219 聖剣庫
残ったオーガナイトとオークウォーリヤーにお前たちは見捨てられたんだと降伏勧告をしたマートだったが、彼らは頑なに戦いを止めようとしなかった。
“蛮族とはそういうものだよ。人間とは考え方が違うんだ。あいつらに義理とか義務とかいう人間の理屈、命を惜しむという感情とかは通じない”
諦めきれないマートに、ニーナは呆れてそう念話を送った。傷ついて歩くことができないオークウォーリヤーすら、戦いを止めようとせずに攻撃を続けてくるのにマートは困惑し、アレン侯爵の監禁場所を知るのに記憶奪取ができないかというのも考えたが、ニーナによると人間が蛮族の記憶を奪っても検索できないということであったので、最終的には止めを刺すことにしたのだった。
戦いに決着がついたころになってようやく、アレン侯爵家の騎士たちが数人武器を構えて、部屋に上がってきた。マートには彼らが戦いの様子を階下で覗いていたのを知っていた。二本の剣を構えてしかめっ面をしているマートと、足元に倒れているオーガナイト、オークウォーリヤーの姿を見て驚いていた彼らはマートの顔を知っていたようで、一体どういうことなのかと問うてきた。
「アレン侯爵は、蛮族に拉致され利用されておられたようだ。この部屋に居たのは蛮族が化けた偽物だった」
そう答えたが、騎士たちはそんな馬鹿なと信用せず、さまざまな質問をしてくる。だが、マートはそれに答えなかった。本来は敵を倒しきれない場合に、アレン侯爵家の騎士たちを巻き込もうとおもってわざと大きくした騒ぎだったが、結局クローディアには逃げられただけで、このような質問を受ける立場になってしまうとは予想外だった。
「信じるかどうかしらねぇが、調査はそちらですれば良い。俺は忙しいんでまたな」
これ以上は残っていても話がややこしくなるだけで、時間の無駄だと考えたマートはそう言いおいて、戦っていた地上三階の部屋の壊れた窓から外に飛びだしたのだった。
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別の貴族の館の庭にもぐりこんだマートは、事の顛末を長距離通信用の魔道具をつかってライラ姫に連絡をした。アレン侯爵の行方も気になるが、一番の問題は国王にかけたと思われる呪いの解除だ。呪いの解除には、神聖魔法の★4以上をもつ神官にお願いする必要がある。当然国王陛下から依頼すれば解除してくれるだろうが、この状況でそのような依頼をするわけがない。国王陛下自身が望まぬ呪い解除をしてくれるような神官が果たしているだろうか。マートが知っている範囲で呪いが解けそうな神官というと、以前のエミリア伯爵の討伐訓練や、魔龍王城にテシウスを倒しに行ったときに同行していたマシューぐらいだが、そのようなお願いができるほど親しいわけではない。
“聖剣です。もし呪いだというのであれば、聖剣にふれることによって、呪いは解けるはずです”
マートが呪いについてどうしたらよいかを尋ねると、ライラ姫からはそういう返事が返ってきた。マートが聖剣は王城にあるんじゃないのかと尋ねるとそうなりますという返事が返ってきた。
長距離通信用の魔道具なので直接会話と勝手が違い、マートはもどかしさを感じたが、彼女の説明によると、聖剣は王城の地下にある聖剣庫という場所に保管され、王家の者だけが通ることのできる通路をつかって王城からその聖剣庫にいくことが出来るらしい。だが、建国の頃から王族に伝わる伝承によると、聖剣に関わる魔法使いは王城を経由せずにその聖剣庫に出入りしていたのだという。
マートはその魔法使いこそピール王国の魔法使いで、エルフに魔道装置を預けた張本人だろうと考えた。聖剣へのお告げをする魔道装置やステータスカードを造る魔道装置の解析はジュディやエリオット、そして魔龍王国からこちらに鞍替えした連中の協力もありかなり進んでおり、予言の対象となる条件などもわかってきたので、そろそろライラ姫と相談しようかと思っていた矢先だったのだが、今回の件で流れてしまっていた。王都に到着したときにすぐに相談しておけばよかったと悔やまれたが、今の状況では話ができないので、止めておく。
“わかった。とりあえず王城の地下にその聖剣庫とやらがあるんだな?”
“王城の西塔から地下通路が伸びています”
王城の西塔には窓がなく、出入り口は一箇所で厳重に警備されている。王都貴族街の地下には、下水路が北から南に流れていたはずだが、聖剣庫というのはさらにその地下ということだろうか。魔法使いは転移呪文などで出入りしていたのだろう。マートは白み始めた東の空を見ながら、王城の警備は厳しいが、結局国王陛下もそこに居るという事を考えれば忍び込む必要があるのだ、休む暇はない、もう一息やるかと考えたのだった。
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