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猫《キャット》と呼ばれた男 【書籍化】  作者: れもん
第30章 花都ジョンソン近郊の戦い

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232 決戦2


 戦いは弓の応酬から始まったが、それはお互い魔法と盾による防御があってほとんど損害をだせずにいた。

 膠着状態のところに、先に動き始めたのは蛮族討伐隊だった。両手で構えた長大な矛を軽々とふり回して矢を弾きながら、アマンダが突進し、大音声を上げたのだ。


「ウィード子爵家蛮族討伐隊、副隊長のアマンダだ。(あたい)にかかってくる勇気のある騎士はいるのかい?」


 彼女の身長はおよそ2メートル半。栗色のウェーブのかかった長い髪、緑色の肌。矛を抱え、部分鎧を纏った肉体は筋肉が異様に盛り上がっている。その後ろには、彼女ほどではないが身長2メートルを超えていたり、四本の腕を持っていたりといった蛮族討伐隊の面々が四方を睥睨していた。

 

魂の叫び(ウォークライ)

 

 一瞬戦場が静まり返る。

 

 魂の叫び(ウォークライ)は敵を怯ませ、味方を鼓舞するスキルだ。オークジェネラルの前世記憶をもつアマンダのそれは、一瞬にしてハドリー王国の前線を維持していた三百人ほどの騎士、従士を動けなくした。

 

「ここにいるぞ!」

 

 いつもであれば、ここからはアマンダたちの一方的な殺戮ゲームだった。相手を怯ませ動けなくさせて倒していくのだ。だがそこにハドリー王国の陣営から飛び出してきた男がそれに異を唱えたのだ。

 

「ハドリー王国親衛隊のスウェンだ。勝手はさせん!」


 彼の身長はおよそ3メートル。アマンダよりさらに背が高い。筋肉も彼女に負けず劣らず盛り上がっており、鈍く銀色に光る鎧を身に着け、巨大な大槌を構えている。お互いの陣からそれぞれ1人ずつが突出して声を出し合ったのだ。皆が2人に注目した。

 

「ほほう、いいねぇ、やろうじゃないか」


 長大な矛を回転させて構えなおすとアマンダはにやりと笑った。スウェンは、その様子に吸い込まれるように大槌を大きく振りかぶり襲いかかる。アマンダはそれに矛を合わせるようにした。

 

 ガツン!

 

 大きな音がして大槌の軌道をそれる。スウェンはそれには逆らわず、身体を一回転させると、今度は下から上に打ち上げるようにしてアマンダの脚を狙う。

 

「せいっ」


 アマンダは気合と共に、その軌道と垂直となるようにして矛の柄を地面に打ち立てた。

 

 ガギッ!

 

 大槌が矛の柄に阻まれて止まった。それをみてスウェンは驚愕の顔をした。大槌の重さはおよそ五百キロもある。それを体の周りで一周分振り回し、渾身の力を込めて打ち付けたのだ。簡単に止まるわけがなかった。同じようにして敵の城壁をこれで叩き壊したこともある。アマンダの矛の柄が木ではなく鋼鉄製だとしても、太さは直径10センチもない。その衝撃に耐えきれず曲がるはずだった。スウェンの表情を見てアマンダはにやりと笑う。

 

「良いだろう?なまじ力があると武器に困るからねぇ。あんたみたいに重たいだけの武器は攻撃は良くても防御に向かない。こいつはあの伝説のドワーフが鍛えた特別製なんだ。ミスリルで補強してもらってるんだよ」

 

 アマンダはその矛を軽々と振り回し一薙ぎした。本来、ミスリルは軽いので武器には向かないが、アマンダの矛を柄まで全て鋼鉄で作れば大槌ほどではないにしろ、300キロを超えてしまう。普通は刀身を小さく、細く、柄の中を空洞、場合によっては木で作ったりして軽量化を図るのだが、アマンダの矛はミスリルを使って強度を上げるとともに軽量化も図ったのだ。その速度にスウェンはとっさに大槌は放り出して腰の剣を抜いて受けようとしたが、その勢いに吹っ飛ばされた。

 

「根性は褒めてやるよ。戦いの腕も互角だ。だが武器に差があったようだね」


 スウェンが頭を振りながら立ち上がる。右手に持った剣はぐにゃりと曲がっていた。左腕は折れたのだろう、力なくぶら下がっている。

 

「くそっ、タディもお前がやったのか?」


「タディ?ああ、カイン王子の側にいたやつか。あっちは(あたい)じゃない、うちの騎馬隊長のシェリーさ」


「ということは、カイン王子は?」


「二人とも捕虜になってるよ。あんたたちは諦めてさっさと帰ったほうが良いんじゃないか?とはいっても、アレクサンダー伯騎士団がどうするかは知らないけどね」


「この場は逃がしてくれるというのか?」


「ああ、さっさとグラント王子に報告するんだね」


 アマンダは、矛を立て胸を張ってスウェンを見た。

 

「待てーっ、今度は俺が勝負だ!」


 そこに出てきたのは、ハドリー王国の騎士たちだった。それも3騎、身にまとっている甲冑の模様などからしてかなり煌びやかな物だ。

 

「魔人を倒したからといっていい気になるな。王国の根幹は我々騎士だ。我々と勝負せよ」


 三騎は馬上槍をりゅうりゅうと扱き、馬上からアマンダを見た。

 

「ラシュピー帝国にもあんたたちみたいな騎士はいっぱい居たよ。でも止めておいたほうがいいんじゃないかね」


「うるさい。俺が相手だ」


 3騎の中で一番背の高い男が声を上げた。その男が目くばせをするとほかの2騎が下がり、従士らしき男たちがわらわらとその2騎の手綱をとったりして囲む。

 

「へぇ、勇気があるんだね。いいともさ」


 一番背の高い騎士は一度下がる。そして、馬上槍を構えなおした


「行くぞっ!」


 そいつは大声を上げた。

 

「来な」


 アマンダは頷いて返事を返す。そのあと、なにやら、ぶつぶつと呟くとにやりと笑った。一番背の高い騎士が乗る馬は徐々に速度を上げてアマンダに近づいて行く。馬上槍が一直線にアマンダを狙う。アマンダは矛を構えてそれを待つ。

 

麻痺(パラライズ)


 馬上槍がアマンダの身体に迫る直前、残る2人の騎士の周囲にいた従士たちの中からアマンダに向けて呪文が使われた。



読んで頂いてありがとうございます。



誤字訂正ありがとうございます。いつも助かっています。

評価ポイント、感想などもいただけるとうれしいです。よろしくお願いします。



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― 新着の感想 ―
[一言] 弱点である呪術がきたがどうなるか。何やらアマンダはぶつぶつと呟いてましたし、秘策があるのか。
[一言] ば、馬岱!?
[良い点] どうしても魏延と馬岱が出てきますね
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