表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
猫《キャット》と呼ばれた男 【書籍化】  作者: れもん
第30章 花都ジョンソン近郊の戦い

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

232/411

231 決戦1

お待たせしました。


 グラント王子は、一番大きなテントで付近の地図を広げてじっとそれを見入っていた。萬見の水晶球を使った索敵結果や、親衛隊が常時行っている索敵結果を、従士たちが、情報が上がってくるたびにその地図に情報を付け足していた。

 それを見る限り、兵力では彼の騎士団のほうが二倍以上優っている。だが、彼の兄であるカイン王子はグラント王子の三倍の兵力、三個騎士団を潰走させられていた。逃亡してきた者たちの話によると、敵にはあの水の救護人(ウォーターレスキュー)マートが居て、彼は同時に何百本も矢を放ち、真っ暗な夜でもその矢は百発百中の上に鉄の兜をも貫いたのだという。どこまで本当なのかはわからない話だが、おそらく彼とその彼の配下は暗くても見える鋭敏視覚と、強い矢を放つための肉体強化の両方を持って、遠くから矢を放ったのだろう。

 そして、彼が率いるという部隊にも、魔人が多く居たという目撃情報が上がってきていた。グラント王子はエイモスに彼の調査を依頼したことを後悔していた。エイモスは、結局、親衛隊のブラウンたちを派遣し勧誘させ、応じない場合は脅威にならないか考えて処理せよという話をしたらしかった。そうではなく、自分が仲間になるように説得すればよかったのだ。もちろんマートが応じたかどうかはわからない話ではあるし、どうせ今となってはもう遅い。

 

「どうだ?どうしたら勝てると思う?」


 グラント王子は大きく溜息をつき、地図の乗っているテーブルを囲んでいる金属鎧で身を包んだ騎士団長のケニス、そして、濃いグレーのローブを着た魔法使いのプルデェンスの2人に問いかけた。

 

 ケニスは少し伸びかかった金髪を太い指で掻き上げながらため息をついた。

 

「わかりませぬ。相手の動き方ががらっと大きく変わりました。唯一わかっておりますのは、少しも油断ができぬという事だけです。驚くべきことに敵も我々と同様に多くの索敵部隊を使っております。萬見の水晶球の有効範囲もわかっておるようで、その範囲ぎりぎりに出たり入ったりしている部隊がおります」


「今までの様な楽な戦い方はできないという事だな。我々は索敵で優位に立った戦いしか経験したことがない。ほとんどが敵の位置がわかった上での戦いであり、つねに有利な状況であった。だが今回はそういうわけには行かぬようだ」


「その通りです。かつて我々はワイズ聖王国の第一騎士団及びワイズ王国東部諸侯連合軍と湿地で戦った時は驚異的な大勝利を収めることが出来ました。今回、カイン王子が率いる三個騎士団はいままでとは逆に敵に同じようなことをされたに相違ありません。残念ながら、カイン王子が敵に捕らわれたという未確定情報もあります」


 王子は顔を歪めて頷き、自らの傍らに立っている男に顔を向けた。

 

「スウェン、タディからの連絡はないか?」


「いえ、ありません。あいつは、私とも互角の腕前です。敵に後れを取るとは思えないのですが」


 スウェンと呼ばれた男は、禿頭で身長3mを超えていた。一番大きなテントであるが、普通に立つと天井に頭がつかえるので身を屈めている。鈍く銀色に光る鎧と大槌を身に着けていた。

 

「うむ、碧都ライマンの戦いで兄は囚われ、その後講和を結ばざるを得なかった。万が一を考えてタディに兄の側に居るよう頼んだのだが……。もし今回、同じような事になれば父上は廃嫡を考えるかもしれん。プルデェンス、そなたはどう思う?」


 プルデェンスは蛇のような瞳、白い鱗の肌を持っていた。普段はフードを被っているが、このような軍議ではフードを上げて顔を出している。


水の救護人(ウォーターレスキュー)マートが出てきたとなれば厄介です。目撃情報のあった魔人の部隊というのは彼の配下の蛮族討伐隊と呼ばれる組織だと思われます。表向き、蛮族を討伐し彼の領地を広げているという話ですが、実質は魔龍王国から派遣されており、かの国で死んだ魔龍王テシウスに次ぐ実力者だったアマンダが指揮しているという噂があります。マート自身も猫の目を持つ魔人と言う話もありますし、もしかしたら魔龍王国側に寝返っているのかもしれません」


