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猫《キャット》と呼ばれた男 【書籍化】  作者: れもん
第22章 王都でのウィード男爵

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176 2等騎士ライオネル

 

 エミリア伯爵邸でのパーティのあった翌日の昼過ぎ、マートの屋敷には早速ハンニバル卿の紹介だという若い男が訪れてきた。

 

「時間を頂きましてありがとうございます。ライオネルと申します。ウィード男爵の配下、シェリー1等騎士とは騎士学院で同期でした」


 赤毛の彼は勢いよくそう挨拶し、マートにお辞儀をした。顔を赤くして、すこし興奮気味のようだ。

 

「ああ、大丈夫だ。俺は冒険者上がりで、あまり作法とかは知らねぇし、こだわりもねぇ、楽にしてくれていいぜ」


 マートは彼を応接室に通し、気楽に話すようにそう言った。シェリーにも同席してもらった。

 

「はい、第2騎士団のハンニバル卿から、高名なウィード男爵のところで未開拓の土地もあり、人を集めていると伺いましたので、大急ぎで参上させていただいた次第です。何卒お助けください」


「ああ、人は集めてるよ。ハンニバル卿の紹介だから信用もする。だが、その助ける、助けれねぇの前に、とりあえず事情があるんだろ?聞かせてくれねぇか」


 話をしたのは昨日の今日だ。余程困っているのだろうか。マートはそう考えて、話を促した。


「ブロンソン州の話はご存知かと思いますが、ブロンソン州というのは、侯爵領に匹敵するほどの広さと穀物の取れ高を持つ王家の直轄領でした。ハドリー王国の侵略を受け、停戦がなった今も、大半は敵の占領下となっています。そして、ブロンソン州の住民でその難を逃れ、避難民として第2騎士団の保護を受けた者たちがかなりの数おります」


「略奪や虐殺など酷い目に遭わされることも多いからな。それを避けてきた連中が居るって事か」


「はい、停戦がなった今も、故郷に帰る事も叶わず、フレア湖の南岸に許された狭い土地で家ともいえぬ住居を建て、周りで簡単な畑のようなものを作って食うや食わずの生活をしているのです。ブロンソン州に領地を持っていた男爵や1等騎士の方々は、新しい領地を頂きましたが、そこには既に領民がおり、連れていくことのできた難民はごくわずかでした。現状に悲観して、王都や近隣の街などに移り新しい生活を始めたものもかなりおります」


「へぇ……そんなことになってんのか。大変だな」


「私自身は、ブロンソン州の州都で衛兵を務める2等騎士でしたが、現在はその地位を失い冒険者として暮らしております。もし受け入れてくださる領地があるのであれば、是非お願いしたいと思い参上した次第です」


 ライオネルはそこまで言ってマートの顔をじっと見た。


「なるほどな。どこも難民というと受け入れるのは嫌がるんだろうな。国やあんたたちを保護した第2騎士団はどうしてるんだ?」


 農民というのは自分たちが耕している土地に新しい人間が来るのを嫌う。農業というのは共同作業であり、お互い助け合って生きているからだ。そこに知らない人間が増えると今までのやりかたがうまく行かなくなったりする。もし受け入れるとしても時間がかかる。大量の難民など受け入れるのは難しいだろう。旅芸人としての生活をしていたマートにはなんとなくそれはわかった。

 

「はい。ハンニバル卿に仲介頂き相談させていただきました。エミリア伯爵もこの問題については、頭を悩まされておいでで、宰相閣下とも相談し、人数を受け入れるよう調整して頂いているのですが、なかなか捗々しくはありません」


「シェリーはどう思う?」


 マートはシェリーに尋ねた。彼女は去年開拓村を立ち上げたばかりだ。

 

「最近蛮族も落ち着いているようだし、私の村の近辺で開拓村を作ること自体は、大丈夫だろう。だが、領地までおそらく1月ぐらいかかる。移動がむずかしいのではないか?」


「移動か……確かにな」


 王都付近であればたしかに蛮族も盗賊も少ないが、普通の人間では旅などしたことないという者が大半であり、街道があるといっても、アンジェの両親などはマクギガンから花都ジョンソンという3日ほどの旅で盗賊に襲われているのだ。余程人数が多くなれば襲われることも少ないだろうが、その場合、食料や水の確保などにも時間がかかる。他の貴族の領地であれば、通過許可なども得なければいけない。


