229 会議第2回
マートが2時間程の仮眠から目覚め、例によって精霊たちに手伝ってもらって身支度をしていると、彼が目覚めた様子に気が付いたメイドがアレクサンダー伯爵からの使者が来られていると教えてくれた。
使者とはまた大仰な、それも待ってたのかと思いつつ、どうぞ部屋にと答えると、一人の女性が部屋の扉を開け入ってきた。それはなんとハリエット夫人だった。
「夫人、お久しぶりです」
最近は普段の口調で話すことの多いマートだが、行儀を教わった彼女には、つい畏まった口調になってしまった。
「マート様、久方におめもじ叶いうれしゅうございます。ご立派になられました。私も鼻が高うございます」
彼女はそういってスカートの両端を持ち上げて礼をした。会うのは数年ぶりだが、全く年を取ったとは思えず、以前よりも色気が増しているように見えた。
「夫人もご無事な様子でよろしゅうございました。どうぞお座りください。アレクサンダー伯爵はお怪我がひどいと伺いましたが、お加減はいかがでしょうか?」
マートは部屋の椅子を彼女に勧めながら話をする。彼女は軽く会釈し、落ち着いた様子で勧められた椅子に軽く腰掛けた。
「はい、怪我そのものは神官の方に治療していただいたのですが、もともと体が弱っていた上に血をかなり失っておりまして、立ち上がることが出来ずしばらくは静養が必要な状態です。ですが、マート様がこちらにこられたということで、ぜひお会いして礼を述べたいと申しております。お手数ですが、寝室まで足を運んでいただくことは可能でしょうか?」
「もちろん喜んで参上いたします」
「ありがとうございます」
マートの返事を聞いて、ハリエット夫人は再び立ち上がり、深く頭を下げたのだった。
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「そなたのおかげで、花都ジョンソンをハドリー王国から取り返すことが出来た。礼を言う。ありがとう。危うく我が先祖に顔向けできぬ事になるところであった。この恩をどのように返せばよいのか分らぬ程だ」
ベッドの上に座りアレクサンダー伯爵は深々と頭をさげた。その横のハリエット夫人の他、セオドール、ジュディ、そしてマクギガンから急遽移動してきたロニーも居て一緒に頭を下げた。
「あー、んー、えっと……」
どう言えばよいのか言葉に詰まったマートにハリエット夫人は、いつもの口調でどうぞと言ってほほ笑んだ。
「ありがとよ。じゃぁ、いつもの口調で行かせてもらうぜ。恩だの礼だのって、まだハドリー王国が撤退したわけじゃねぇ。第一、アレクサンダー領がハドリー王国の手に落ちるとうちの領地も危うくなるからな。ほっとくわけにも行かねぇだろ。そういうのは無事撃退してからでいいんじゃねぇかな。当然伯爵も解ってるだろうが、この都市もまた再び戦いの場になるかもしれねぇ」
マートは頭を掻きながらそう答えた。
「うむ、セオドールとロニー、ジュディからいろいろ聞いている。今回の戦いで騎士団長始め我々アレクサンダー伯爵領の騎士たちの半数近くが死に、まだ行方不明のものも多い。武門で知られた我が家であるが、この危機を生き残るにはそなたとそなたの家の者の助力が必要だ。ウォルトが勝手な事を言っておったが、あれは気にしなくてよい。そなたのおかげで助かったのだ。四の五の言わずそなたの指示で戦えと叱っておいた。必要であればランス卿にも協力させよう。よろしく頼む」
「いやいや、そんなことを言われると、困っちまう。俺が戦争するなんて初めてのことなんだ。それに、アレクサンダー伯爵領のことだぜ。伯爵様が怪我で無理ならセオドールかランス卿あたりが指示してくれたほうが良いし、すべきだと思うんだが」
「ロニーとランスから聞いた話では、そなたの配下のアマンダという者はかなり戦の経験があり、二人とも彼女の見識には舌を巻いたそうだ。シェリーやグールド兄弟もそなたの配下になって力は各段に上がっているというし、こちらに居るアニスという衛兵隊長もなかなか視野が広く役に立つ人材に見えたぞ。謙遜することはあるまい」
アレクサンダー伯爵はマートをじっと見た。だが、マートは首を振る。
「わかった。我が領地の話だといわれると確かにその通りだ。セオドール」
アレクサンダー伯爵は長男のセオドールを呼んだ。
「儂はしばらくまだ動けぬだろう。ここ数日が正念場となる。そなたが嫡男としてしっかり戦いを差配するのだ。第一に何が目的なのかを忘れないようにせよ。ウォルトやゼブロンの意見を聞くのは良いが遠慮する必要はない。ランスやノーランドに対しても同じだぞ。わかったな。後、マート殿は同盟者として尊重せよ」
「はい」
「ロニー、ジュディ。セオドールを助けてやってくれ。アレン侯爵が頼りにならぬ今、マート殿が我らの唯一の盟友だ」
「はい」「はい」
ロニーとジュディが大きく頷く。
「マート殿。助力をよろしく頼む」
「ああ、わかった。良いとも」
そこまで話して、アレクサンダー伯はベッドにぐったりと仰向けになった。ハリエット夫人がアレクサンダー伯の汗を拭く。
「セオドール様、お父様の体調はあまりよくないようです。申し訳ありませんが本日はこの辺りでお願いいたします」
ハリエット夫人の言葉にセオドールが頷き、3人に促した。
「うむ、わかった。ロニー、ジュディ、マート殿、別室で続きの話をしましょう」
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