245 新しい場所
章タイトルは変わるかもしれません
前話、10時ぎりぎりで少し書き足し、更新を掛けてしまいました。公開時間10時に即読まれている方は、タイムラグで更新前を読まれているかもしれません。今話には影響ありませんので、後でも結構なのですが、そのような方がいらっしゃれば念のため再読をお願いします。
「ふぁあああ、良く寝た」
国王にかけられた呪いが解けた後、マートはそのままシェリー、アレクシア、モーゼルと共に王都の邸宅に戻っていた。邸宅を守ってくれていた執事やメイド、門番たちをねぎらった後は、倒れこむようにして眠りにつき、目覚めたのは翌日の昼だった。
・・・・
“おはよう マート ずっと忙しそうだったな”
“おはよう ねこ もっとのんびりしないと つかれちゃうわよ”
精霊たちと会話をしながら身支度を整えていると、モーゼルが扉をノックした。
「マート、おきたー?」
マートは扉を開けてモーゼルを迎え入れ、ベッドの脇のテーブルに座らせた。自分は着替えながら、ウェイヴィが入れてくれた香草茶をモーゼルに勧める。
「ああ、起きた。寝たのは夕方だったのに、起きたのは今、すげぇ寝た」
「あはは、シェリーとアレクシアの2人はアレクサンダー伯爵のお屋敷にジュディを訪ねて出かけてるー。真理魔法を教えてもらうんだって」
「おお、そうか、それは良いかもしれねぇな」
シェリーが聖剣の騎士であることが判明した後、マートは彼女に海辺の家に置いてあった未使用のステータスカードを与えてステータスを調べてもらった。問題のない範囲で彼女に聞くと、剣の素養(☆)が6、能力(★)が5である他に、真理魔法が☆4という事だった。調理が1しかないとかブツブツ言っていたが、それはあえて無視しておく。今から考えてみれば、彼女はヒュドラが使う魔法やプルデェンスが使った魔法も効かなかった。その時に素養があると気が付いてもよかったのだ。
シェリーは今朝になって同じく真理魔法の素養が☆2であるアレクシアと一緒に、魔法を習得できるものか、もしできるのならどうすれば良いのかというのをジュディに相談しに行ったらしい。
「だから、今日はマートと2人きりー、何かいい事しよ?」
モーゼルがそういって、腰をくねらせしなを作った。
「あはは、そうだなぁ、たまにはドワーフのところに顔を出すか、エルフや人魚たちもいいな。ドワーフはこの間、新しい酒が出来たって言ってたし、エルフや人魚も最近は行くたびに変った料理とか出してくれる。面白いぜ?」
「ぇーー ふたりっきりでが良いー」
「ふたりっきり?」
マートは考え込んだ。狩りなど行っても、モーゼルはつまらないだろう。彼女は海辺の家で研究していたことも知っているし、俺が魔獣スキルを持っていることも知っている。
「じゃぁ、2人で知らないところに行ってみるか?」
「知らないところ? 楽しそう。うん、行く行くー」
マートが思いついたのは、魔法のドアノブでまだ行先がわからないところに行ってみるという事だった。今まで、ダイヤル1がドワーフの居る廃棄されたミスリル鉱山、ダイヤル2はダービー王国の古都グランヴェルに近い地下遺跡、ダイヤル5がヨンソン山にある温泉、ダイヤル8が海辺の家というのはわかっているが、それでも4/10しか行けてない。何か面白い物で見つかるかもしれない。
モーゼルに魔法のドアノブの説明をした後、マートはダイヤルを気分で7にあわせて、ドアを開いた。
ダイヤル7の繋がっている先は、石の壁だった。それも海辺の家や温泉にあるのと同じ作り方の良く判らない継ぎ目のない白く綺麗な石の壁。これはマジックバッグに収納できるだろうか……。マートは試してみたが、大きすぎるのか、それとも地面とくっついているのか理由はわからないがマジックバッグに取り込むことは出来なかった。厚みがかなりあるようで、壁の向こうを透視もできない。
