198 海の母
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岩礁の一つに立ってマートは答えた。波の間から、半ば透けた白い肌、青い髪の女性が姿を見せた。瞳は深い海を思わせる青黒い色だ。精霊なのであろうが、かなりの力を感じる。シェリーとアレクシアには姿は見えていないようだった。人魚の女王 ミーナはその姿が見えているようで、胸の所に手を置き、お辞儀をしている。人魚のほとんども同じように見えていない様子だったが、女王の様子を真似て、深くお辞儀をしていた。
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マートも彼女に丁寧にお辞儀をした。それを見て彼女はにっこりと微笑んだ。シェリーとアレクシアの二人もかなり酔ってはいたが、何かが起こっているといるのだと察して、マートに倣ってお辞儀をした。
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約束?海の母という精霊は人魚を保護したいのだろうか。もちろん彼自身は人魚と戦うなどとは全く考えていないのだが、海の母は何か心配事があるというのだろうか。
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ヒュドラを倒した俺に人魚たちを守ってほしいというのか。それはまるで、海の母が人魚たちを守るためにヒュドラを遣わしていたような言い方ではないか。いや、実際そうなのかもしれなかった。
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マートがそう言うと、海の母はにっこりと微笑んだ。
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海の母はそう言うと、左手を振った。すると、海中から馬の上半身に、下半身は魚という生物が現れた。それも馬の前足には水掻きがついている。馬より二回りは大きいだろう。たしか、ヒッポカムポスと呼ばれる珍しい魔獣である。
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この魔獣を乗り物として使えということか。マートはそのヒッポカムポスに手を伸ばした。ヒッポカムポスはおずおずとマートに近寄り、そしてその頭をマートの掌の下におしつけるようにしてくる。マートはゆっくりとヒッポカムポスを撫でた。
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マートは頷き、そのヒッポカムポスの顔をじっと見、その額に、まるで稲妻のような白い印が有るのに気が付いた。
「お前の名は稲妻を意味するライトニングだ。良いか?」
ヒッポカムポスはそう言われて、大きく嘶き、そして頷いた。
「まるで言葉が判っているみてぇだ」
マートの言葉に、海の母は大きく頷いた。
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マートが頷くと、海の母は、再び海の中にその姿を消していった。
「皆、うやうやしくお辞儀をしていたが、何者が居たのだ?」
シェリーとアレクシアが慌ててマートに駆け寄り尋ねた。
「海の母とよばれる精霊だ。普通の精霊よりもっと力を持った存在だと思う。人魚族と仲良くしてほしいと頼まれた」
マートは彼女とのやり取りを二人に説明した。
「だから、その魔獣が現れたのか。海の中から急に現れた時にはどうしようかと思ったぞ」
「そうだろうな。ライトニングと名前を付けた。ライトニング、俺を乗せてみてくれ」
マートがそう言うと、その魔獣はマート達の立つ岩に近づき、乗り移りやすいように身体を寄せた。マートが乗ったが、ライトニングはまだ岩に身体を寄せたままだ。
「二人に乗れと言ってるみたいだぜ?」
マートがそう言うと、ライトニングは肯定するかのように嘶いた。シェリーとアレクシアは顔を見合わせたが、おぼつかない足取りでマートの前と後ろにそれぞれ身を寄せるようにして乗った。
「じゃぁ、人魚の女王 ミーナよ、俺は帰るよ。また改めて」
ライトニングの上でマートは人魚たちに手を振った。
「くちに、みにみみきんらつらのなみら……(はい。人魚族の保護者よ。近いうちに是非また)」
ライトニングが海を走る速度は非常に速く、あっという間にマートたちは元の浜辺に着いた。マートはライトニングに言って馬の姿に変ってもらう。ライトニングの姿は馬になっても、普通の馬より一回り大きかった。
「マート殿、これで普通に馬に乗れるな」
「ああ、この馬は普通じゃないけどな」
人魚族たちとの宴会もあり、そろそろ日が傾きはじめていた。酒が入ってるマート達は一旦海辺の家に行って一晩を過ごしてから、改めてメイスンの町に向かうことにしたのだった。
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