190 激突4
ビルとハンニバルはオーガキングを挟み剣を構えた。マイクは倒れたものの、オーガキングも満身創痍の状態だ。1体と2人はにらみ合い、次の技を狙って牽制しあう。
【@3&!】
技を先に繰り出したのはオーガキングだった。自分のダメージを回復する闘技だが、先程テシウスが同じ技を使ったばかりだ。
<虚剣> 直剣闘技 --- 行動キャンセル技
オーガキングの身体に一瞬緑色の靄のようなものが現れたが、ハンニバルはオーガキングのモーションを見てその闘技を即座に阻止した。それと同時にビルが踏み込んでいく。
<破剣> 直剣闘技 --- 装甲無効技
ビルの剣がオーガキングの右手首を深々と切り裂いた。緑色の血しぶきが噴きあがる。オーガキングは激痛に叫び声を上げた。
『治癒』
マシューは、マートに治癒をかけた。手のしびれがきれいになくなった。そこでマートはちらりと彼自身が入ってきたところとは反対側のベランダを見た。見知らぬ男がそこに居る。
「気をつけろ、新手が居るぞ」
警告を発するマートにテシウスが斬りかかる。
「よそ見をしてる暇などないぞっ」
<速剣> 直剣闘技 --- 2回攻撃
マートは右手、左手と順番にその剣に爪を合わせ下から上に弾いていく。
ベランダに居た人影は、その間に翼を広げて飛んだ。あっという間に倒れているクローディアの近くに降下する。緑鱗の肌、白い縦長の瞳、そして翼。
「ワイバーン?ブライアンか?」
ブライアンはワイバーンの前世記憶を持つ魔人だったはずだ。だが、その男はそのマートの問いには答えなかった。背中に尻尾の像が浮かぶ。技をキャンセルするには、マートからの位置は遠すぎた。
【毒針】
『魔法の嵐』
毒針、そして高位集団魔法の連続攻撃。ジュディともう一人の魔法使い、そして、神官のマシューが毒針の激痛にうめき声を上げる。その直後の範囲攻撃魔法は、ジュディたち後衛だけでなく、ビル、ハンニバル、さらにオーガキングまでを襲った。
オーガキングが、ずずんっと音を立てて膝をつき、倒れた。ビル、ハンニバルも一気に吹き飛ばされた。ジュディとマシュー、もう一人の魔法使いは辛うじて生きているようだが、その場に膝をついて何もできない様子だ。
「味方まで巻き込むのかよ」
「よそ見をするなと言ったぞ。あれしきの攻撃に耐えれぬとは、オーガキングの名が泣くわっ」
<光剣> 直剣闘技 --- 必中攻撃
テシウスがマートに剣先を向け、スキルを放つと、刀身が光り、その光だけがマートに向けて飛んできた。マートは躱すことができず、その光は左肩に突き刺さった。その場に思わず膝をつく。
「テシウス、任せたぞ」
「任せておけ。いくら魔人とは言え、この程度では俺の敵ではない」
『転移』
ブライアンと思われる人物は、そう言うとクローディアを担ぎ、その場から転移呪文で消え去った。見回すと、まだ戦えそうなのはテシウスとマートだけだ。魔龍王テシウスはマートに向かって剣を振りかぶった。
“魔剣、加速”
マートの視界は一瞬ぶれた。加速の効果でゆっくりと振り下ろされるように見える魔龍王テシウスの剣。身体を起こしつつ、その剣を楽々とよけ、内懐に潜り込んだマートは、右のカギ爪でテシウスの腹を抉った。
「ばかな……?」
「誰が、俺の敵じゃないって?」
マートはカギ爪を回転させながらテシウスの腹から抜いた。テシウスはゆっくりと膝をつき、うつ伏せに倒れた。
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マシュー、ジュディの2人は幸い息が有り、マートが癒しの泉の水を与えるとなんとか意識を取り戻すことができた。そこからは、マシューが神聖魔法を使い死亡していたライナス、マイク配下の騎士たち、ジュディの同僚の魔法使いたちを蘇生させていく。肩が動かない、脚が動かないといった後遺症は残るものの、皆、命は取り戻すことが出来たのだった。