「んー、だめだ、次の番号にしよう」
マートが残念そうに扉を閉めようとすると、ちょっと待ってとモーゼルが止めた。壁と扉の隙間に指を入れてどれぐらいの幅があるのか確かめている。
「10センチぐらいかな?たぶん行けるよ」
「は?」
マートの目の前で、モーゼルは驚くべきことに壁と扉の隙間にするすると入って行った。当然頭の大きさにしても身体の厚みにしてもそれ以上あったはずだが、隙間にするりと平たくなって入り込んだのだ。
「ちょっと待っててねー」
気をつけろとマートは声をかけると、壁の隙間からモーゼルは伸ばした手を振り奥に入って行こうとする。その手にマートがこれを持っていけと魔剣を預けた。魔剣とは念話が通じる。一人よりましだろう。モーゼルは角を曲がったらしく姿は見えなくなり、マートは手を地面について彼女が歩く振動を感じ取っていた。
「広いところに出たよー、おっきい四角い岩の塊が壁沿いに4つずつ並んでる大きな部屋になってて、左に扉」
壁の向こうに居るモーゼルの声が聞こえた。
「どうだ?何かあるかわかるか?」
“魔剣よ、どうだ? この岩をなんとか出来そうか?”
マートはモーゼルと魔剣の両方に尋ねる。魔剣と念話の様なもので会話ができるのはマートだけだ。それも10mも離れると繋がらなくなる。
「んー ちょっと待ってね」
モーゼルは扉を開けて部屋を出たようだった。付近を歩き回っているようだ。
“転移を受け入れるための部屋のようじゃな。これはかなりセキュリティが厳しいぞ。転移装置を完全に物理的にシャットアウトするために岩の四角いブロックを置いておるのじゃろう。ブロックの上の四隅にぶら下げる形でシリンダーが1本ずつ繋がって上下させる仕組みになっておるようじゃな”
マートはセキュリティ? シリンダーってなんだ? と思いながらとりあえず上下させる仕組みがあるなら、俺の前のブロックを動かす方法をしらべてくれと魔剣に念話を送った。
しばらくの間魔剣からの念話もなくなった。モーゼルの足音からすると、おそらく念話ができない距離まで離れてしまっている。突如、ピーッ ピーッという高音が鳴りだし、隙間から赤い照明が点滅し始めた。何かの警告音のような感じだ。胸騒ぎがする。
「おい、大丈夫か? モーゼル!」
「きゃーっ、何か変なの触っちゃったーーーー?」
その声は遠い。100m以上離れているだろう。ガシャンガシャンとあまり重たくなさそうだが金属製の何かが床に落ちた音がした。続いて地面をキュルキュルと掻くような音がする。音からすると、10個だった。何が起こっているかわからないマートとしては非常に不安だ。その10個の物体は続けてキュルキュルという音を立てながら移動し始めた。モーゼルを追いかけているっぽかった。何かモーゼルが感知罠にひっかかって、猟犬的ななにかが彼女を追いかけているのかもしれない。モーゼルは大して戦闘能力を持っていない。もしそうなら非常に危険だ。
「やだ、ちょっと、マートの剣、どこに行くの?」
モーゼルの半ば悲鳴のような声が聞こえた。剣がどこに行くというんだ。パシュパシュとかいう音がして、モーゼルの悲鳴のようなものが聞こえた。頼む、モーゼル、はやく逃げて来い。
“自動駆動型の警戒装置じゃ。魔法無効の魔道具で止まる。ただし数が多い。あるだけ投げよ。儂が念動呪文で渡す”
かなり言葉は省略されているが、自動駆動型ということは、勝手に動くゴーレムみたいなものか。ゴーレムならたしかに魔法無効の魔道具で止まるかもしれない。相手は10体、有効にしてそいつに投げつけて動きを止めるって作戦をしたいわけだな。
マートは急いで腰のポーチ型のマジックバッグを急いで外すとモーゼルが進んで行った隙間に放り込んだ。マジックバッグが途中から魔剣の念動で宙を飛ぶようにして移動していく。
