241 聖剣の騎士
シェリーが聖剣に近づいていくが、細い光の線はずっとシェリーの胸の中心を差し続けた。彼女は聖剣を持つライラ姫の前に跪いた。
「マート様、セオドール様、ジュディ様、私は彼女をよく知らないのです。どのような方か教えていただけますか?」
ライラ姫が、三人の顔を見て問う。
まず、セオドールが口を開いた。
「彼女の家は先祖代々2等騎士としてアレクサンダー伯爵家に仕えており、剣の腕は武勇の誉れ高いアレクサンダー伯爵家の中でもトップクラスで、伯爵家の中では姫騎士と呼ばれております。城塞都市へ派遣された際にはオーガナイトを討伐しております」
それにジュディが続ける。
「アレクサンダー伯爵は、彼女が一番信頼できるから、私の護衛騎士としようと仰ってくださいました」
最後にマートが口を開いた。
「彼女はウィード子爵家に仕える騎士だ。ウィード子爵家では立派に騎馬隊長を務めてくれてる。今回の戦いでもハドリー王国の第一王子を守っていた腕の立つ戦士も簡単に倒した。彼女は我が領の騎馬隊長だが、もし本人が望むなら、聖剣の騎士として邪悪なる龍との戦いに参加する決意をしてくれてもかまわない。その間は副長のオズワルトが代理を務めてくれるだろう。どうせ、俺も邪悪なる龍との戦いには狩りだされるんだろうしな」
3人の答えを聞き、ライラ姫はにっこりと微笑むと頷いた。
「セオドール様のお話から、彼女が騎士として十分な力を持っていることがわかりました。そして、ジュディ様のお言葉から、信頼に足る人であることもわかりました。父が愛娘の護衛にしようとする騎士に間違いがあろうはずがありません。そして、今の彼女の剣の主であるマート様も認めてくださいました」
ライラ姫はシェリーに視線を移した。聖剣を捧げ持ち周囲をぐるりと回る。光はずっとシェリーから離れることはなかった。
「シェリー卿。この剣をお取りください。そしてどうぞ、聖剣に選ばれた騎士として、この世界をお救いください」
シェリーは、頭を垂れていたが、ゆっくりと頭を上げた。
「騎士として栄誉の極みでございます。ですが、私はステータスカードを持たず、聖剣の騎士としての能力を持っているのか定かではありません。未だ未熟者でもあります。このような私がそれほどの栄誉を受けてもよろしいのでしょうか?」
「聖剣の光が、シェリー卿が十分に力を持っていることを示しています。この場にいるすべての者が証人です。それに誰が否やを唱えましょうか」
ライラ姫の言葉にシェリーは再び頭を垂れた。
「有難き幸せ。聖剣の騎士としてお選び頂いた上は、力を尽くす所存でございます」
ライラ姫が剣の柄を差し出した。シェリーはそれを掴んで立ち上がった。まばゆい光が部屋に満ちた。
「おおお」
部屋に居た誰もが感嘆の声を上げた。
「聖剣の騎士がここに誕生した。われらは邪悪なる龍に立ち向かうすべを得た」
「ジュディ様」
シェリーはしばらく剣を持ったままじっとしていたが、やがて口を開いた。
「聖剣に触れた際に、聖剣より様々な知識がもたらされました。その中に、聖剣を使う騎士を支える魔法使い、そして支える戦士たちについての説明がありました。邪悪なる龍を倒すためには、魔法スキルを初めとしたスキルで6以上を持ち騎士が信頼に足るものの助力が必要なのだそうです。ジュディ様は以前から公にはしておられませんが、魔法の素質が6あるのだと伺っております。そして、もちろん、私の最も信頼する一人です。邪悪なる龍を倒す手助けをお願いできますでしょうか?」
その言葉に、ジュディはぽろぽろと涙を流した。
「もちろんよ、シェリー。私は聖剣を使う騎士を支える魔法使いになるのだとずっと夢みていたわ。こちらこそよろしくお願いします」
二人を囲んで、この会議に出ていたものが全員、彼女らに熱烈な拍手を送ったのだった。
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聖剣の騎士が選ばれた余韻も醒めぬ中ではあったが、ここに集っている者たちで改めて会議が行われることになった。そこで問題となったのは今問題となっている事柄の解決順序、すなわち、国王陛下にかけられている呪いを解くのが先か、アレン侯爵の行方を捜すのが先かという事だ。ライラ姫としては、聖剣が使えるようになった今、まず自らの父である国王陛下の呪いを解き、自分及びワーナー侯爵への逮捕命令を反故にしてしまいたいと言ったのだが、エミリア伯爵は、それに反して、先にアレン侯爵家の誤解を解くべきだと主張した。彼女は、今我々だけですべての問題を解決すると、妬みを産み、まるで他の貴族を蔑ろにして、ライラ姫とマート子爵、そして騎士団が国を好きなように操ろうとしているという不平不満が広がるのではないかと危惧を述べたのだ。
バカバカしい、そんな事を言われるのならさっさと放り出して領地に帰らせてもらうよ、そうマートは一笑に付したが、その言葉にライラ姫は考え込んだ。
「アレン侯爵はまだ生きておられるのでしょうか?」
彼女は独り言のようにそうつぶやき、マートのほうをじっと見た。
「さぁ、どうだろうな」
マートは首をひねった。侯爵に成りすますために記憶奪取をしていたのであれば、クローディアは彼を生かしていく必要があったはずだった。ただし、侯爵を生かしておくのに、どこかに連れて行くとした場合、転移呪文で誰かとともに転移するには、相手の同意が必ず必要であるのでそれは無理だろう。普通に連れ出したとすれば、眠らせて運ぶなりする事が必要で、その場合は運び手や屋敷の外での協力者が居たはずだ。その場合は、まだ生きている可能性があるだろう。
ただ、拘束したアレン侯爵を屋敷の外に運び出せていなかった可能性もある。そうだとすると、監禁されている時間が気になる。クローディアと戦ってから何日経つのだろうか?あの後、聖剣を確保し、次の日は花都ジョンソンの奪還戦、その翌日、翌々日でマクギガンの街の近辺で戦い、さらにホワイトヘッドの奪還から花都ジョンソンでの戦いが3日、合わせると6日経つ。拘束され放置されていたとしたら厳しいかもしれない。
オーガナイトたちと侯爵邸の三階で戦って倒した後、マートはゆっくりと説明をしている時間はないと判断して、『侯爵は操られていたのだ、調査はそっちでしろ』と言って飛び出してきた。今更、侯爵家の人間がマートの捜索に協力してくれるとは思えない。エミリア伯爵たちから聞いた話では、それについては公にされておらず、アレン侯爵は行方不明のまま、弟のダレン子爵が代理を務めているだけで、マート自身はお尋ね者にはなっていないようだが、調査がしにくいことに変わりはなかった。
「もしかしたら、虫の息かもしれないな」
「そうであれば、尚更先に探すべきではないかな。彼を無事救出すれば恩を売ることができる。そうすれば和平を主張していた連中も旗頭を失い大人しくなるだろう。この国のためだ。我が夫殿、どうだろうか」
エミリア伯爵の言葉に、マートはしぶしぶ頷いたのだった。
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