187 激突1
「ち、みつかっちまったか。ウォークライを使うってことは、アマンダか?」
マートは勘で言ってみた。たしか、魔龍同盟でオーガキングの前世記憶をもつテシウスの他に有力者として名前の挙がっていた女性がそういう名前だった。前世記憶がたしかオークウォーリヤーだったはずだ。
その女性はにやりと笑った。
「よく知ってるね。私も有名になったもんだ。その目、黒い髪、こんなところまでもぐりこんで来てるってことは、あんたは水の救護人のマートかい?」
「そうかもな。オークウォーリヤーと聞いていたが、その効果だとさらに上位種か、オークジェネラル?」
「ふふ、よくわかったね。あんたも運が悪かったねぇ、この間1万人殺戮を達成して、進化したばかりさね。そうでなけりゃ、その小手先の幻覚で逃げれたかもしれないね」
「まいったなぁ、逃がしてくれないか」
「何ふざけた事を言ってるんだい」
“僕、でるっ 僕に遊ばせてっ”
マートの頭にニーナからの催促の念話が飛んできた。スキル面から考えるとニーナよりマートのほうが強いはずだが、そこは気持ちの問題があるかもしれない。手下のオークウォーリヤーも居る。顕現したほうが対処は楽かもしれない。
「本当に戦うのか?」
マートは地上に降りた。改めてアマンダに尋ねる。
「決まってるだろっ」
アマンダが矛を構え、マートに向かって突進してきた。肉体強化もしているのだろう。足跡が石畳に刻まれていく。
「顕現せよ、ニーナ」
マートの突き出した掌から黒い鎧姿のニーナが飛び出した。
【爪牙】
突進してくるアマンダと交差する。アマンダの矛を五本の指先から生えたカギ爪がいなし、もう片方の手のカギ爪がアマンダのわき腹を抉る。アマンダは虚を突かれながらも、身体をひねり致命傷になるのを避けた。一気に後ろに跳び退り距離をとる。アマンダがわき腹の傷を押さえつつ目を見開いてニーナを見る。
「こりゃぁ剣呑な娘だねぇ、何者だい?」
「初めまして、僕はニーナ。オークジェネラルのお姉さん、よろしくね、行くよ」
嬉しそうにニーナが空を駆けるように移動し、アマンダとの距離を詰めた。同時に尻尾から毒針がアマンダに向かって飛ぶ。マートはその様子を見て、右手に強欲の剣、左手は魔剣を抜く。
“ヴレイズも姿を現せ、ここの倉庫も焼き払っちまえ”
マートは、炎の精霊のヴレイズを召喚した。マートの前に、ヴレイズは姿を見せた。体長は1m程、翼を生やし宙に浮かんでいる。マートの周囲の気温が急上昇した。
アマンダはニーナに任せ、マートは剣を抜き、3体のオークウォーリヤーに向かって走り出した。
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マートに決行を伝えて暫くすると、城内の所どころで騒ぎが起こりはじめ、雰囲気は急に慌しくなった。
ジュディは転移門呪文を使って、ワイズ聖王国で騎士たちが待機している兵舎と魔龍王城の今居る部屋をつなぐと、次々と騎士たちを部屋に迎えていく。
第3騎士団副騎士団長ライナス伯爵、そして、同じ第3騎士団の2等騎士、マイク・スチュアートの他、マイク配下の騎士たち5人、騎士団は異なるが武闘大会上位入賞者の2等騎士ビル・ハインド、ハンニバル・バレル。そして、ジュディと、彼女の同僚で魔術庁のメンバーの魔法使いが1人。そして、王家に仕える神官であるマシューという構成だ。
彼らはお互い役割は決まっているらしく、何も言わずに魔龍王テシウスの居る扉の手前で身構えた。お互い頷き合う。
『盾』
『武器強化』
『命中強化』
『防御強化』
『魔法防御』
『防護』
ジュディやマシューたちの強化呪文が次々と騎士たちにかかっていく。タイミングを見計らい、ライナス伯爵が大きく頷く。ビル・ハインドの配下の騎士が大きく扉を開けた。
『魔法の嵐』
『魔法の嵐』
扉が開いた瞬間、ジュディたち魔法使いが連続して範囲攻撃魔法を部屋の中に叩きこむ。2つの範囲攻撃呪文が立て続けに部屋の中で荒れ狂った。
「突撃っ!」
その嵐が収まるか収まらないかというタイミングでマイクを先頭に騎士たちが武器を構えて突っ込んでいく。部屋の中は机がひっくり返り、オーガナイト2体と魔人2人が血を吐いて倒れていた。残ったオーガナイト3体はオーガキングと魔龍王テシウスを護るかのように剣を抜き身構えた。クローディアは、さらにその後ろに身を隠している。
突撃したマイクの槍がオーガナイトに突き刺さろうとしたが、そのオーガナイトは剣を横に振り、その槍の軌道をはじく。マイクに付き従って突撃した騎士が続けて槍を突き出すが、オーガナイトはその騎士の懐に飛び込み、下から上に斬りあげた。倒れ伏す騎士。そのオーガナイトがとどめを刺そうとするのをビルが妨げて盾で弾く。ハンニバルが残るオーガナイト1体に剣を振るった。そのオーガナイトは屈んでその剣を躱し、その剣の腹を横に払い叩き落そうとする。わざと手首の力を抜きそれを躱す、オーガナイトの足を払おうとする別の騎士、飛んで躱し、その脚を踏みつけるオーガナイト。攻防が一瞬のうちに繰り返されていく。
【超肉体強化】
「騎士が奇襲をしやがるのか」
魔龍王テシウスが青白く光った。悪態をつきながら、剣を抜き一歩踏みでる。ライナス伯爵が槍を突き出す。
「騎士だからなんだと言うのだ。必死に生きているのはそなたらだけではない」
ライナス伯爵の槍を、魔龍王テシウスはいとも簡単に剣を振るっていなしていく。
マイクと他の第3騎士団の騎士たち4人はオーガナイトたちが振るう剣を抑えこもうと動きはじめた。オーガキングには、ハンニバルとビルが対峙している。ジュディたち魔法使いは隙を見て、魔法の矢でテシウスの体力を削っていた。
『痛覚』
剣を振り上げたハンニバルとビルが足首の痛みで膝をついた。クローディアの呪術だ。すかさずオーガキングが巨大な石槌を振るう。ビルが身体をかばうように盾を構えたが盾ごと2人は石槌に吹き飛ばされ、大広間の壁に叩きつけられた。
「ブモーッ」
オーガキングはやったとばかりに雄たけびを上げた。マシューが治癒呪文を唱え始める。
「魔法使いは先にオーガナイト、次は魔法使いだ。マイク、オーガキングを抑えろ」
ライナス伯爵は目の端で状況を見てそう指示しつつ、目の前の魔龍王テシウスに目にも留まらぬ速度で槍を突き出す。
<五連突> 槍闘技 --- 5回攻撃
「ふんっ 甘いわ」
<反剣> 直剣闘技 --- カウンター攻撃
テシウスは、身体を捻り回転しながらライナスの懐近くまで飛び込んだ。横に大きく剣を薙ぐ。かろうじてライナスは左腕の防具で防いだもののそれは大きく凹み、左手首があらぬ角度に曲がった。
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