「確かに、そうであれば厄介だな。最近、魔龍王国や蛮族どもの動きの情報も少ない気がするが……」


「はい、ブロンソン、ライマン以北の情報が全く入ってきておりません。おそらくそちらもマートが妨害工作をしているに違いありません」


「碧都ライマンの戦いのときもやつにはしてやられた。そなたの話では魔龍王国はさほどの兵力ではなかったはずだが、結局ラシュピー帝国の版図のほとんどは魔龍王国にかすめ取られたからの。ダービー王国のときは、こちらもハントック王国の併合があったから仕方なかったが、これ以上蛮族の版図も魔龍同盟の版図も拡げさせるわけには行かぬ。魔龍同盟は、マートを通じてワイズ聖王国を利用し、我が王国の大陸統一を邪魔しているのか。はてさて、どうするべきか」


 物思いにふけるグラント王子に騎士団長が軽く礼をして話しかけた。

 

「申し訳ありませぬ。グラント様、魔龍王国も兄君もご心配とは存じますが、まずは目の前の敵をなんとかせねばなりませぬ。ここで退くわけには行かぬのです。プルデェンス殿の指摘された蛮族討伐隊もこの戦場には居りますが、幸い、全体として兵力としては2倍以上です。敵はジョンソンを守る必要があり、行動範囲は自ずと制限されておるはずです。犠牲はでるかもしれませぬが、ここは正面から押すしかないと存じます」


 その言葉に王子は顔を上げた。


「うむ、やはりそうなるか。仕方ない、俺もそう思う。そうだな。いくぞ決戦だ」


「カイン王子配下の騎士団で逃げ出してきた連中はいかがいたしましょうか。現状どんどん増えております」


「どうせ敗残兵だ。武器もそろっておらぬ。決戦が終わるまで今の位置で待機させておけ」


 グラント王子と騎士団長、魔法使いは椅子から立ち上がり、テントを出た。スウェンと呼ばれた男も彼を守るようにして脇に立つ。

 

「ラッパを鳴らせ、進撃だ!」


 王子は手に持った乗馬鞭を振るい、自らの騎士団に指示を出したのだった。


-----


 花都ジョンソンの南側にある小高い丘の上では、アレクサンダー伯領騎士団とウィード子爵領騎馬隊、蛮族討伐隊がそれぞれ固まって陣を敷いていた。お互いは花都ジョンソンの城壁にジュディやエリオットたちが念話で中継してこまめに連絡をとっていた。

 

 騎馬隊の陣では騎士たちが自らの馬の世話をしながら出番を待っていた。その中心にシェリーとオズワルトが馬に乗ったままで戦況を眺めている。

 

「敵が動きましたな」

 

 オズワルトが呟いた。その呟きに隣に居たシェリーが頷く。


「こっちに向かってきているようだ。マート殿の予想は外れたな。相手は決戦のつもりのようだ。正面からぶつかるとなると兵力に劣る我々は少々辛いことになる。しかしやるしかあるまい」


「全員騎乗!」


 オズワルトの大声に、皆が一斉に馬に乗ったのだった。


 

読んで頂いてありがとうございます。


誤字訂正ありがとうございます。いつも助かっています。私ってば、ほんと勢いで書いてるなぁと思ったりします。

評価ポイント、感想などもいただけるとうれしいです。よろしくお願いします。


2021.10.2 書き足し

 エイモスを派遣したときに、時に、自分も一緒に行かなかったことを

 → エイモスに彼の調査を依頼したことを


 彼に任せずに、

 → エイモスは、結局、親衛隊のブラウンたちを派遣し勧誘させ、応じない場合は脅威にならないか考えて処理せよという話をしたらしかった。そうではなく、

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] ふむふむなるほど……。 確かにグラント王子がマートたちの陣営の内情や人となりを知らないといえど、マートが前世記憶持ちたちを拾ってまわっているのを端から見たら、マートが魔龍同盟に寝返ったとか魔…
[良い点] グラント王子の視点が面白いです。ハドリー王国から見ればマートが魔龍王国側に見えるんですね。ラシュピー帝国の情報が入らないのもマートの妨害だと考えるのはマートの能力を高く評価してくれていると…
[気になる点] 騎士団長のセリフの中で、第一王子の事を兄上と表現していましたが、兄上は兄を自分が呼ぶ時に使う言葉なので、他人が呼ぶ場合は兄君の方が適切かと思います。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