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猫《キャット》と呼ばれた男 【書籍化】  作者: れもん
第27章 捕虜奪還

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208 収容所


 マートは海辺の家で一晩を過ごした後、魔法のドアノブを差し込んだままであった断崖絶壁に戻った。そこから再び幻覚呪文で姿を隠し、空を飛んで魔龍王城の北側を見て回ることにする。以前倉庫棟を経由してこの山脈の北側に来た時は、雪も積もっていた時期で様子はつかみにくかったが、改めて見てみると、この魔龍王城の北側から東西に広い一帯は一面に緑の畑が広がっていた。

 

 そして、この広がった畑では、ゴブリンが農作業をおこなっていた。農作業をするゴブリン、これはマートたちが暮らすあたりでは見られない光景である。だが、このもう少し西に行ったところに行けば、魔龍同盟で蛮族の前世記憶を持つ人族がゴブリンたちに農業を教えていたところに出るだろう。マートはこのあたりにも魔龍王国の人族の姿がみれないかと探してみたが、そういったゴブリンを指導している姿は見つけることができなかった。

 

 マートは山脈沿いに東に向かって、働いている人族の姿を探した。もちろん東というのに根拠が有った訳ではない。だが、農業をするのに、北にむかうより、東か西に向かう方が寒くなくてマシだろうと言うのが一つ、そして東に向かえば、エルフの居る森或は内海に出ないかと思ったのが理由だった。そして、そのまましばらく飛行を続け、城塞都市ヘイクスから東に五十キロメートルほど進んだあたりでようやく荒地を切り拓く作業をしている人族の姿を見つけたのだった。

 

 彼らの人数はおよそ三百人。農具などもあまり持たされていない様子で、数少ない斧やのこぎりを交代で使用していた。服装は汚れ擦り切れて、かなりボロボロになっている。彼らは木を切り倒し、木の根などを取り除いて耕し、区画をつくって均し、荒地を開墾するという作業を続けていた。そして、日が暮れて少し周囲が薄暗くなって来ると作業を止めた。どこかに移動するらしい。マートはそれを尾行して、ようやく人族が沢山居る拠点にたどり着いたのだった。

 

 その拠点にはおよそ五千人ほどの人族が収容されているようだった。看守を務めているのはオーガやオークで、およそ二百体、他に魔龍王国と思われる蛮族の特徴を持つ人間が百人程居た。建物は丸太を組み合わせて作られた粗末なもので、魔法感知をしてみたが、魔道具での監視装置のようなものは見つからなかった。マートは幻覚呪文で姿を隠し、中の様子を探る。食べている食事は、貧しい農民と同じような物だったが、量は不足していなさそうだった。各部屋には外から鍵がかかるようになっており、一部屋には三十人ほどが収容されるようになっている。そのような部屋が十部屋ある収容棟が二十棟と、オーガやオークたちが暮らすテントのようなものが三十程、そして、おそらく魔龍王国のメンバーなどが暮らす二棟といった建物が有り、周囲は木の柵で囲われていた。常時建物の警戒をしているのは二十体ほどのオーガやオークたちだった。

 

 蛮族の看守だけを考えると、マートやニーナにとって、看守を倒し人族を解放するのは大したことではないように思われたが、問題は魔龍王国のメンバーだった。彼らの中にアマンダが居たのだ。以前魔龍王城で戦ったオークジェネラルを前世記憶に持つ女だ。あの時倒したはずだったが、やはり蘇生されていたのか。ということはクローディアも蘇生されているだろう。


 ただし、以前会った時からは、少し身体が小さくなっており、身長は二メートル超ぐらいになっていた。他にはどのようなメンバーが居るのかわからないが、同じような体格の赤い肌をした男なども居り、あのサイズであれば、おそらく前世記憶はオーガナイトクラスだろうと思われた。乱戦になってしまうと、収容されている人族たちに被害が及びかねない。

 

 さて、どうするか。マートは考え込んだ。

 

 一番の問題は五千人という人数だ。以前の魔石鉱山からの救出のときは、ドワーフたちは百人程度であったし、巨大蟻におそわれないという特別な液体があった。捕まっている五千人の中に、オーガやオークと対等に戦えるだけの戦力があれば、武装蜂起という形がとれるかもしれない。それと同時に、外からの救出のための部隊が居れば良いのだが、個人依頼という建前上、ワイズ聖王国の騎士団や、ウィード子爵領の騎馬隊、衛兵隊は動かせないだろう。ワーモンド侯爵家で、碧都ライマンに脱出してきた騎士とかが居れば最適か。

 

“ワイアットたちも戦えるよ?みんなでブワーってすれば倒せるんじゃない?”


