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猫《キャット》と呼ばれた男 【書籍化】  作者: れもん
第20章 ラシュピー帝国へ

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161/411

160 芸術都市リオーダンとオーガキング

レビューありがとうございます。

誤字脱字訂正、感想いつもありがとうございます。


2021.1.9 判りにくい形になってしまっていたようなので修正しました。

ゴブリンメイジ → ゴブリンより上位種のゴブリンメイジ

50体近いゴブリンやゴブリンメイジ → 合わせて50体近いゴブリンやゴブリンメイジ、ホブゴブリン


 かつて数万人の住人が居た芸術都市リオーダンは、蛮族の侵入を受け、見る影もなく寂びれていた。


 かつては詩人や画家たちが集っていた中央広場には、何体かのオーガが闊歩し、彫刻で飾られた噴水にはゴミが溢れていた。

 

“人間の姿はねぇな”


“そうじゃな、逃げ出したか、殺されたか”


“人間の姿を見たものが居るって話だったんだが、わからねぇな。ここを支配してるっていうオーガキングと一緒に居るって話だったが、そのオーガキングはどこに居るんだ?”


“わからぬ。館のほうに行ってみたらどうじゃ?”


“ああ、そっちには結構集まってるな”


 マートは、背中側の鞘に差した魔剣とそんな念話を交わし、屋根の上を目立たぬように移動を始めた。マートは以前、ヘイクス城塞都市に調査隊のメンバーとして赴いた際に、この都市に泊まったこともあり土地勘があった。かつての領主であるライト伯爵が住んでいたのは、城よりも居住性を重視した館で、壁が白く塗られ白亜館という名でも知られた5階建ての華麗な建物であった。

 

 マートは3階のバルコニーまで壁を蹴って駆けあがると、誰も居ない部屋から中に入り込んだ。占領者である蛮族たちの気配を探る。大広間にはかなりの数のオーガが居たが、オーガの身体のサイズには狭すぎるのか他の部屋は動くものの気配はなかった。そして、その大広間には、人間と思われる気配があった。それも2人だ。マートは慎重に大広間に近い部屋まで移動した。その部屋から廊下に出れば、大広間の上の吹き抜けに面するバルコニーに出られる。だが、オーガキングともなれば、マート以上の鋭敏知覚を持っている可能性もある。

 

 マートは警戒しながら鋭敏知覚を使って壁越し(・・・)に大広間を覗く。そこには身長が5mほどもあるオーガが居た。身体中筋肉の塊のような異様な身体をしている。おそらくオーガキングだろう。その横には、オーガナイトが何体も居て、それに混じって身長が3mほどもある大男が居た。角は生えており顔は赤のまだら模様になっているが、たしかにオーガではなく人間だ。そしてその横に見覚えのある少女が居た。名前はたしかクローディア。ヘイクス城塞都市の市場で、マートに魔龍同盟に加わらないかと誘ったあの少女だ。

 

 ということは、魔龍同盟は蛮族たちとつながりがあるのだろう。今まで、蛮族と人族とは殺し合うだけの関係だったはずだ。そういえば、以前、ワイズ聖王国の王都に来ていた魔龍同盟の小男が(スネーク)に前世記憶が蛮族で良かったと言っていた。前世記憶が蛮族である(スネーク)が持ってた魔獣スキルが【水中呼吸】☆☆と【水中行動】☆☆ 【肉体強化】☆ そして、【蛮族語】☆☆ そうか、蛮族語か。

 

 魔龍同盟は蛮族語が使える者をつかって、蛮族となにか交渉し、今回の蛮族の侵攻を画策した可能性があることにマートは気づいた。ハドリー王国ともつながりがあるのかもしれない。そうでなければ、今回はタイミングが良すぎる気がする。いやどうなのだろう?ハドリー王国との戦争はワイズ聖王国側が非を唱えるところから始まったものだ。だが、それ以前の謀略もあって……。マートは頭を抱えた。

 

“そんなのどうでもいいよ。それよりオーガキングは強そうだ。倒し甲斐がありそう”


 悩んでいるマートにニーナが念話を送ってきた。

 

“戦わねぇって言っただろ”


 ここに居るとニーナが無理やり戦いを起こしそうな気がしてマートは外に向かい始めた。

 

“オーガキングとの一騎打ちはしないの?倒しちゃえば、ラシュピー帝国への侵入は一旦止むんじゃない?”


