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猫《キャット》と呼ばれた男 【書籍化】  作者: れもん
第30章 花都ジョンソン近郊の戦い

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238 決戦8

  

 マートがハドリー王国の騎士や空飛ぶ弓兵隊をひきつけて丘をぐるっと回り終わった頃には、ハドリー王国の本陣はほとんど壊滅状態となっていた。ウィード子爵騎馬隊は編成上歩兵を持たないゆえに一番速度が速い。シェリーの指揮のもと一番に突撃してそのまま敵陣を乗り崩し、その混乱状態の所にアレクサンダー伯騎士団と蛮族討伐隊が一斉に襲いかかったのだった。

 

 マートもグラント王子とプルデェンスを探す。彼としては、目的はグラント王子よりどちらかというとプルデェンスになっていた。ドラゴンの前世記憶を持つ男というのは未だにわからないが、ワイズ聖王国の聖剣を守る壁画を見るに、蛮族でドラゴンの前世記憶を持つ者である可能性も高いような気がしていた。魔龍王国では魔龍王テシウスを倒したものの、結局、ブライアン、クローディアという連中がジャイアントなどの蛮族たちを引き込み、以前より質の悪い勢力に変わってしまった。国同士の争いに積極的にかかわろうという気はないが、今回は振りかかった火の粉だ。おそらく元凶であるプルデェンスは潰しておくべきだろう。

 

 マートを追いかけてきていた騎士たちも、本陣の状況に気が付いたようだった。慌ててマートを追い回すのを止め、それぞれが本陣に戻ろうとした。アレクサンダー伯騎士団と蛮族討伐隊も騎士たちに気づき陣形を整え始める。

 

 少し離れたところでマートの耳にはシェリーの『グラント王子、観念せよ』という声が聞こえた。どこかで二人は遭遇したらしい。マートは馬首を巡らせて急いでそちらに向かう。

 

 探している途中で、足を引きずりながら従士たちを指揮して戦っているケニスを見つけた。塊となり身を守るのが精一杯なようだ。マートは何もせずに横を走り抜けていく。その途中でニーナは呪文をリバースして記憶を返した。ケニスは一瞬頭を抱えてまた混乱した様子だったが、再び剣をもって、戦いを再開していた。

 

 マートが到着した時には、グラント王子は数人の親衛隊に守られては居たものの、シェリーの騎馬隊に囲まれていた。シェリーは身長3mの巨人スウェンと、オズワルトは紫色の肌をした身長2mほどの筋骨隆々の男と戦っている。彼らに守られるようにして、グラント王子とプルデェンスが居た。

 

「シェリー、来たぞ」


「マート殿、助かった。手ごわいぞ」


 マートは片手を上げてシェリーたちに合図する。騎馬隊からは歓声があがった。騎馬隊の中には、なんとか馬の背にしがみついている状態の魔法使いのエリオットも居た。

 

「おのれ、マートめ。蛮族の手先!」


 グラント王子が叫ぶ。

 

「ハドリー王国こそ蛮族の手下だ。エイモスやプルデェンスに操られてな」


 グラント王子が何か言いかえそうとしたが、それを制して隣に立っていたプルデェンスが目を見開き一歩踏み出した。


「何を証拠にそのような世迷言を言うのだ」


「心当たりはあるだろう。捕まえて白状させてやるよ」


「な、なにをいう!死ねっ!」


即死(デス)』  

 

 プルデェンスが即死呪文をマートとシェリー、オズワルトと、さらにウィード騎馬隊のメンバーに向けて放った。マートとシェリーには幸い効果がなかったが、横で戦っていたオズワルトと、もう一人は胸を押さえ、膝をつくとそのまま倒れた。オズワルトと戦っていた紫色の肌をした男が何があったのかと茫然としている。

 

「オズワルト!くそっ、プルデェンスめ、なんてことをしやがる」

 

 マートが弓を取り出した。こんな呪文を連発されてはたまらない。捕まえる予定を急遽変更し、マートは弓を引き絞った。プルデェンスは慌てて横にいた親衛隊の身体を引き寄せて盾にしたが、マートは躊躇せず矢を放つ。矢は親衛隊の身体をも突き抜けてプルデェンスの胸に突き刺さった。

 

「お、おのれ」


 プルデェンスは一声を上げ、盾にした男を手放してその場に倒れた。盾にした男は矢は肩を貫通していたが致命傷ではない。それと同時にグラント王子が頭を抱えて、その場に膝をついた。

 

「頭が……」


 プルデェンスは即死だったのだろう。そのため、彼の呪いが解けたに違いない。


「プルデェンスはおそらくグラント王子に呪いをかけて陰で操っていた。グラント王子はおそらくすぐに正気に返るはずだ」


 マートの言葉に、スウェンなど親衛隊のメンバーも戦いを中断した。皆グラント王子に注目する。

 

「グラント王子、もっかい聞くぜ。降伏しろ。もう、これ以上は無駄に人死が出るだけだ」


 その言葉に、グラント王子は顔を上げることなく、地面に座り込み、両手を地面についた。


「わかった。降伏する。だから、もうこれ以上犠牲者はださないでくれ」


 それを聞いて、マートは拡声の魔道具を取り出した。

 

「グラント王子は降伏した。もう戦いは終わりだ。ハドリー王国の騎士、従士たちは武器を捨てろ!」


 アレクサンダー伯爵領での戦いは多くの犠牲者を出しつつも終結した。プルデェンスの即死呪文の犠牲となった三人は無事蘇生呪文の恩恵にあずかり一命をとりとめることができた。


 セオドールたちがやってきて、マートが認めた降伏を追認し、グラント王子は、カイン王子や他の生き残った騎士たちと同じように一旦花都ジョンソンに送られて捕虜とし、どのようにするかワイズ聖王国の王家に問い合わせが行われることになった。


 その他大勢の従士たちは武装を解除された上でハドリー王国に返される事になった。これは、彼らが主に従士という身分で身代金を払う事も出来ないであろうし、ワイズ聖王国側としても何万人もの捕虜を長期間収容することは難しいというアレクサンダー伯爵とウィード子爵であるマートの判断によるものだった。ただし、親衛隊だけは別で、ウィードの街に送られ、エイモス或はプルデェンス、ドラゴンの前世記憶を持つ男との関わりがないか厳重に調査されることになったのだった。


読んで頂いてありがとうございます。


少し長くなりましたが、ようやく防衛戦が終了しました。長かった……。次は章を改める予定です。


誤字訂正ありがとうございます。いつも助かっています。

評価ポイント、感想などもいただけるとうれしいです。よろしくお願いします。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 敵に蘇生魔法かけて、記憶とればいいのになぜしないんだろう?
[良い点] せっかくの情報源が…。 今回は周りに味方がいたことがかえって選択肢を狭めることになってしまいましたか。 生け捕りすらできないなんて、即死呪文の質が悪すぎる。 残念。 [気になる点] シェリ…
[一言] マートがプルデェンスを弓で狙うシーンで、元の文章だとマートが矢を放った後にプルデェンスが親衛隊を盾にして、その後にマートがまた矢を放ったように読めます。 最初の矢を放つという部分を、矢を放と…
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