235 決戦5
「そう……だな。総突撃だ」
グラント王子はプルデェンスからゆっくりと視線を外し、呟いた。スウェンは驚いた顔をして首を振り、何か問いたそうに顔を上げた。だが、プルデェンスにじろりと睨まれて再び面を伏せた。
「待機している第三、第六、第八騎士団の従士たちのところには、逃げ出してきた者でどんどん数が増えております。彼らをまず使うのがよろしいかと」
プルデェンスがそう進言した。
「なっ、彼らは従士だぞ?戦う技術も未熟なものが多い。いたずらに消耗するだけだ」
ケニスが首を振ったが、プルデェンスはにやりと笑い話を続けた。
「蛮族討伐隊は、魔人です。たった30人としても甘く見てはなりません。彼らは蛮族と戦うために集められたと聞いております。人間と戦うのは本来の目的とは異なり、士気も上がらないでしょう。確実にマートを倒すためには必要な事です。第三、第六、第八騎士団の後、ケニス殿が指揮してこの第二騎士団でとどめを刺せばよろしいかと存じます」
「グラント王子、上策とは思えませぬ。お取り上げなさらぬように。彼は魔法使いであって、騎士ではありませぬ。戦いは我等とご相談ください」
ケニスがグラント王子の前に跪いた。
「いや、プルデェンスの申す通りにせよ」
「グラント……王子?」
ケニスは跪いてグラント王子をじっと見上げた。だが、グラント王子は表情をかえずに再び口を開いた。
「聞こえぬのか?プルデェンスの言う通りにせよ」
ケニスはそう聞いて面を伏せ、ギリッと奥歯を噛んだ。
「畏まり……ました」
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ハドリー王国の軍勢がどう動くのか、様子を見ていたマートは、一時間ほどして、カイン王子配下の騎士団で逃げ出してきた連中が集められていた場所のあたりで、鬨の声があがるのを耳にした。とはいえ、その声はあまり威勢がよくなく、むしろ無理やり上げさせられたといった雰囲気の声であった。そして、そこにいた3千程の従士たちが、あまり統制が取れた様子もなく、ばらばらの武器を手に、マートたちがいるところに向かって進み始めたのだ。
マートはその様子を見て、口を尖らせた。なんとなく彼らの行動に想像がついたのだ。それはマートにとっては面白くないことだった。ただでさえ弱いものいじめのような気がして気が進まない戦いばかり続いているのに、またこんなことかとうんざりしたのだ。
「俺はここで迎え撃つから、その間に悪いがばらばらに分かれて、ジョンソンの付近に陣を敷いているアマンダたちのところに合流しててくれ。急げ」
マートは自分が指揮してきた蛮族討伐隊の面々にそう指示すると、一人、ライトニングに跨り、ワイバーン殺しの弓を構えた。ライトニングは魔獣ヒッポカムポスが姿を変えたものであり、疲れを知らず、マートが簡単な指示を出せばそれを理解するので、彼が馬を操る必要すらなく、ただ跨っているだけで敵との距離を自動的に維持することなど簡単だ。そして、ワイバーン殺しの弓は、こちらもまたいくら撃っても、矢が尽きることはない。敵の弓より遠距離射撃ができるマートにとって、いくら数時間続いたとしても、精神的な徒労以上のものはほとんどないのだ。
だが、カイン王子との闘いでも同じようなことをした彼は、そのような戦いに倦んでいた。マートはニーナの文様に触れた。
“なぁ、ニーナ、こいつは何かあると思わないか。直接はしらねぇけど、こういうやり方とグラント王子の性格にはギャップがありすぎるように思うんだ。碧都ライマンに初めて行ったときに見つけた親衛隊の男を覚えてるか?”
“いつの話?その時、私は顕現してモーゼルやワイアットたちと一緒にステータスカードの作成装置を海辺の家で調べてた時じゃない?”
“そうか、じゃぁブラウンだ。あいつなら知ってるだろ?俺を殺しに来たオルトロスを前世記憶に持ってた奴”
“ああ、あいつなら覚えてるよ”
“二人ともグラント王子をすごく信頼してた。特にブラウンの記憶は見てるからな。何か裏があるって事だと思う。そいつを調べないと、こういう面倒臭いことが続いちまいそうな気がする”
“なるほどね、わかったよ。でも、人間ってさ、弱いからね。こういう時に残酷なこともしてしまう。どっちなんだろうね”
読んで頂いてありがとうございます。
誤字訂正ありがとうございます。いつも助かっています。
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2021.6.17 ご指摘を頂き、第三、第六、第八騎士団の逃亡してきた従士たちがどんどん増えているという記述を追加しました。




