222 さて、どうする (ウィード子爵領地図あり)
マートはジュディからの念話を聞いて、天を仰いだ。ハドリー王国の狙いはアレクサンダー伯爵領だったのか。アレン侯爵領はアレクサンダー伯爵領と王都のちょうど間の位置にある。クローディアが化けたアレン侯爵の指示でアレクサンダー伯爵領と王都の間の連絡は遮断されてしまっていたのだろう。そして、アレクサンダー伯爵領がハドリー王国の手に落ち、アレン侯爵もハドリー王国と戦えないとなれば、王国東部はハドリー王国の手に落ちてしまうことになる。そして、マートの領地もアレクサンダー伯爵領のすぐ南なのだ。領地もそうだし、リリーの街には知り合いがたくさん居る。
マートはジュディから聞いた内容を長距離通信の魔道具をつかってライラ姫に伝えた。幸い、彼女は第二騎士団長エミリア伯爵の所に居る。何らかの手は打てるかもしれない。
“わかりました。マート様。幸いクローディアは逃げ去りました。残る国王陛下のほうはエミリア伯爵と共になんとかできないか考えてみます。ジュディ様と領地ウィードにお戻りください。王国東部が窮地にあるというのに、王家としてそちらにはすぐに救援を出せそうになく申し訳ありません。アレクサンダー伯爵にも申し訳ないとお伝えください。もし、できればですが、戻られる前に、聖剣を私の許に届けて頂けませんか?先程のご説明であれば、聖剣を使える騎士が居ればすぐわかるのでしょう?第二騎士団にいないか探してみたいのです。もしその者が居れば聖剣の力を使え状況は変えられるかもしれません”
“ああ、わかった。ありがとな。こっちはみんなで相談してみる”
マートとジュディは海辺の家で合流し、幸いジュディがフレア湖畔の砦を知っていたので、聖剣をライラ姫の手許に届けると、二人でウィードの街の領主の館まで転移したのだった。
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「猫、良く帰ってきてくれた。ジュディ様もご無事で何よりです。これで少しは戦える!」
マートたちを出迎えたのは、家令のパウル、騎馬隊長シェリー、衛兵隊隊長アニスたちをはじめとして、ウィード男爵領の面々だった。
「みんな集合だ。状況を教えてくれ」
マートは半ば叫ぶようにしながら、領主の館の一番大きな会議室に入った。大きな地図や各部隊の面々も一緒に入っていく。
「状況を説明します。ハドリー王国がアレクサンダー伯爵領ホワイトヘッドの砦に侵攻したのは2週間ほど前、マート様が王都に向かわれた三日後でした。軍勢は6個騎士団。およそ五千騎、従士なども入れると五万人の兵力です。対して、ホワイトヘッドの砦を守っていたのはおよそ100騎、2千人でした。残念ながら兵力差は如何ともしがたく砦は1日で陥落しました。その後、ハドリー王国は破竹の勢いで侵攻し、花都ジョンソンは粘ったものの三日前に陥落。ブルームの街はそれより前に陥落しており、現在、一個騎士団がリリーの街、三個騎士団がマクギガンの街に向かって侵攻中です」
報告を始めたのはアレクシアだ。彼女はマートの副官として情報を一手に集める立場にある。
「敵の指揮官は?それと、アレクサンダー伯たちはどうしてる?」
「敵の指揮官は第一王子のカインです。彼はマクギガンの街に向かう三個騎士団を指揮しています。別動隊のリリーの街に向かっている騎士団を指揮しているのが第二王子のグラント王子です。第二王子の側には身長三メートル近い者や肌が緑色の男たちが居たという目撃情報があります。アレクサンダー伯爵と奥様方、伯爵家の騎士団長は花都ジョンソンの陥落の際に行方不明です。生き残りの騎士団を率いて次男のロニー様と前騎士団長のランス卿がマクギガンの街で指揮をとられています。リリーの街は代官であるバジョット男爵が指揮されています。また、アレクサンダー家からの連絡によるとアレン侯爵家には救援を依頼したそうですが、何も動きはなく、またアレン侯爵家領にはハドリー王国騎士団も侵攻していません。アレン侯爵家がハドリー王国に寝返ったのではないかと皆不安に思っています」
「お父様……」
アレクサンダー伯爵と母親が行方不明だと聞いて、ジュディはその場で膝をついた。心配だろうが捜索隊を出す以上のことを今はできない。アレクシアの報告を聞いて、マートは集まっている面々を見回した。パウル、シェリー、アニス、アレクシアの他、エリオット、オズワルト、アズワルトのグールド兄弟、家令補佐のライオネル、内政官の筆頭を務めるようになったケルシー、そして元魔龍同盟のワイアットとアマンダだ。皆心配そうな顔をしている。マートは王都での現状を包み隠さず話した。
「なんと、ということは当面の所、救援の可能性はないということですね」
騎馬隊の副隊長をつとめるオズワルトがそうつぶやく。
「さて、じゃぁ、俺たちはどうするのが良いと思う?伯爵の探索に行くか?ランス卿を手伝いに行くか?それともリリーの街に救援に行くのか。こういうのを考えるのは俺は苦手なんだ。シェリーのところの騎馬隊はどれぐらい動けるんだ?」
「300騎、全員ここに集結している」
ウィード子爵領では、騎士団というものは存在しない。全員が乗馬する騎馬隊だ。騎士に比べて鎧の軽量化を図り移動速度は格段に速い部隊である。軽量化はしているが、鎧はすべてドワーフがミスリル材による補強を行っている逸品で、防御力は遜色ない。
「ワイアット、蛮族討伐隊の方はどれぐらい動けそうだ?」
蛮族討伐隊というのは、アマンダたち元魔龍同盟の面々が魔龍王国から脱出した後、前世記憶を持つ面々から有志を募り蛮族討伐を主にしている部隊のことだ。指揮官はワイアット。彼らの活躍でウィード子爵領からはほとんど蛮族が駆逐され、その活躍はウィード子爵領内では知らないものがいない程になっており、さらにその名声を聞いて魔人と呼ばれて迫害を受けていた連中がどんどんウィード子爵領に流民として流れ込んで、規模は徐々におおきくなり、さらに蛮族討伐が進むという好サイクルになっていた。
「500騎になります」
「あわせて800騎か。増えたなぁ。パウル、ライオネル、どうすればいいと思う?」
彼らは相談したが、結局自信なさげにマクギガンの街に移動してランス卿の指示を仰ぐのがよいのではと提案してきた。彼らにしても騎馬隊の隊長であるシェリー、グールド兄弟にしても戦争を指揮したことはないのだ。だが、そこでひときわ大きな体のアマンダが立ち上がった。
「ダメだよ、そんな事をしたら勿体ない。狙うべきは花都ジョンソン奪還だよ」
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