156 第3騎士団 (ラシュピー帝国地図あり)
説明長くなってしまいました。かなりややこしい説明なので、補足として地図をつけました。そちらを見ながらお読みください。(うう、ちゃんと伝わるかなぁ……)
ラシュピー帝国で最も南東にあり、ワイズ聖王国との国境である大河、オルガ河に最も近い都市、碧都ライマンの北側の台地には野営のテントが数多く張られ、そこでワイズ聖王国第3騎士団の駐屯地が築かれ、ワイズ聖王国の紋章である百合に交差した2本の剣が描かれた旗が翻っていた。
そこのほぼ中央にある大きなテントの中では、第3騎士団の騎士団長であるロレンス伯爵、副団長のライナス子爵を始め、配下の各隊の隊長が招かれて状況の確認が行われていた。
「未帰還の部隊はあとどれぐらいだね」
ロレンス伯爵がそう尋ねた。身長はライナス子爵より少し低いぐらいで、やや白髪が混じり始めてはいるが、まだまだまだがっしりとした身体をしている。
「第11隊、第12隊、第5小隊を除く第3隊、第8隊の第6、第8小隊が未帰還であります」
副団長のライナス子爵が各隊の隊長を見て確認するようにしながら答えた。隊長の席のうち、3つ空いているのは、第3、第11、第12隊の隊長がまだということだろう。
第3騎士団は、全部で12の隊から構成されていた。各隊は全て同じというわけではないが、おおよそ8つの騎士小隊と、2つの支援小隊から構成されている。騎士小隊は10人程の騎士と40人ほどの従士、支援小隊は、100人ほどの輜重、雑役を受け持つ人夫で構成されていて、全部合計すると、 騎士約千人 従士約四千人 雑役夫約二千五百人という人数になる。そのうち、約1割は怪我のため、ラシュピー帝国内の各街で療養状態にあった。
「揃うのはいつ頃になりそうかね」
「第8隊の残りの小隊は明日、第3隊は3日後に到着予定となっております。第11、第12の2部隊は芸術都市リオーダンの近くまで進出しておりましたので、1週間から10日後になると思われます」
「我が騎士団が帰国するために渡河するタイミングは失われたか。集結にこれほどの時間を取られるとはの」
ロレンス伯爵は机上の地図に目をやった
彼の指揮する第3騎士団は、ラシュピー帝国からの支援要請を受けて、蛮族との戦いを続けるヘイクス城塞都市救援のために派遣されていた。
ワイズ聖王国の王都を出発したのは2月の中旬の頃である。ラシュピー帝国と調整した予定としてはヘイクス城塞都市に到達した後、付近の蛮族を討伐するというものであったが、進軍中には既に、ラシュピー帝国領内で蛮族が増えているという未確定情報もあり、計画の変更も視野に置いた進軍であった。
そして、第3騎士団は、ラシュピー帝国の領内に入っての最初の都市、碧都ライマンに到着した時点で、すでにヘイクス城塞都市が陥落し、そのヘイクス城塞都市と帝都との中間地点であるリオーダンで蛮族とラシュピー帝国の騎士団が戦闘中であるという情報がもたらされたのだった。
芸術都市とも謳われ、美術・音楽の聖地とされるリオーダンはラシュピー帝国北東部の中心都市であり、ここが蛮族の手に落ちた場合、ラシュピー帝国の北東部は蛮族の支配下に落ちると言っても過言ではなく、第3騎士団は、碧都ライマンに補給部隊とその護衛のための一部の部隊を残し、救援のため北上しようとした。
蛮族は、人族とは違って、部族単位に侵攻を行い、かつ補給についても現地調達が前提であるため、前線や補給線という概念がない。これは、騎士団にとっては各個撃破ができるという有利な点であったが、いかんせん彼らは少なくとも騎士団の十倍近く、三十万を超える数であり、最前線が芸術都市リオーダンであると判断して移動していた第3騎士団は、途中のマースディンやセイアといった街、あるいは、それよりもさらに西側の村々の近くに築かれた蛮族の集落を発見し、それらを討伐するのに手を焼いた。そして、それらに手間取って救援は間に合わず、芸術都市リオーダンも蛮族の手に落ちたのだった。