「モーゼル、そのポーチを受け取れ。中から魔法無効の魔道具を取り出して有効にして、その動くやつのいるところに投げてぶつけるんだ。それでそいつは止まるかもしれない。有効範囲は3m、有効時間は10分だ。相手の攻撃も魔法ならそれを使ってれば防げる」
マートは叫ぶ。わかったーという応答と、きゃっ ひっ とかいう小さな悲鳴が何度も聞こえる。
しばらくの間、バタバタと暴れたり、悲鳴はきこえたりしていたが、やがて静かになった。
「やったー、全部動かなくなったよ」
嬉しそうな声が聞こえる。マートは胸をなでおろした。
“最初に触れて、青く光ったパネル、四角い絵のようなところまで行き、儂の言うとおりに操作をするように伝えるのじゃ。適当に触るとまた同じようなことになるから気を付けよと伝えよ”
マートは魔剣の念話をそのまま伝え、しばらくややこしい操作指示が続いた後、ようやくマートの目の前の岩の上からプシューという音が聞こえ、徐々に岩が上がり始め、マートは岩があがったことにより出来た床の隙間に身体を押し込み、這いつくばい、途中から転がるようにして岩を抜けた。岩の向こう側は照明が付き明るい。岩を抜け、体を起こすと、すぐ近くに魔剣が宙に浮いていた。
そこは、20m×20mほどの大きな部屋だった。仮にマートの魔法のドアノブが開けた扉がある壁の南側だとすると、南側の壁におよそ5m×5m×5mほどの岩が4つ、徐々に上がり、2mほどの高さできれいに並んで止まった。天井から金属の太い棒で4箇所ぶら下げられた形になっている。それは北側も同様だ。東側に大きな扉があり、そこは開け放しになっていた。部屋は、机やいす、衝立などが乱雑にひっくりかえっており、その真ん中に、モーゼルが、傷だらけで、でも嬉しそうにマートのほうを見ており、岩の下をくぐって抜けてきたのを見て駆け寄ると、ぎゅっと抱き着いた。
「やったー、いっぱい頑張ったよ。いたたた、ご褒美、ご褒美ー」
そう言いながらモーゼルはさらにぐいぐいと身体を擦り付ける。
「わかった、わかった。よくやった。さすがはモーゼルだ」
マートは頭をなでてやる。モーゼルはすごくうれしそうだ。
部屋のほぼ真ん中に黒くて四角い金属の箱の左右にはみ出る形で車輪の付いた30センチほどのモノが10機転がっていた。魔剣の言う自動駆動型の警戒装置だろう。車輪で動くのだろうか。マートがそれを見ているのに気が付くと、モーゼルが名残惜しそうに身体を離した。
「あれが、天井あたりから、ガシャンガシャンって落ちてきたのよ。で、車輪が動いて、私を追いかけてきたの。テーブルとか椅子とかを盾にして逃げ回ったわ。隙間に逃げ込みたかったけど、隙間に入るとそんなに早く移動できないし、その間にぴしぴしって痛めつけまくられそうだから、できなかった……」
モーゼルは血が流れている膝や腕、服をめくりあげて赤くなっている場所を見せた。
『治癒』
マートはモーゼルが痛がる場所に手を当て、順番に怪我を癒していく。
“警戒装置だけあって、一撃で死亡するようなダメージではなかったのが救いじゃったな”
“その警戒は解除されたのか?もうその警戒装置は動かねぇのか?”
“ああ、もう大丈夫じゃ。警戒装置は解除した”
読んで頂いてありがとうございます。
ライラ姫たちはもちろん、シェリーやジュディも真剣にいろいろとやっているのですが、マートはマイペースな模様です。
クラークの三法則の3に十分に発達した科学技術は、魔法と見分けがつかない。とありますが、逆もまた然りということではないかと思いこう言う風にしてみました。
誤字訂正ありがとうございます。いつも助かっています。
評価ポイント、感想などもいただけるとうれしいです。よろしくお願いします。