“あんなのと戦うなんて勘弁してくれよ。それも周りに何体もオーガナイトが居たぜ。一騎打ちにはならねぇだろ。さすがに分が悪すぎる”


“そっかー。魔法使いがぶわーってその連中をやっつけてくれたらなー。エリオットかジュディをつれて来たらなんとかなりそうな……”


“なんともならねぇって”


“ライラ王女でもいいかも”


 名残惜しそうにぶつぶつとつぶやくニーナは無視して、マートは白亜館を出、芸術都市リオーダンを抜け出した。飛行スキルで空から付近の蛮族集団を探しながら、なんとか戦闘狂(バトルジャンキー)は解放せずに済んだと胸をなでおろした。

 

-----

 

“次を見つけたぜ、あまり大きくない集団だ。ゴブリンみたいだな”


“ゴブリンは、個体自体は強くないからね。こういった侵略戦争で何度も戦いを繰り返しちゃうと数は減っちゃうかもね”


 マートはその集団が野営している場所の近くに降下した。藪の中からおおよその数を数える。ゴブリンは沼ゴブリンや丘ゴブリンなどいろいろな種類も取り混ぜて三十体ほど。ゴブリンより上位種のゴブリンメイジが八、ホブゴブリンが十五、あとはゴブリンイーターが1体だった。ゴブリンイーターというのは、ホブゴブリンのさらに上位種で、オーガキングほどではないが、オーガナイトよりは強いはずだ。それとあと人間が2人居た。顔面が緑色なのが1人と小人が1人。小人には見覚えがあった。たしか、王城でキャサリン王女たちをたぶらかしていたあのリリパットと呼ばれていた男だった。

 

“あれぐらいなら良いだろ?たぶん倒せるよ。捕まえて記憶を取ろう”


 ニーナが少し興奮しながら念話を送ってきた。リリパットは呪術が使えるとは言え、マートが見破れる程度だ。魔獣スキルを使うのなら、可能だろう。周りには他の蛮族の軍勢も居ない。ここで魔龍同盟のメンバーから詳しい情報が取れるなら、リスクを負う価値はある。それも、分の悪くない賭け。相手が居るのは遮るものの少ない荒野。そして空を飛べそうなのはリリパットだけなので、最悪逃げ出すことは出来るだろう。

 

“わかった。よし、やろう”


 マートはマジックバッグから弓を取り出して、ゴブリンたちの夜営地から500m以上離れた丘の上に立った。

 

“突っ込むんじゃないの?”


“遠くから弓を射たら楽勝だ。逆にどうして、接近戦をするんだ?接近戦は最後だ”


 ニーナが突撃したさそうにしたが、マートは再びそれを無視して、弓を射始めた。まずはゴブリンメイジを狙う。その後はホブゴブリンやゴブリンだ。マートの矢に対抗してゴブリンメイジが魔法の矢呪文を放つが、距離が遠くてまず届かず、届いたとしても魔法の素質の高いマートにはかすり傷程度しか与えられない。ゴブリンイーターや魔龍同盟の2人は、悪態をつきながらゴブリンの死体を盾にして自分の身を守りつつ、他のゴブリンたちに突撃を命じた。マートは近づく相手を狙い撃っていく。瞬く間に合わせて50体近いゴブリンやゴブリンメイジ、ホブゴブリンは息絶えた。

 

“全然つまんないっ!”


“ゴブリンイーターと魔龍同盟の2人はしぶといな。お待ちかねの接近戦に入るぞ”


“やったーっ”


 マートは弓をしまい、強欲の剣を抜いた。ホブゴブリン、ゴブリンイーターたちはほかのゴブリンたちの死骸を盾代わりに抱えながら突撃してきた。彼我の距離は50メートルを切った。


肉体強化(ボディブースト)

炎球(ファイヤボール)


 マートは左手を突き出すと、炎の精霊(サラマンドラ)のヴレイズに願い、突撃してくるゴブリンたちに向かって精霊魔法を放った。炎の球が彼らの足元に着弾して爆発する。ホブゴブリン、そしてリリパットはそこで吹っ飛んだ。残った魔龍同盟の1人とゴブリンイーターがマートに接近してくる。

 

<縮地> 格闘闘技 --- 踏み込んで殴る 

 

 マートも地を蹴り2体を迎え撃った。背を屈め、魔龍同盟の男の剣を避け、ゴブリンイーターの棍棒を躱して彼らの足元に飛び込んでいく。

 

<破剣> 直剣闘技 --- 装甲無効技

 

 交差する直前でマートは体当たりをするように斜め上に飛び上がる。ごぶっ……突き出したマートの剣がゴブリンイーターの分厚い胸に柄まで突き刺さった。 

 


読んで頂いてありがとうございます。


血なまぐさいシーンで年の瀬を迎えることになりました。申し訳ありません。

皆さま良いお年をお迎えください。

尚、蛮族語については、以前のお話の時に、すでに気づいて感想に書いてくださっていた方もいらっしゃいましたが、その時点ではネタバレにつながりそうでしたので、敢えてスルーさせていただいておりました。申し訳ありません。


来年もよろしくお願いいたします。

尚、お正月ということで、明日、更新を予定しています。その後はまた隔日に戻る予定です


評価ポイント、感想などいただけるとうれしいです。よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] >ごぶっ……突き出したマートの剣がゴブリンイーターの分厚い胸に柄まで突き刺さった。 ただの擬音なんでしょうけれどゴブリンを刺した時の音が「ごぶっ」なのでクスっと来てしまいました。
[良い点] いつも楽しみにしています。 また来年!
[一言] 今年出会えてよかった作品でした 来年も楽しみにしてます
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