227 リリーの街からジョンソンへ
章立てを少し改めました。現在ストックがない状態で書いているので、こういう事に(汗
カイン王子を捕虜にした後、騎馬隊と蛮族討伐隊はマートの指示通り南ルートでリリーの街に向かったが、マート自身は影武者を立て、単独で空を飛んでバッテンの森の上空を抜け、一足先にリリーの街に向かった。これは、当然グラント王子の派遣した親衛隊の誰かが決戦を見ていると予想したからであり、それの裏をかく必要があると考えたためだった。
グラント王子率いる騎士団は、マートがリリーの街に到着したときにはすでに街を完全に包囲されては居たものの、まだ抵抗を続けている様子だった。そして、マートの目には騎士団内部ではあわただしい動きが起こっているのが見え、少なくとも花都ジョンソンの情報は包囲側の騎士団に入っているようだった。
“面倒だから、グラント王子のテントを襲って倒しちゃおうよ。それで綺麗さっぱりじゃない?”
ニーナの提案は相変わらず乱暴だ。決して悪くは無い提案かもしれない。マートは一瞬そう思った。軍勢同士がぶつかればお互いかなりの人数の死傷者が出るだろう。たった一人の命だけで、それが無くてすむかもしれない。だが、そうした場合に暗殺の応酬が始まるかもしれないし、遺恨や憎悪を残す結果になるかもしれない。以前、ハドリーに潜入したときにはグラント王子は国民に結構人気があった。
そこまで考えて、マートは自分で自分の事を何を考えてるんだと苦笑した。勝てる保証もないのに、戦ってみようだなんて、かなりニーナに毒されているらしい。親衛隊にも強いのが居るだろう。危険すぎる。
マートは遠くからハドリー王国の陣の観察を続けた。敵陣の上にはおそらく幻術で姿を隠した男が一人浮かんでいた。飛行して周囲を索敵している様子だった。あまり近づくと、自分が見つけられてしまう可能性もあるので安易には近づけない。敵陣のグラント王子らしき男はテントの中で会議をしており、その会議には騎士たちの他に外見的特徴をもった男女が参加していた。ただ、その男女の座る席は王子や騎士たちに比べると質素で、身分差をかんじさせる。もちろん会議に参加しているメンバーは騎士団の中でも上の地位の人間であろうから、そのような席次になるのかもしれなかった。
しばらく観察を続けていると、会議は終わり、グラント王子率いる騎士団はリリーの街の包囲を解き、陣を払った。リリーの街に居る衛兵隊の追撃を警戒したのかかなり迅速な行動だ。カイン王子の戦いの情報を入手しているのかどうかは不明だ。彼らはあわただしく北に移動し始めたのだった。
それを見て、マートはどうすべきか迷った。マートは軍事の素人だ。あの軍勢がどうしようとしているのか全く読めない。花都ジョンソンの再奪還を図ろうとしているのかもしれないし、国に撤退しようとしているのかもしれない。とりあえずはリリーの街は大丈夫なのだろう。彼の騎馬隊及び蛮族討伐隊がバッテンの森の南を回ってリリーの街に到着するのはあと1日か2日後になる予定だ。マートは少し考え込んだ後、ジュディとアレクサンダー伯の居る花都ジョンソンに向かうことにしたのだった。
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花都ジョンソンでは、嫡子たるセオドール、ジュディが中心になり、アニスたちウィード子爵領から来た衛兵隊の手助けを得て、ようやく主要な道路の片付けや怪我人の収容などが始まったという状況だった。セオドールたちの父であるアレクサンダー伯爵本人は救出されたものの、落城時に負った怪我が酷く立ち上がることはできなかった。街の自慢の花があしらわれた城壁はところどころ崩れ、特に門は損傷が激しくて閉めることすらできない状況であり、ジョンソンを守る騎士団、衛兵隊はほぼ壊滅状態で、辛うじて都市の門を守るのが精一杯の状況だった。そこにマートが戻ってきたのだ。
「猫、ロニーお兄様はどうなったの?マクギガンは無事?」
ジョンソン城の入り口でマートを出迎えたジュディは、マートの顔を見てそう尋ねた。マクギガン近郊での戦いで敗れて逃げ出したカイン王子の配下の騎士団の連中も、アレクシアに依頼した伝令もまだここにはついていないらしい。その横で彼女の兄のセオドール、そして数人の騎士もどうだったのか心配そうにしていた。
「お嬢、マクギガンのほうは大勝利だ」
マートのその第一声に、セオドール、ジュディは共に顔に満面の喜色を浮かべた。
「すごい、三個騎士団に勝っちゃうなんて……」
「最後まで聞いてくれ。カイン王子は捕虜にしてマクギガンのロニー様に引き渡した。だが、残るハドリー王国の兵士たちは人数が多すぎて捕虜にもできず放置だ。おそらく主を失って統率はとれていないまま、こちらに向かって潰走中だ」
そう聞いて、ジュディとセオドールは顔を見合わせた。
「あと、グラント王子率いる騎士団、こちらを今見てきたんだが、そちらもおそらくここを奪還したという情報を受けて、それもこっちに向かってる。ここに来るつもりなのか、素通りして帰ろうとしているのかはわからねぇ。とりあえずどうするか相談するかと思って、こっちに来たんだ」
「えっと、どうしたらいいの?猫のところの騎士団、ああ、騎馬隊っていうんだっけ?シェリーたちは?」
「今はマクギガンからバッテンの森の南側を経由してリリーの街の救援に向かってる途中だ。こんなに早くグラント王子の騎士団が動くとは思わなかったんでな」
「そっか」
ジュディはセオドールの顔をじっと見た。母親を同じにする兄妹だけあって、雰囲気はよく似ている。彼はすこし考えたが、軽く首を振り、近くにいた護衛の騎士に声をかけた。
「悪いが副騎士団長、衛兵隊長、そしてアニス殿とアズワルト殿を呼んできてくれ。マート子爵、もう少し力を貸してほしい。どうすべきなのか上で意見を交わすこととしよう」
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