魔龍王テシウス、そして、オーガキングの首級を目印に城の目立つところに掲げると、城塞都市ヘイクスに居た蛮族たちは、雪崩を打って逃亡を始めた。とはいえ、ワイズ聖王国側も、この拠点を維持するような兵力はない。マートたちは転移門呪文でこの城を撤収することになりジュディが再び呪文が使えるのを待つ。
「囚われている女性たちが居るわ。救出したいけれど、可能?」
ジュディがそう言い出した。蘇生呪文を受けたばかりの者はゆっくりとしか動けず戦力にはならない。まともに動けるのはマシュー、ジュディ、マートだけだ。だが、マートは簡単そうに頷いた。
「この部屋に向かってきてる蛮族は居ない。どうせここで居ても同じ事だ。やろうぜ」
「では、マート、悪いが私に肩を貸してその女性たちが捕まっているという部屋に連れて行ってくれ。ジュディ、案内を頼む」
ライナスの言葉にみなが頷く。マートの言葉通り廊下に蛮族の姿はなかった。3人は部屋の扉を開け、薄暗い中に入っていく。
「ワイズ聖王国第三騎士団 ライナスである。助けにきた」
部屋にはおよそ30人ほどの女性が囚われていた。マートは鉄格子の鍵を外し、彼女たちにかけられた手枷、足枷を順番に解除していく。
女性たちは口々に感謝を述べる。その中でライナスが見知った顔がいくつかあった。
「これはワーモンド侯爵夫人、御無事でよかった」
ワーモンド侯爵は、この城塞都市ヘイクスの領主だ。以前彼が調査隊を率いてこの都市に来た時に何度か話したことがあり、そのときに夫人も紹介された覚えがあったのだ。
「助かりました、ライナス様。夫が魔龍王国のテシウスという者の捕虜になっております。私達は人質なのです」
「魔龍王テシウスは我々が倒しました。侯爵閣下は今どこに?」
「わかりません。ですが、捕まっていた皆の話を総合すると、ここからさらに北の蛮族の領域に連れて行かれたようです。そこでは蛮族の軍勢の食料を作らされているのだとか」
「ああ、俺は、魔龍同盟の連中が、蛮族に耕作を教えている話を聞いたことがある。人族に耕作を強要していても不思議じゃないな」
マートがそう付け足した。
「蛮族が農耕を?」
「ああ、だからこうやって簡単に増えて侵攻してきてるんだろ」
ライナスは少し考え込んだが、首を振った。
「とりあえず、ここを脱出しよう。報告は宰相閣下に」
そうして、マートたちは、囚われていた女性たちも救出して、王都に引き上げたのだった。
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「よくやってくれた。ライナス、ジュディ、マシュー、マート、そして騎士たち、魔法使いたちよ」
出迎えた国王は一人ずつを抱きしめ労をねぎらった。
「国王陛下、ありがとうございます。魔龍王テシウス、そして、オーガキングを倒し、魔龍王国の勢力は逃走を始めております」
「すばらしい。十分な褒賞をとらせよう。そちらの女性たちは?」
「ヘイクス城塞都市の領主でありましたワーモンド侯爵夫人、そしてラシュピー帝国貴族のご家族の方々です。魔龍王が居城にしておりましたヘイクス城塞都市で捕虜となっておりましたのを発見し、救出して参りました。夫人のお話によると、ワーモンド侯爵を含め多くの方々がヘイクス城塞都市の北部に連れ去られ、蛮族の軍勢のための食料を賄うために働かされているようでございます。彼女たちは、その人質だった様子です」
「なるほど、それについては早急になんとかせねばならぬな。しかし、夫人も酷い目に遭ってこられたであろう。宰相、失礼のないように夫人に休息していただくと共に、詳しくお話を伺うのだ」
国王の横に控えていたワイズ聖王国宰相、ワーナー侯爵がその場で膝をつき国王の命令を受けた。
「ライナスたち討伐隊は明日の夜は祝いの宴を執り行うゆえ、それまでゆっくりと休むが良い」
「ははっ」
読んで頂いてありがとうございます。
闘い長かった……。
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