「ライオネル、あんたたちは、何人ぐらい居るんだ?」


「直轄領は、州の下に郡という男爵領と同じ程の単位がありまして、正確には私はブロンソン州の州都のあった郡からの難民のグループの代表の様なものを務めています。私達のグループで残っているのは女子供を合わせておよそ千人程でしょうか」


「あんたたちのようなグループは他にもあるのか?」


「停戦からほぼ半年経ち、すでにばらばらになったグループも多いですが、まだ大小あわせて10ぐらいは残っていると思います」


「なんとか力になってやりてぇが、ちょっと厳しそうだな」


 マートは顔を顰めつつ、そう言った。彼の経験から言っても、全部で1万人の移動などとても無理だと思えた。


「すこしぐらい距離がありましても、安住できるのであれば、今の何の希望もない状況よりははるかにマシなのです」


 ライオネルはそう言って食い下がった。


「困ったな。だが、わかるだろ?どうせ、開拓を始めたといっても、村で収穫を得るまでに早くても半年かかるんだぜ?うちも出来たばかりの領地で、そんな人数を少なくとも半年、長ければ数年養うなんざとても無理だ。うちに来れば安住できる?それは希望じゃない、妄想の類だ。うちに来ても、結局、食べるものもなく餓死したり、病気で死んだりとかになるのが関の山だろう。あきらめて、王都などで仕事を探したほうがいいんじゃないか」


「それについては、我々も話し合って参りました。葉類、芋類や豆類など1ヶ月で収穫できるものもございます。野の獣や野草などが全く無いわけでもございますまい。お願いしたいのはまずは移住の許可でございます。それがなければ、通過許可をお願いすることすら出来ません。そこから現実的にどうすればよいのかを御相談させていただければと」


「本当に新しい領地に移動できれば生きていけるのか?」


「無理な事は申しておりません」


 ライオネルの顔をマートはじっと見た。ライオネルもマートの顔をじっと見る。しばらく時間が経った。

 

「わかった、俺も頑なになっていたようだ。1万か。あんたたちの中には元衛兵は結構居るのか?」


「もちろん居ります。もし、お許しが頂けるのであれば、冒険者となっている元同僚などにも声をかけさせていただきます」


「うちのやり方は、ちょっと変わってるぞ。今までの衛兵隊や騎士団のやり方とは全然違う。そういう意味では内政もそうだな。第一、元冒険者が領主なんだ。それでも良いのか?」


「家族を養うために、みな苦労をしております。どのようなやり方であろうと生きていけるのであれば、喜んでついてまいる事でしょう」


「あと、一つ頼みたいことがある。こういうときに言うのは、弱みに付け込んでいる感じで申し訳ねぇんだが、俺はあんたたちを受け入れたら、あんたたちの家庭に孤児を受け入れてくれるか?」


「孤児……ですか?」


「ああ、孤児だ。その中には俺みたいに魔人と呼ばれる連中も居るかもしれない。それでも喜んで受け入れてくれるか?」


 ライオネルは少し考え込んだ。そして頷く。

 

「もちろんです。今現在偏見があるのは確かでしょうが、きちんと話をします。助けてもらうのに助けられないなどあってはならない事でしょう」


「そうか」


 マートはその様子に少し微笑んだ。


「俺は孤児出身だし、見た通り魔人だ。無理にとは言わねぇ。だが、出来ればそういうのを受け入れてくれると嬉しい。頼んだぜ。じゃぁ、試してみるか」


「マート様?!」


 ライオネルはよくわからない様子で尋ねた。

 

「さぁ、宰相閣下がどう返事してくれるかだ。シェリー、ライオネル一緒に来い」


「え?私もですか?」


 ライオネルは驚きの声を上げる


「ああ、昨日の今日で来たってことは急いでるんだろ?あまり余裕がねぇんじゃないのか?」


「はい、その通りですが」


「お前が移動のときには責任者になるんだ。一緒に話をしねぇでどうするんだよ」


 マートは2人をつれて、王城に向かったのだった。



読んで頂いてありがとうございます。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 推定1万人の難民受け入れですか! マンパワーはありがたいけれど難問だらけでしょうね!!!
[気になる点] マートは家名がウィードでいいのかな
[一言] 「マート様?!」  ライオネルはよくわからない様子で尋ねた。 !←これない方が良いですよ
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