226 マートたちの戦い 4
「ガツッ!」「ガッ!」
再び、シェリーの槍と盾、タディの両手の斧が交差して火花が散った。戦いはほぼ互角のように見えた。マートはシェリーの力を信じているものの、思わず力が入ってずっとその戦いを見つめてしまっていた。
「マート、あいつらが逃げるよ」
アマンダがマートの肘をつついた。彼女が差す先には、カイン王子とその側近がタディとシェリーの激戦には目もくれず移動をしてゆく姿があった。
「ちっ、せっかく良い戦いなのによ。面白くねぇな、オズワルト、騎馬隊で囲んで捕虜にしてしまえ。状況次第では手加減しなくていいぞ」
「はっ、騎馬隊行くぞっ!」
オズワルトの指示のもとに騎馬隊が縦隊を作る。彼を先頭にして、カイン王子配下の部隊を何重にも包み込む様に周囲を旋回していく。抵抗する者もいたが、旋回するように動く騎馬隊が続けざまにその者を攻撃し、戦意を奪っていく。カイン王子は抵抗を諦めた。
「よそ見をするなっ!」
カイン王子たちの動きの横でシェリーの槍がタディの足を貫いた。うぐっと呻くタディ。シェリーの槍が抜かれるとタディの太腿から血が噴出し、彼は膝をつく。タディは斧を構えたが、シェリーの優勢は揺るがなかった。数合の後、タディは降伏した。
「シェリー、そいつを捕らえろ。俺たちの勝ちだ。逃げていく連中は気になるが多すぎて手が回らねぇ。アレクサンダー伯爵に任せよう。アレクシア、現状の報告の使者をジョンソンに居るアレクサンダー伯爵と、マクギガンのロニー様に。そして、ブルームの街を占領してるハドリー王国の騎士団には降伏勧告の使者を出せ。オズワルト、騎馬隊の一部を率いてカイン王子たち捕虜をマクギガンの街のロニーとランス卿に預けろ。リリーの街が心配だ。グラント王子は親衛隊が居るから油断ならねぇからな。他の連中はすぐに出発して南回りでリリーの街の救援に向かう。アレクシアとオズワルトも頼んだ仕事が終わったら追いかけてきてくれ」
「わかりました」「はっ!」「了解!」
皆それぞれに返事をし、自らの馬の手綱を掴んだのだった。
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蛮族討伐隊 元々は、アマンダやワイアットといった外見に特徴があって迫害され、魔龍同盟に参加した後、それを悔いて蛮族を討伐することによって贖罪をしようとした部隊であった。だが、彼らの活躍を見て、前世記憶などはないが単純に蛮族討伐に協力しようとした者や、外見に特徴は無くとも前世記憶を持っている者が仲間を求めて参加したりして、規模は急激に膨れ上がっていた。
戦闘部隊は500騎だが、個人の戦闘能力は極めて差が大きい。アマンダのように一騎当千と呼べるようなもの、飛行や呪術といった特殊な能力がある者もいる。他にモーゼルやバーナード、サルバドルのように直接戦闘には参加しないが、後方で補給活動や研究活動をおこなっている者もいた。
マートはワイアットやアマンダたちと以前から何度もグラント王子が作った親衛隊について話し合っていた。碧都ライマンでの攻防戦の直前に捕まえた男や、ウィード領が出来た直後にやってきたオルトロスの前世記憶を持つ男の話から仕入れた情報では親衛隊という組織はあまり軍隊という感じではなさそうだというのでは意見は一致していた。とは言え、以前碧都ライマンで戦った時から年月もたっているし、いまの蛮族討伐隊のように飛行や呪術といった特殊な能力があるものもいるだろうから、その力を使ってマートと同じように索敵をおこなっている可能性もあって警戒が必要だ。
グラント王子の狙いは何なのだろう。人間生まれであるのは確かなので、ピール王国の魔法使いが警戒したような邪悪な龍ではないのだろう。単純に前世記憶を持つ者を利用したいだけなのか、本人が何かの前世記憶、場合によってはドラゴンのような強い魔獣の記憶を持っているのか、それともテシウスの時のブライアンのように他に誰かが居て入れ知恵されたのだろうか。
いずれにしても、今回は親衛隊、そしてグラント王子本人と正面切って戦う羽目になってしまった。以前の時と同じようにカイン王子は捕虜にできたので、このまま交渉となればありがたいのだが、油断はできない。
読んで頂いてありがとうございます。
長くなりましたのでここで章を改めます。
誤字訂正ありがとうございます。いつも助かっています。
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