218 人間の言葉を話す蛮族
“マート、こいつは楽しみだね。どんなのが来るんだろ。今クローディアを倒しちゃダメだよ。せっかくの敵が逃げていっちゃう”
マートがどうするか焦っていると、相変わらずの調子の念話がニーナから届いた。焦っていたのがばかばかしくなる。おかげで気持ちが切り替わり少し余裕ができた。クローディアも逃げてるだけで攻撃してこないのなら、違ったやり方もある。
クローディアとマートの鬼ごっこにも似た戦いはそれから1分ほど続いた。アレン侯爵の執務室は机などの家具がほとんどひっくり返って、目も当てられない惨状となり、壁なども所々壊れてしまっていた。
そこに到着したのは身長が3m程ある2体の蛮族だった。オーガナイトと、オークウォーリヤーだ。このレベルの蛮族であれば、正直なところ敵ではない。マートは不審に思いながら、身構えたのだった。
「待たせたな、クローディア」
驚くべきことに、2体の蛮族は人間の言葉を話した。今まで、蛮族の言葉を話す人間というのは、前世が蛮族である場合に存在していた。だが、人間の言葉を話す蛮族など見たことがない。彼ら2体は、巨大な剣と巨大な斧という武器をそれぞれ持ち、クローディアを背後に庇って身構えた。
「ただのオーガナイトやオークウォーリヤーじゃねぇな。前世記憶持ちの蛮族ってやつか。確かに居ても不思議じゃねぇか。お前たちは魔龍同盟じゃねぇんだろ?どこのもんだ?」
マートは両手に剣を持ち、いつでも3人のいるところに突撃できるように身構えた。
「どこの者?ファイヤージャイアント様の配下に決まってるだろ。なんだ、クローディアが強敵だっていうから二人で来たのに、ただの人間じゃないか。よしトマス、さっさと片づけようぜ」
「わかった、パーシー」
オーガナイトのほうがトマス、オークウォーリヤーはパーシーというらしい。2体はそれぞれの武器を構えて、マートのいるところに走ってきた。
『痛覚』
マートの呪文に二体の蛮族は揃って顔をしかめた。
「うっ、くそっ。やるな」
「なにをやってるのよ。猫は魔法も結構やるのね。見誤ったわ」
『魔法解除』 ----ペインを解除
小手調べに使った呪術だったが、オーガナイトとオークウォーリヤーには有効だったらしい。だが、すかさずクローディアがそれを打ち消してくる。トマスが巨大な剣を、パーシーが巨大な斧をそれぞれ両手もって振るってくる。だが、肉体強化を使っているマートには、なんとか両手に持った二本の剣で捌くことができた。
『炎の矢』
「ギャゥ」
マートの拳から炎の矢がトマス、パーシー、クローディアにそれぞれ飛ぶ。クローディアにはそれほど効いていないようだが、トマスとパーシーにはかなりのダメージを与えたようだ。
“なーんだ、大したことなさそう。期待して損した”
“何言ってるんだよ。結構厳しいっつーの”
ニーナはそうマートに念話を送ってきたが、クローディアの方でも同じようなことを思ったらしい。
「これほど簡単に策が破れ、さらに、三体がかりでも、これほどとは。猫、あなたは一体何者なの?」
「何者と言われても、俺は俺だ」
「トマス!パーシー!!さっさとやっつけて」
「ウガッ!!」
【魂の叫び】
雄叫びを上げ、2体がマートに突撃してきた。息の合った動きだ。オークウォーリヤーの斧が地面すれすれを薙ぎ払い、飛び上がって避けようとする相手に斬撃を与えようとオーガナイトの剣がマートの首を狙う。
<地撃> 斧闘技 --- 下段薙ぎ払い
<破剣> 直剣闘技 --- 装甲無効技
<反剣> 直剣闘技 --- カウンター攻撃
マートは右手の剣を地面に突き刺して斧を止めると、姿勢を低くしてコマのように回り、オークウォーリヤーの脛を左手の剣で切り裂いた。
「ブモーッ!!」
オークウォーリヤーが悲鳴を上げた。本来であれば皮膚装甲の厚いオークウォーリヤーだが、カウンターが完全に決まったようだった。片方の脚が砕けてあらぬ方向に曲がっていた。
『転移』
その時、クローディアの詠唱の声が響き、傷ついた二体の蛮族を残したまま、彼女の姿が消えたのだった。
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