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猫《キャット》と呼ばれた男 【書籍化】  作者: れもん
第24章 魔龍王城

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185 催促


 ウィードの街の政務館。そこが今はマートの家だ。家と言っても、荷物のほとんどは海辺の家においてあるので、ここにはベッドや着替えの入れてあるチェストがある程度である。

 

 隣の部屋にはエバとアンジェが暮らしていた。部屋はたくさんあるので2人とも別の部屋にすればいいじゃないかと言ったのだが、2人共マートの部屋の横という位置を譲らなかったので、こうなったのだった。

 

 政務館には、他に新しく雇われた執事やメイド、下働きといった人間が暮らしており、もちろん昼間は騎士や内政官などが出勤してくる。交代で衛兵たちも常駐していた。

 

 マートは政務館に居る時に、あまり働く気はない。

 

 もちろん、重要なことはパウルやシェリーたちが彼に相談しにくるのだが、その時も方針や考え方を詰める以上の事はしない。どのみち、領地を治めるにあたって、内政にしても軍事にしても詳しいことは専門家である彼らに任せることにしていた。

 

 避難民が落ち着いた今では、時々、気が向いたときに領地を巡って人々が困ったことを解決すればそれで自分の役割は良いのだと考えていた。ジュディが転移を憶えた今となっては、魔術庁の仕事も必要に応じて転移してきて相談しにきてくれるので、王都に詰めるのは、新年のパーティ前後だけでよいという感じになっている。

 

 今日もマートは太陽がかなり高くなった頃にようやく目覚め、執務室に顔をだした。

 

「おはよう、パウル、何か変わったことは?」


「ウィードの街の人口が2万を超えました。街区をもう一つ増やしたいのですが、よろしいですか?」


 ワイズ聖王国では、人の住む地域の単位として、村、町、街、都市という4つのカテゴリーがある。村というのは、人々の暮らす集団としては一番小さい単位で、そこから人口が増え、定期的に市がひらかれるようになると町と呼ばれるようになる。この時、人口の目安としては大体五百人程度だ。そして人口がさらに増えて二千人を超え、常設の商店などが軒を並べるようになると、街と呼ばれるようになる。衛兵隊の大きな詰所が設置され、領主としては男爵クラスが任命されるのが通例で、マートが着任したとき、ウィードの街はこの規模だった

 街の上の規模である都市というのは人口が一万を超え、配下に街をいくつか抱え、子爵以上の貴族が治める所という定義だ。マートのように男爵が治める領地の主都が人口がこれほど多いのは異例であり、今では街区の大きさにしても、伯爵領の主都である花都ジョンソンを超えていた。


「もちろんいい。でも家の建築が進んでないのに街区ばっかり増えてないか?」


「しかし、道は先に整備しておきませんと後で大変な事になってしまいますし、新たに土地を割り当てて欲しいという要望が多いのです」


「そういうことか。わかった」


「街の城壁は本当に造らなくてもよいのですか?」


「ああ、それは、シェリーやアニスと何度も話し合った。造らなくてもいい。あんなのは邪魔なだけだろ。見張り台と整備された道路だけでいいって結論になってる」


「わかりました。あと、そろそろマート様の居城かお屋敷を計画したいのですが」


「あまり気が進まないんだがな」


「奥様もそろそろ決めませんといけません。高位貴族の方からも申出が来ております。貴族の家には後継ぎが必要です」


「そっちはさらに気がすすまねぇな。エミリア伯爵からの求婚を断った話はパウルも知ってるだろ」


「子供が不幸になるかもしれないから、結婚はしないというお話ですね。しかし、私から見れば、不幸ではなく授かった才能を示すもののようにしか見えません。すでにマート様が男爵となられ、領民からは身近な問題も対処してくれる方として慕われておられます。なので、我がウィード領で、肌の色が違う、目の形が違う、腕が3本ある、逆に1本しか無い、目が見えないなどといった者を魔人だといって差別するようなことはありません。また、マート様が英雄と呼ばれるようになって、そのような意識は国全体に広がりつつあります。気になさる必要はないのではないでしょうか」


 マートはそういわれて考え込んだ。


「まず、マート様のお城かお屋敷を先に造らせて下さいませ。土地の確保だけでもしたいのです」


「わかった。そっちについては、城じゃなく屋敷にしてくれ。ただ、土地の確保と計画だけにして、みんなの家の建築が落ち着いてから建てることで頼む」


「かしこまりました。あと、気が進まないというのは、存じておりますが、もう一点だけ。マート様は貴族で後継ぎが必要です。奥様は1人でなく、できれば複数の方を娶られるべきです」


 マートは頭をかきむしった。


「だーっ、とりあえず、狩りに行ってくる」


「マート様、護衛を」


「いや、いらねぇ」


 止めるパウルを振り切って、マートはそのまま、階段を降りて外に出て行ったのだった。


-----


“何か、どんどん面倒臭くなってない?重荷に思ってるのなら、さっさと、全部放り出しちゃえば?”


 ニーナがマートに話しかけた。

 

“うるせぇ、少なくとも重荷なんかじゃねぇよ。やりたい事をやりたい風にしかやってねぇ”


“なんだ、ちがうの?あれ?単に照れてるだけ?いつもは冷静なのにさ”


“そういうわけでもねぇんだが……いや、どうなんだ?自分でもわからねぇな”


“照れてないで、それなら、ここに巣を作ればいい。気が向いてる間だけ居ればいい。王都にも作ればいいし、何なら他にもね。牡も牝もそれでいい……”

   

“ニーナ、命令だ、暫く黙っててくれ”



読んで頂いてありがとうございます。

 

誤字訂正ありがとうございます。いつも助かっています。

評価ポイント、感想などもいただけるとうれしいです。よろしくお願いします。


2021.10.2  誤記訂正)隣の部屋にはエバとジュディが暮らしていた。

       →  隣の部屋にはエバとアンジェが暮らしていた。


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― 新着の感想 ―
[一言] ちゃんと獣の考え方なんだなw 貴族はたくさん妻がいるのは珍しくないよな跡継ぎが生まれないと大変だからいた方がいいってのは建前で女たくさん囲ってるだけなんですけどね^^とか有力貴族との仲良し証…
[良い点] マートに限っては、伊◯誠さんみたいにはならないな。 余裕で避けれる。 というか、しっかりと断ってるからね。 安心して見てられる。 [一言] どろどろは求めてません(キッパリ) 異世界無双系…
[一言] シェリーをマートの嫁に頼む
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