197 人魚族の真珠
2021.3.14 妖精語に一か所し忘れてました。ご指摘ありがとうございます。
人魚の案内で、マートたちは沖の岩場に向かう。だが、途中でマートは顕現したままのニーナがヒュドラを倒した手前の岩場に倒れているのに気が付いた。あのニーナがと、マートは目を疑った。幸いまだ人魚やシェリー、アレクシアは気づいていない。マートは急いで顕現を解いた。ニーナの姿が岩場から掻き消え、マートの腕の中に戻る。
“ニーナ大丈夫か?”
マートは海上を走りながらニーナに念話で語りかけた。返事はない。マート自身の体調には特に変化はなかった。死体の処理といっても、こいつは何をしたんだろう。何度も話しかけると、ようやく、おぼろげな返事があった。
“ごめん、だいじょうぶだよ。この毒がすごいの。ちょっと強すぎて酔ってる”
“おいっ!”
マートは思わず声を出しそうになった。たしかにニーナがわざと毒を摂取するのは知っていたが、まさかあんなのを舐めたのか?肌に触れるだけで火傷しそうなのに。マートはニーナの記憶をなぞった。激臭と強烈な痛みに、あわてて遮断する。
“マートも舐めたら病みつきになっちゃうよ。でも、今はまだだめかな。しばらく動けそうにない”
相変わらずのペースだ。
“まぁ、大丈夫ならいい。しばらく休んどけ”
“……”
ニーナから返事は途絶えた。表現が正しいのかわからないが、寝ているのだろう。そんなやりとりをしながら走っている間に、沖の岩場がだんだんと近づいてきた。岩場といっても、ところどころ島のようにもなっていて、帯状に水深の浅いところが伸びている。今日は天気も良く、波も穏やかで、海はきらきらと光を反射しているが、透明度が高く、その水深の浅いところでは色とりどりのサンゴ礁が広がっているのが見えた。だれかが知らせたのか、人魚たちが岩場の上に座り、マートたちに手を振っている。みんな笑顔で嬉しそうだ。200人ほどは居るだろう。マートたちも手を振り返した。
人魚たちの上半身は男性も女性も人間とほぼ変わらないように見えた。違うのは、髪が青や水色、ピンクといった色であるところだろうか。服は纏っておらず、下半身は腰のあたりから魚のような尾ひれが伸びている。
人魚たちのいる岩場に到着すると、人魚たちはマートたちに近づいてきた。飛びついて抱きしめてくる。マートたちは水上歩行の呪文を解き、抱擁を返した。シェリーとアレクシアは人魚たちの友好的な様子に戸惑っているようだった。
「ちすにきちからなきらつちにもちとにかち……(ありがとうございました。私はこの里の人魚たちの女王、ミーナ。人の子よ。あの怪物は長くこの岩場に棲み私達人魚を脅かしてきたのです。倒してくださったおかげで、私達は平穏な日々を送ることができます。あなたたちは、陸の方にある町の方ですか?)」
人魚たちの中でも、髪に多くの真珠の飾りを付け、豊かな身体と濃い蒼の髪をした美しい女性がマートにそう語りかけてきた。マートの横で、ウェイヴィが彼女の言葉を通訳してくれる。
「俺たちはここからもう少し遠くの町から来た。俺の名はマート。彼女はシェリー、そしてアレクシアだ」
シェリーとアレクシアが人魚の女王にそろってお辞儀をした。女王も、二人に丁寧にお辞儀をした。
「俺は、今度、ここから見える人族の町の領主となったので視察にきたんだ」
ウェイヴィの翻訳を聞いて、人魚たちはどよめいた。
「くにからつらのなみららなしいとなのち……(人族の王ですか?)」
あわててマートは首を振る。
「人族は同族内で戦っているからな。人族の王なんてものは居ない。単純にこのあたりの領主というだけだ」
「とらなみちみらしいとなみい のらみらちかちすにてら……(そうなのですね。このあたりを治める人族の王が優しそうな方でよかった。我々人魚族はあまり戦いの手段を持ちません。是非末永く我々の友で居てくださるとうれしいです)」
「ああ、俺も戦いは好きじゃない。お互い仲良く暮らしたい」
人魚の女王 ミーナはマートににっこりと微笑んだ。
「らすいにみらなかちきいてらんらなにとにかいらすにもちとな……(お礼の宴を用意しております。是非お楽しみください)」
マートたちが頷くと、人魚たちは採れたての魚や海藻類、海藻からつくったという酒などを持ちより宴会となった。人魚たちは歌が大好きらしく、酒が入るとすぐ楽しそうに合唱などをし始め、マートも自分のマジックバッグからキタラを取り出して、演奏を始めた。
「となこちすちとににみいにすら らなとちもち……(素晴らしい音色、王様。命を救ってくださってありがとうございました)」
そういって、マートに酒を注いだのは丁度、マートたちが来た時にヒュドラに襲われていた女性だ。彼女たちは服を着ていないので目のやり場に困るなとマートが思いながら酌を受けていると、シェリーとアレクシアもマートに近づいてきた。彼女たちもそこそこ酒を飲んでいるようで足元がおぼつかなさそうだ。
「マート殿。嬉しそうではないか。私の酒もどうだ?」
「マート様、私のお酒も飲んでください」
彼女たちはすっかり酔っ払っていた。たしかに人魚たちは友好的ではあるが、少し気を許し過ぎだろうとも思ったが、シェリーは酒には弱いんだったなと思い出した。アレクシアもそうなのかもしれない。2人ともマートにしなだれかかってくる。
「となののちすにかちみらとにみみしいにかちしちにかいにすな……(すっかり楽しんでいただいているようですね。これは少ないですが、ヒュドラを倒していただいたお礼の品です)」
人魚族の女王 ミーナは、何か合図をした。人魚族の男性が4人、幅が一メートルはある巨大な二枚貝を運んできた。それを開けると、巨大な宝石サンゴや真珠が大量に入っていた。
「これはすげぇ、こんなに貰っていいのかい?」
「しらなつららんらとちもいのなしちとちに。……(どうぞお納めください。このあたりの海では、こういったものが沢山採れます。ですが、道具を作るための金属や食料など不足しているものがあります。定期的に交換などしていただければ嬉しいのですが)」
「わかった。それはこちらも望むところだ。だが、あんたたちと話せる人間は俺しかいない。具体的に何が必要か、整理しておいてくれないか。また近いうちに訪れることにしよう」
「くちに、ちすにきちからなきらつちにもちとな……(はい、ありがとうございます。是非お願いいたします)」
・・・・・・・
その時、初めて聞く精霊のようなもの声が、マートの耳に届いた。
読んで頂いてありがとうございます。
交易については、言葉の問題で少しづつしか無理そうです。
浜辺の告白をいろいろ考えすぎたのか二人は酔っぱらってしまった模様……?
誤字訂正ありがとうございます。いつも助かっています。
評価ポイント、感想などもいただけるとうれしいです。よろしくお願いします。




