそう考えて、引き出しは戻し、モーゼルと一番最初に来た部屋にまで戻ることにした。
マートが来た魔法のドアノブが開けた転移門はそのまま開いたままだ。3つある転移装置のうち、1つは倉庫棟にあったものとよく似ていて、足元に丸く文様のようなものが描かれている。マートはこちらのほうを確認することにした。
「じゃ、モーゼル、大丈夫だとは思うけど、何かあったら、魔法のドアノブから元の部屋に戻るんだ。いいな」
「わかったよ」
「じゃぁ、始めるぞ。瞬間移動装置起動」
マートの言葉に、三つの装置とも、装置の縁が赤く点滅した。
“エネルギーが不足しています。補充してください”
不思議な念話が3回、続けてマートに届いた。おそらくそれぞれの装置からだろう。どれも壊れているわけではなく、エネルギー不足で止まっているだけのようだった。まずは一番手前にあった倉庫棟によく似たタイプのものに手に入れたばかりの丸い魔石を押し当てる。赤がオレンジ色に変わり、魔石は砂に変わった。
“エネルギーが不足しています。補充してください”
1個ではやはり不足だったようだ。4つ使うと点滅している光が緑色に変る。以前は20個だったが、今度つかったのは少なくて済んだ。
“エネルギーが充填されました。起動確認中……起動確認中……障害物を探知。撤去します。……障害物を探知。撤去します”
このあたりも以前と全く同じだ。しばらく待つ。
“移動先が確保されました。利用可能です”
マートは丸い円が描かれた床の上に立った。
“パスワードをどうぞ”
マートは天を仰いだ。そういえば、パスワードが必要だった。倉庫棟で使ったパスワードを試しに使ってみる。
「PASS314159265359」
“パスワードが違います。パスワードを仰ってください”
マートは苦笑を浮かべながら装置から降りた。他の転移装置も同じだろうか。残る二つは転移門と同じようなタイプだ。島にあったのは、ずっと開いたままになっていたので、もしかしたらパスワードは要らないかもしれない。マートは、そのうち一つに魔石を押し当てる。赤がオレンジ色に変わり、魔石は砂に変った。
“エネルギーが不足しています。補充してください”
マートは続けて点滅している光が緑色に変るまで魔石をつかう。今回は3つで済んだ。
“起動します”
壁に2m四方ほどの白い枠が浮かびあがった。その内側も白く曇ったようになり、やがてそこに浮かんだのは上半分はおそらくどこかの島の風景、目の前にはたくさんの海鳥のようなものが居り、巣には卵の殻とたくさんの雛。下半分は白と茶色の混じった土だった。海岸沿いのどこかで、転移門の出口は半分土に埋もれているらしい。風景は徐々に鮮やかになっていく。
ピシュゥ……
音がして、完全に向こうとつながったようだった。そのとたん、いきなり土が大量に流れ込んで来た。と思ったら、すぐに目の前の転移門が真っ白になった。マートたちの足元には大量の土。
“大量の質量を感知しました。安全のために転移門の起動を中止しました。再度起動しますか?”
転移門の先から砂や水が流れ込んでくるときには安全のために止まるらしい。これは、魔法のドアノブも同じだろうか。マートは足元に流れ込んで来た土を見た。茶色と白は鳥の糞のようだった。底のほうはそれほどでもないが、上になっているものは新しいものらしく臭い。途切れる直前にみたときも海鳥がたくさんいた。何千という数だ。わたり鳥の営巣地になってるってことだろうか?
どちらにしてもパスワードを要求されなかったので、利用可能らしい。土もそんなにたくさん流れ込んでくるわけでもなさそうだ。
「再起動だ」
マートはそう装置に向けてそう言った。ふたたび、白い枠がでて、海の風景になる。今度も土がなだれ込んできたが、やはり大した量ではない。マートは土をかき分けるようにして転移門を越え、向こう側に出た。モーゼルも、臭いとぶつぶつ言いながらついてきた。
そこはどこかの島だった。山などなくなだらかな平地が続いており、島の全周は、2キロほど。ちょっと飛び上がって見回せば、島全体が見渡せるほどだ。その外側にはサンゴ礁と思われるものが広がっており、白い波がたくさん見えた。たくさんいる鳥は海辺の島でも見かけたことのある種類が多く、一番多いのは体長は1mほど、羽を広げると3m近くある大きな鳥だ。マートが近づいても逃げようとせず、雛などは食べ物が欲しいのか逆に近づいてくる。そのような鳥の営巣地が島の半分ほどを覆っているようで、その領域は薄茶色と白いもので覆われ、それ以外は黒いごつごつした岩が転がっているだけの、なにもない島だった。木々などはほとんどなく、あとは草が地面を覆っていた。
「ここはどこだろうな?」
「んー、どこだろうね」
マートとモーゼルはお互い首を傾げあった。マートは高く飛び上がり周囲を見回す。しかし、周りには島影一つなかった。海辺の家より暑い気がする。夜になって星を見ればもう少し位置などの情報が取れるだろう。残念ながら宝物らしきものは見当たらなかった。
マートは転移門をくぐり、もとの研究所らしきところに戻った。そして、最後の転移装置に望みをかけて先ほどと同じように魔石を使ってエネルギーを充填する。先ほどと同じように3つで充填が完了した。
“起動します。パスワードをどうぞ”
……残念ながら、こちらの転移門はパスワードが必要らしい。マートたちは今日の冒険をここで切り上げ、帰る事にしたのだった。
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