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猫《キャット》と呼ばれた男 【書籍化】  作者: れもん
第21章 ウィード男爵

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169 ウィード男爵領の内政方針

 

「……以上が、街、及び各村々での調査した結果と今後の方向性になります」

 

 パウルと、内政官の代表だという5人ほどが交代でウィードの街や周囲の村の状況と内政計画を報告してくれた。それぞれの村は、小麦と大麦などを春と秋に交互に植えたり、休耕地を作ったり、代わりに豆を植える、牛や羊、馬の飼料となる草、クローバーを植える、生えた苗を踏む踏まない、果樹を植えてみるなど、村によって試すことは様々でその結果を見ながら一番よいやり方を試行錯誤していくのだという。街のほうでは、マートが気にしていた孤児院の扱いの改善の他にも、商業税制の改革、ギルドの再編、道路区画の整理、上下水道の整備、街の清掃といった事柄が目白押しで、マートにとってはよく判らないことも多く、聞いた中で矛盾やおかしいことはないか考えながらうんうんと頷くのが精一杯だった。

 

「わかった、詳しい事は正直わからないが、変な事はしてないというのはわかった。そのまま、今秋冬はその計画で進めてくれていい。春からはまたその結果を見て検討しよう。衛兵隊はやはり足らないか?」


「従来の方法ではどうやっても手が足りないので、やり方を変えました。小隊編成で巡回するのではなく、今は各村に内政官と同じように衛兵を2人程度、街は住民1000人に対して2人程度を目安に駐在武官という形で常駐させ、駐在武官が必要に応じて住民の手を借りることによって、巡回は月1回程度で済ませるという形に変更しました」


「村に2人の衛兵を置く……か」


「はい、去年と同じ数であれば危険だったでしょうが、幸い、今は蛮族の出没数が少ないのでなんとか回っております。マート様のお話ではリリーの街から冒険者の方々が間もなく到着しそうですので、そうすれば巡回を行う巡視隊を拡充でき、出没数が例年並みになったとしても安心できると考えています」


「1等騎士たちの領地にはどうするんだ?」


「派遣については、希望次第でと言う感じですね。シェリーのところは人手が足りてないので内政官も駐在武官も派遣するということになりましたが、アズワルトのほうは、両方なし、オズワルトの方は内政官を一人だけとなっています。彼らは元々従士が来ておりましたので、それを領地に帰して駐在武官の代わりにするようです」


「そうか、こっちから人を派遣すると、領地のやり方にまで口を出すことになりかねねぇから、注意してやってくれよ。しかし、今までのやり方だったら400人ぐらいは必要だったのを、250人程で出来るやり方に変えたんだからすげぇな」


「なんとかしようと皆必死に考えたのです。幸い、内政官は潤沢ですのでうまく行きそうです。リリーの街から高ランクの方はどれ程こられるのでしょうか?」


「ランクAは姐さんとエリオットの2人だな。あとはランクCのアレクシアで、他はランクDかEというところみたいだ」


「アニスさんは、剣も使えて、2等神官でもあると伺いました。エリオットさんは★4つの魔法使いですよね」


「ああ、そうだ。40才になって、そろそろ冒険者稼業にも疲れたらしい。男爵家の魔法使いとして雇ってくれないかと手紙を送ってきたから、是非来てくれと返しておいたよ」


「配下に魔法使いが居ると全然ちがいますからね。アニスさんの2等神官というのも素晴らしい。彼女がこられるのでしたら、衛兵隊の隊長をしてもらったらどうかと思うのです。アレクシアさんは彼女の補佐官でどうでしょうか」


「シェリーやグールド兄弟はどうするんだ?」


「グールド兄弟のうち、1人はアニスさんの補佐として衛兵隊の副隊長に、もう1人とシェリーは騎士団でどうかと思います。と言っても、騎士団というよりは、騎馬隊でしょうか。徒歩の従士、輜重隊なども無しで、馬に乗る者だけの部隊です」


「ほう、思い切ったな」


「マート様が直接率いるか、領内でのみの運用限定です。マート様はマジックバッグをお持ちですから、糧食などは運んでくださる事が前提となっています」


「前の、ハドリー王国からの脱出のときと同じようにか。人数が少ない間はそれでも可能かもしれねぇな。2等騎士と従士達はどうする?」


「馬の得意不得意によって分けます。身分によって騎馬隊に入れるとなれば、衛兵隊より騎馬隊が優位という印象になってしまいますので、それは避けたいと考えています。馬に乗らない従士をどうしても自分の手許に居させたいという場合は、本人の乗馬がいかに上手であっても、騎馬隊ではなく衛兵隊に配属することになります。あとは冒険者が何人来られるかによって、騎馬隊の人数は調整させていただくことになりますが、今伺っているところでは50人程度という事でしたので、それであれば、騎馬隊は20騎程になるかと思います。アニスさんが到着された後、相談して確定します」


「たしかに姐さんが到着したらもっかい相談だが、俺はそれでいいと思う。ランクD以下は試験をしてくれよ」


「よいのですか?」


「ショウさんが見てるから大丈夫のはずだが、こちらでもちゃんとやるべきだろうよ。こっちで雇い入れてる他の冒険者もちゃんと試験をしてるんだろ?不公平はなしだ」


「はい、その通りです。わかりました」


-----


 長い会議が終わって政務から解放されると、マートは近くの飯屋に入りぐったりとテーブルにへたり込んだ。

 

「もう、難しいのは疲れた……エールくれ」


「あいよっ」


 顔見知りになった店の親父さんが運んできてくれたエールを一気に半分ぐらいを流し込んで、彼はようやく一息ついた。ここの親父さんも最初は貴族相手だとかなり固くなっていたが、最近はマートの言動にも慣れて来たようで、まるで普通の冒険者のように応対している。

 

「何か食べるかい?」


「そうだな、何か串焼きが良いな」


「あいよ」


 のんびりと串焼きができるのを待っているマートの前の席に、2人組の男がふらりとやってきた。

 

「相席、いいかい?」


「ああ、良いぜ」


 飯屋はそこそこ混んでいるが、空いているテーブルがないわけでもない。何か俺に用事でもあるんだろうなとマートはエールのジョッキを片手に、ちらりと2人の様子を見た。見た感じは冒険者風、武器や鎧などは高級品だ。リリーの街であれば、ランクC以上というところだろう。1人の髪の色は灰色、もう1人の髪の色が茶色という違いはあるものの、似たような雰囲気である。軽く世間話などをしていたが、2人は周囲を警戒するように見回しながら、急に話を切り替えた。

 

「なぁ、マート男爵さんよ、ハドリー王国に乗り換えて伯爵になる気はねぇかい?」

 


読んで頂いてありがとうございます。


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― 新着の感想 ―
[一言] ハドリー王国からの引き抜きに見せかけた囮捜査一択やろ
[良い点] シミュレーションゲームでもそうですが、領地の発展や立て直しで忙しくしている時間が一番楽しいので読んでて楽しいです。 [一言] マートに他国からヘッドハンティングが! 有名になりましたもんね…
[一言] ここは一旦興味あると思わせて、搾れるだけ情報搾り取るパターンだ...
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