223 マートたちの戦い 1
元魔龍王国のアマンダは蛮族を率いてラシュピー帝国と一年以上戦った経験を持っている。そして、罪滅ぼしとして半年以上人間のために蛮族討伐を行ってきた。その彼女の案にマートは魅力を感じて続きの説明を促した。彼女のことをいくらでも作り出せるオークとクローディアは侮っていたが、彼女の素質をちゃんとみていたのだろうか?少なくとも戦争の経験がないマートたちにとって、彼女の存在は貴重だった。
アマンダが言うには、マートの騎馬隊はまだウィード領に居り、マートが帰ってきたのも知らないので相手は全く警戒していないはずで、ジュディが転移門を使えば、相手の不意を突ける。ここで一番効果があるのは花都ジョンソンの奪還で、おそらく相手は一個騎士団しか居らず奇襲すれば勝てるだろうし、奪還に成功すれば相手の退路、糧道も遮断できるという効果まであるというのだ。さらにアマンダは、アレクサンダー伯爵を見つけることができれば皆の士気も上がるだろうと付け加えた。
「侵攻してきた6個騎士団のうち、マクギガンが3、リリーが1だ。ブルームやアレン侯爵領境他にも兵力を割いているだろうから、ジョンソンに残っているのはおそらく一個騎士団、800騎、8千人ぐらいだろう。こっちは800騎、どうやって戦う?」
「今はジョンソンに駐屯している連中は占領することに心を砕いているはずで、攻撃されるとは思っていない。都市の中心にあるジョンソン城の中に奇襲をかけ、騎士団司令部を潰すのと、城外に駐屯している部隊を駆逐するのはおそらく簡単だ。問題は戻ってくる騎士団とどうやって戦うかになるはずだよ」
「なるほどな。皆はどう思う?」
マートは、その場にあつまった連中に聞いてみた。誰もダメとは言わない。
「いいんじゃないかねぇ。神出鬼没の猫らしい作戦さ。花都ジョンソンの守りはここいらでは一番硬い。伯爵領の騎士団だけで6万の敵を一週間足止めできてたぐらいだ。奪還したら、相手はまた攻めるのかって躊躇するんじゃないかな」
アニスの言葉にみんなが頷いた。
「よし、じゃぁそうするぜ。騎馬隊、討伐隊は中央広場に集合だ。一時間後で良いか?アニスたちも衛兵隊で手の空いてる連中に声をかけて怪我人の収容や食料の輸送を手伝ってくれ」
「おぉーー!!」
準備がバタバタと始まった。花都ジョンソンは陥落して三日、怪我人なども沢山いるだろうし、物資も足りていないだろう。ウィードの政務館の裏に建てられていた倉庫が解放され、さまざまな救援物資を衛兵隊は手分けして準備した。先頭には騎馬隊のシェリー、オズワルトと討伐隊のワイアットとアマンダが競うように並んでいる。ジュディの横には、彼女が転移門呪文で王都から連れてきた嫡男であるセオドールと十数騎の騎士たちも居る。
「セオドール様、お嬢、すぐにアレクサンダー伯たちが見つかればいいな」
「うん、ありがとう。猫」
「どこに転移門を開く?」
「少し広い場所が良いわよね。城の中庭でいいかしら?」
マートが頷くと、ジュディは呪文を唱え始めた。およそ五分程詠唱が続く。
『転移門』
ジュディの前に、直径三メートルもある黒い球が浮かんだ。そして黒い色が薄れていくと、向こう側に、別の場所の中庭の景色が広がる。ジョンソン城の中庭だ。
「猫、気をつけてね」
「さんきゅ」
ジュディの声に、マートが両手に剣を抜き、その違う光景が映し出された珠の中に飛び込んでいった。騎馬隊、討伐隊のメンバーも彼を追うようにして次々と入って行く。
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ジョンソン城を突如襲撃したマートは、城の中庭から空中に浮かんだ。いつもなら皆の前でこのような能力を隠しているマートだが、この緊急事態であるし、魔法で飛行できるものも居るので飛行ぐらい良いかと考えたのだ。
ウィード子爵領は、もともとアレクサンダー伯領の一部だったこともあり、騎馬隊のメンバーには、ジョンソン城に来たことのある者も多い。そして、マート自身も何度もこの城は訪れたことがある。鋭敏知覚をフルに利用し、ジュディ、エリオットと念話をつないでマートはどこに誰が居るのかを伝えていく。騎馬隊のメンバーはその情報を利用して、常に局地的な数の優勢を確保し、必要があれば挟み撃ちなどもして相手を掃討し始めた。俯瞰で敵の存在を把握が可能で土地勘のある騎馬隊と、数日前にようやく占領しただけで、普通に歩いていても城内で迷うハドリー王国の騎士たちでは戦の優劣は明らかだった。ジョンソン城は瞬く間に騎馬隊の制圧下に置かれたのだった。
一方で討伐隊はワイアットの指揮のもと、ジョンソン城の正門からアマンダを先頭に城の外で駐留しているハドリー王国騎士団に襲い掛かった。彼らは八千ほどの人数が居たはずだが、有力な騎士たちはジョンソン城の中にいるので、外にいた連中は従士たちがほとんどだ。全身甲冑の騎士と比べれば、従士たちは弓などを撃つことはあっても接近戦の能力は格段に落ち、かつ指揮者もいない。オークジェネラルとしての力を取り戻しているアマンダは、それこそ薙ぎ払うかのように彼らを蹂躙して回り、市街地に居たハドリー王国騎士団の連中はろくな抵抗もできず大量の死者とけが人を出して花都ジョンソンの外に追い出されたのだった。蛮族討伐隊の恐ろし気な姿を見てジョンソンの市民たちも最初は混乱したものの、彼らの横には嫡男であるセオドールの姿があり安心して蛮族討伐隊に協力したのだった。
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