192 港街グラスゴー訪問 【新領地地図付き】
祝勝会、そして新年のパーティを終えたマートは、自領に戻った後、新しく拝領したウィシャード渓谷以南の地域、港街グラスゴーとメイスンの町を訪れるべく、ウィードの街を出発した。元々ウィードの街一帯だけであった領地は、今ではブロンソン州からの避難民を受け入れることによってどんどんと開拓地が広がり、シェリーの町(当時は村)までだったものが今では南の外海にまで到達して当初の倍ぐらいまで広がっていた。そこにさらに新しい領地が加わって、アレクサンダー伯爵領の半分に匹敵するほどまでに達していた。ただし、これは広さだけの話であり、現在のところ、半分以上はまだ未耕作地であり、家すら十分に建てられてはいないところも多かったのである。
また、ウィードの街から港街グラスゴーの間も未開拓の森林地帯が広がっており、街道も直接には繋がっていない。ルートとしては、ウィードの街の最東端の村からアレクサンダー伯爵領のリリーの街を経由していく必要があった。この道のりは、マートが1人で真っすぐ飛行すれば実は3時間程の距離ではあるのだが、今回は、正規の訪問となるため、子爵領の騎士団長であるシェリー、衛兵隊副団長アズワルト、家令補佐のライオネル、子爵補佐官のアレクシア、そして騎馬隊24騎、事務官20人を連れて、馬で移動することになったのだった。ちなみに、家令のパウル、衛兵隊隊長のアニス、子爵家付魔法使いであるエリオット、副騎士団長のオズワルトやエバ、アンジェはウィードの街で留守番となった。
実はマートは馬があまり得意ではない。馬車ならまだ良いが、直接触れたり、乗ろうとすると何か感じ取るものがあるのか馬の方が怯えて走れなくなることが多いからだ。冒険者であった頃は、馬に乗る必要もほとんどなかったので問題なかったのだが、貴族として騎兵隊を指揮するということになれば困ったことになりそうだった。今回も、なんとか従順な馬をなだめすかせて、旅を続けていた。
初春のこの時期、この辺りは雨が多い。覚悟はしていたが、旅を始めてすぐに雨が降り始めた。ウィード領内の道路はパウルたちが苦心して整備しているだけあって雨がふってもぬかるむことなかったが、アレクサンダー伯爵領に入ると街道は酷いぬかるみとなり、何度も馬は足を取られ無駄に日数を費やす羽目になったのだった。
港街グラスゴーは人口五千人程の大きな街だ。なだらかな丘の上に築かれたこの街は、ほとんどが真っ白な建物で構成されており、到着したときにはあいにくの雨ではあったものの、それでも海とのコントラストは素晴らしく美しかった。マートの到着に、グラスゴーの内政官や衛兵と思われる連中が街の城門の前にずらりと並び彼を歓迎したのだった。
「マート子爵、遠いところをよくいらっしゃいました。私はこの街で内政の長官を務めてさせていただいておりますシートンと申します」
かれらの一番真ん中に立っていた痩せてひょろっと背の高い男が、マートに丁重にお辞儀をした。他の内政官たちも彼に合わせてお辞儀をする。
「ご苦労さん。わざわざ出迎えしてくれてありがとうな。俺がマートだ。シートン、とりあえず政務館か何かに案内してくれ」
「あの……はい、畏まりました」
シートンは何かいいたそうだったが、マートの忙し気な様子に再びお辞儀をして、街の衛兵たちに案内を指示し、自分たちもあらかじめ用意してあった馬車に乗った。マートは衛兵たちに先導され、馬に乗ったまま港街グラスゴーの街を進み、ひときわ立派な館に着いた。館にはたくさんの人が集まっており、マートたちが到着すると、大きな歓声と拍手が上がったのだった。
「シェリー、すごい歓迎されてるな」
「うむ、そのようだな。マート殿は救国の英雄であり、元よりここはリリーの街からも近く、水の救護人と言う名前も知られていることだろう。歓迎されるのも不思議ではあるまい」
「たしかにそうかもしれないが……」
マートはライオネルとアレクシアを呼び、軽く耳打ちをした。2人は頷いて、配下の騎馬隊の隊士に馬を預けると、急いでどこかに走っていった。
「せっかく用意してくれた歓迎だ。シェリー、アズワルト楽しもう」
マートはそう大きな声でいうと、馬を下り、手を振り歓声と拍手に応える。シートンもいつの間にかマートの横に着き、彼を案内して館の中に案内していく。一階ロビーに到着すると、そこでは、衛兵らしき連中や内政官、事務官の他、多くの下働きの召使やメイドたちが集まって、すっかりパーティの用意が揃っていた。
「水の救護人とよばれる英雄、マート様の領主就任を祝って歓迎いたします!」
マートの到着に合わせてシートンが大きな声を上げた。港街グラスゴーでは、海の恵み、魚貝類の料理が豊富らしく、テーブルには様々な魚や貝を焼いたり、蒸したりといった料理が並んでいる。ひときわ目立つのが巨大な赤い甲殻類で胴体の甲羅の幅だけでおよそ1メートル、両足を広げると10メートルはあった。
「すごい料理だな。これはもしかしてカニってやつか?」
「はい、ヒュージシェルクラブと呼ばれているカニでございます。脚の肉が非常に美味で、是非マート様に味わっていただきたくて用意させていただきました」
シートンが得意げにそう説明してくれた。マート達3人は、一段高いところに作られた席に案内された。シェリーとアズワルトもこの扱いにすこし目を白黒させながらもマートと並んで座る。目のやり場に困るような服を着た女性が巨大な白い筒状の肉の塊を皿に載せて運んできて、マートに一口食べさせようとしたが、マートは彼女のフォークを受け取って、ぱくりと食べた。
「おお、塩味だけど、なんていうかすごい深い味がある。すごい旨いな。歯ごたえも面白い。さすが有名な港街だ」
その横で、シェリーとアズワルトもそれぞれ横についた女性たちに料理や酒を勧められている。
「ありがとうございます。酒も料理も十分に用意しております。配下の騎士の方々もお楽しみください」
そう言って、シートンは、部下に命じて、マートたちと一緒に来た騎馬隊や内政官たちも席に案内し、酒と料理を運ばせるのだった
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