189 激突3
『魔法解除』 ----ペインを解除
『治癒』
『痛覚』
ビルとハンニバルにかけられた痛覚呪文を魔法使いが解除し、壊されたライナスの左腕はマシューが治癒呪文で回復していく。だが、そのビル、ハンニバルに加え、マイクの3人は再びクローディアの痛覚呪文にかかり、3人ともその場に膝をついた。その様子を見てオーガキングはブモーッと雄たけびを上げ、巨大な石槌を振り回し、マイク、ビル、ハンニバルをまとめてふっとばした。皆、受け身も取れずに壁に叩きつけられる。
『加速』
ジュディがライナスに加速呪文をかける。ライナスは、両手で剣をもち、果敢にテシウスに斬りかかった。呪文の効果でライナスの剣は超肉体強化状態のテシウスの速度を越えた。テシウスの肩に一太刀、盛り上がった筋肉に赤い傷がぱっくりと開き、血が噴き出る。
「ほほう、やるな。だが、これで帳消しだがどうする?」
【肉体回復】
テシウスは自己回復のスキルを使用した。身体が緑色の靄のようなものに包まれ、みるみるうちに傷がふさがる。
『魔法解除』 ----ペインを解除
『治癒』
『痛覚』
マイク、ビル、ハンニバルの3人にかけられた痛覚呪文を魔法使いが解き、マシューが治癒を行うが、クローディアの痛覚呪文で立ち上がりかけた3人はふたたび膝をついた。そこにオーガキングがまた突進をして石鎚を振るう。同じことの繰り返しだった。3人ともまた壁に叩きつけられ、うめき声を上げる。
「もう一回だ。次の攻撃でテシウスを仕留める。それまで耐えてくれ」
ライナスはそう叫び、再び剣を振りかぶった。
『加速』
速度を増したライナスは、再び剣を構え、防御を捨ててテシウスの懐に飛び込み剣を突き出した。テシウスはその剣速を見て躱せないと判断したのか、逆に左の肩を突き出して、わざとライナスの剣を身体で受けた。そして、痛みをこらえながら右手の剣を横に薙ぎ払う。その剣は攻撃直後の無防備なライナスのわき腹を切り裂いた。
「うぐっ」
大量にこぼれる血。ライナスはテシウスの肩にささったままの剣を持っている事が出来ず、その場に崩れ落ちた。
「ライナス様っ!」
今度はジュディのその言葉を咎める声は無い。
「命を的に攻撃するとは、なかなかやるな。だが、俺を倒すには、もうすこし力が足りなかったな」
テシウスはにやりと笑い、自分の左肩に刺さったライナスの剣を顔をしかめながら引き抜いた。刺された左腕は動かないようでだらんと垂れたままだ。
『魔法解除』 ----ペインを解除
『治癒』
魔法使いとマシューは絶望しつつも、3人に回復魔法と痛覚呪文の解除を行う。今度こそ痛覚呪文に抵抗して見せようと唇を食いしばり立ち上がるマイク、ビル、ハンニバルの3人、3人に向かって石鎚を振り上げるオーガキング。
『痛……』
クローディアが再び痛覚呪文を唱えようとして詠唱が途中で止まった。
クローディアの胸元から飛び出た矢じり。クローディアの背後、大広間の2階のベランダにはマートの姿が有った。クローディアはその場に崩れ落ちた。
マートはそこから壁を走り、あっという間にジュディたちが戦っている場所に飛び込んだ。弓はベルトのマジックバッグに仕舞って、片手に強欲の剣を持ち、いままでライナスが立っていたところでいつでも斬りかかれるように構える。
「遅くなってすまん。ビル、指示を出せ。3人で戦ってた時、指示はお前さんだったろ」
マートは戸惑っているように見えた3人に声をかける。その声に3人の騎士はハッとした様子で顔を上げた。
「わかった。マート、魔龍王テシウスを少しの間だけでいい、1人で抑えてくれるか?」
「ライナスのおかげで片手が使えねぇみたいだな。これなら良いぜ。任せとけ」
「俺と、マイク、ハンニバルの3人でオーガキングだ。出来るだけ早く仕留めるぞ。ジュディたちは援護呪文を。マシューは、怪我の治癒優先、余裕が有れば援護呪文を頼む」
呪文をかけられる不安がなくなったおかげか、マイク、ビル、ハンニバルの動きが格段によくなった。
『加速』
ジュディが3人の騎士に加速呪文を使う。マイクの槍、ビルとハンニバルの剣が速度を増した。3人は連携してほぼ同時にオーガキングを襲う。オーガキングは、3人をその巨大な石鎚で薙ぎ払おうとした。マイクの槍はオーガキングの右胸に刺さり、ビルとハンニバルの剣は共にオーガキングの右脚と左肩を大きく切り裂いた。そして、巨大な石槌は、刺さった槍を抜こうとしたマイクを吹き飛ばした。
「「マイクッ」」
ジュディが叫ぶ。後ろの壁に叩きつけられたマイクは、そのまま地面に伏し、動かなくなった。ビルとハンニバルは2人でオーガキングに対峙する。その横で、マートはテシウスの前に立ちふさがった。
「1人で俺の相手をするってのか?」
【肉体強化】
魔龍王テシウスの問いに、マートは無言のまま魔獣スキルを使って応えた。
「ほほう、そうか。おまえさんも魔人って訳か」
テシウスも魔獣の前世記憶を持っており、それで、マートが魔獣スキルを使ったのは、すぐに判ったらしい。目を細め、剣を持ち直す。
「試してやるよ」
“僕にやらせてよ”“だめだ、みんなが居る”
ニーナが心の中で叫んだが、マートはそれを却下した。
テシウスは踏み込んでマートに切りかかった。まだ超肉体強化の効果が継続しているテシウスの剣の速度はマートから見ても尋常ではない。剣では捌ききれないと判断したマートは強欲の剣を放り出した。
【爪牙】
マートは体勢をずらし、剣技ではなく両手に生やした爪を使って格闘の技をつかってテシウスの剣をなんとか捌いた。その場で宙返りして、左足でテシウスの足元を刈る。テシウスは横にステップしてそれをかわした。
「ほほう、やるな。だが、いつまで持つかな」
マートの両手はまだ痺れている。テシウスはそのまま剣を横に薙ぎ、一歩踏み出してきた。マートはそれに合わせて飛行スキルを使い、吹き飛ばされる方向をコントロールして5メートルほど後ろに軽やかに着地した。
「なるほど、これも捌くか」
「片手しか使えないうえに、俺は防御に徹することができるからな。簡単なもんさ」
「ふっ、そんな軽口をいつまで叩いていられるかな」
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