 そんな事を考えていると、ニーナが思念を送ってきた。ニーナは殲滅を考えたのか。ワイアットも強くなってるんだな。知らなかった。

 

“オーガナイトやオークウォーリヤーと一対一はちょっと厳しいけど、オーガやオーク、ハイオークぐらいなら何とかなると思う”


“わかった。でも、とりあえず殲滅は巻き込まれるのが出てくるから最後に考えよう。まずはワーモンド侯爵を探して接触するところからだな。状況はライラ姫には伝えておくか”

 

-----

 

 マートは一旦収容所らしいところから離れ、ライラ姫に長距離通信用の魔道具で、人族の捕虜が収容されているところを発見したというのと、その状況を伝えておいた。ただ、まだワーモンド侯爵自身は見つけていないので、もう少しかかるかもしれないと釘をさしておく。ライラ姫からは、くれぐれも気をつけて無理はしないようにという返信がきた。


 すっかり暗くなった収容所を、マートは姿を隠し、物陰に隠れて移動する。魔法感知の警戒装置がないとはいえ、魔龍王国のメンバーには魔法の素養がある可能性もある。収容棟を順番に回って、会話などを聞いて回ったのだった。

 

「メナード、救いの手はまだか?」


「サミュエル様、もう少しお待ちください。救援は必ず参ります」


 そうしているマートに、少年らしい声と男性とのやり取りの声が聞き取れた。その棟での会話に耳を澄ませる。


「そう言って、すでに2年が経つのだぞ。父上が亡くなられ、我が精強なる騎士たちも病気やケガなどで倒れる者も多い。薄汚い魔人どもめ。もうそろそろ我慢も限界だ。僕はあの臭い食事にもうんざりしている」


「今、蜂起いたしましても、皆武器もありません。侯爵閣下が亡くなられ、われらとしても痛恨の極みでございました。ですが、幾らワーモンド家の騎士が精鋭とはいえ、オーガやオーク、魔龍王国の魔人を合わせると300。とても無理でございます。もし、ここの収容所の看守を全て倒したとしても、ここは敵の領地の真っただ中です。ラシュピー帝国に帰りつくのはおぼつかのうございます。ここ半年ほどは警備もかなり緩くなりました。魔龍王国の勢力は衰えつつあるに違いありません。もう少し御辛抱ください」


「誇りあるワーモンド家の騎士がオーガやオーク、ましてや魔人どもに負けると言うのか」


 マートは部屋の中を覗き込んだ。部屋の中は薄暗く、月明かりだけが、小さい窓から中を照らしていた。サミュエルと呼ばれたのは年の頃は十才ほど、襤褸を身にまとい、か細い感じの金髪のもじゃもじゃ頭の少年だった。彼の周りに数人の屈強そうな男たちが跪いていた。メナードと呼ばれていた男の年は30代後半だろう。黒い髪で髭も伸び放題だが、顔の彫りは深く精悍な男だった。亡くなった侯爵を父親と呼んでいたところを見ると、この少年は侯爵の子供という事なのだろう。


 周囲の扱いからすると、ワーモンド侯爵の嫡子発見か。ただ、困ったことにこの嫡子はすこし血の気が多そうだ。もちろん恨みがあって仕方ない事だが、マートがここで姿を見せても、魔人としてなにかグダグダ言われるとつまらない。これは、先にメナードとかいう男と接触をしてみたほうが良いかもしれない。そう考えたマートは、さらに情報を集めるべく、周囲を見て回ったのだった。


読んで頂いてありがとうございます。


2021.4.5 侯爵の息子は殿下とは呼ばないというご指摘をいただきました。名前を付けて様とします。それに伴って侯爵の息子だとわかるような会話にするため会話内容及びその後の記述も一部変わっています。


2021.4.8 感想を頂いた中でアマンダが一度倒されているのではというご指摘を頂きました。あれっという感じになってしまうのかなと思い書き足しました。

(彼らの中にアマンダが居たのだ。)以前魔龍王城で戦ったオークジェネラルを前世記憶に持つ女だ。あの時倒したはずだったが、やはり蘇生されていたのか。ということはクローディアも蘇生されているだろう。


 


誤字訂正ありがとうございます。いつも助かっています。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 五千人か。確かに、秘密裏に移動させれる人数じゃないですし、武器を渡しての反乱が良さげ。 [一言] 子供だし状況的に仕方ないが、面倒そうな嫡子だな。報酬の魔弓の事とか知ったら、やらん!とか…
[気になる点] "殿下"というのは皇族、王族の敬称なので侯爵家の嫡子につけるものとしては違和感があります
[一言] こんな人数の魔人を何処から集めてきたやら?
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