第3騎士団は、ラシュピー帝国の残った騎士団と協力し、マースディンの街、セイアの街、碧都ライマンという拠点、及び、それを繋ぐ防衛ラインを構築すべく尽力し、事態は一進一退を繰り返しつつも、辛うじてそれらは維持した。だが、その間に、蛮族たちは各地で集落を形成し、たまに防衛ラインをかいくぐって侵入してきた蛮族の集落がラシュピー帝国の帝都や鉱山都市クレーバーンの付近でも見られるような状況となっていた。
そして、4月に入って、ハドリー王国の非を唱えるために出撃した第一騎士団及びウォレス侯爵の軍勢が、国境である湿地帯で壊滅的な打撃を受けたという事態が発生し、状況は急速に悪化したのだった。
ハドリー王国の軍勢は、潰走するワイズ聖王国側の軍勢を追う形で進出し、3国の国境であり、大穀倉地帯でもあるブロンソン州の州都を瞬く間に陥落させると、王都に迫る構えを見せた。その時点で、ラシュピー帝国にて滞在していた第3騎士団は本国との連絡が絶たれ孤立するという形になってしまった。
第3騎士団側も、配下の騎士隊の大半が蛮族討伐のために各地に分散しており、その時点では碧都ライマンに本来の1/6、2つの騎士隊しか存在しなかった。そのために即座に反撃に出ることが出来なかったのである。今現在は各隊それぞれが、現地のラシュピー帝国の騎士団と連携しながら、碧都ライマンにようやく軍勢を集中させ、ハドリー王国の軍勢にたいしても抵抗しうるだけの兵力を集結させることができつつあった。
ただし、ハドリー王国側も、国境となるオルガ河を挟んで軍勢を展開させ、ワイズ聖王国に戻るための渡河行動を阻害しており、ブロンソン州での動き、ワイズ聖王国の状況を掴もうとする第3騎士団の斥候たちも明確な情報をつかめずに居たのだった。
「対岸に展開する敵の兵力の分析はどこまで進んでおる?」
ロレンス伯爵はライナス子爵に報告の続きを促した。
「敵が見張っており渡河ができず、斥候もかなり苦労しておりますが、敵の騎士団と思われる旗は3種類確認されております。獅子と犬と猛牛です。獅子はハドリー王国第1騎士団の紋章として知られているもので、数年前の情報ではおよそ1万、うち騎士は千五百となっておりました。犬と猛牛の情報はいままでありません。新設されたものと思われ、規模は不明です。我が国の第1騎士団との決戦でどれぐらい損害が出ているかは不明ですが、おそらく3万以上、4倍以上の敵がいるものと思わなければなりません」
「ばかな。わが国の王都に向かって侵攻しながらも、まだ、こちら側にそれほどの兵力を割けるというのか」
「わかりません。以前にハドリー王国は隣国であるハントック王国に攻め込んだという情報がありました。もしそちらでも大勝利を収めて、ハントック王国を支配下に置いたとすれば、兵力に余裕がある可能性はあります」
「とは言え、その向こうにはダービー王国があるではないか。全兵力をこちらに向けられるわけでもあるまい」
「ダービー王国もラシュピー帝国と同様近年は蛮族の侵入が激しく、今年は王女が救援を願う使者として来訪されておりました。ハドリー王国にとってダービー王国がそれほど脅威ではない可能性も否定しきれません」
「そんな都合のいい話があるか。儂であれば、蛮族の侵入をあてにして兵力の大半をこちらに向けるなど、そんな危険な真似はとてもできん」
「残る可能性として、あとは、わが国への侵攻を第2騎士団がうまく止めることができたのかもしれません。膠着状態となり、我が騎士団を先に潰そうとして兵力をこちらに向けてきたという可能性はいかがでしょうか」
「ふむ、第1騎士団とウォレス侯爵が壊滅的な打撃を受けた相手にか?そう願いたいものだが余程の幸運が無ければそちらも無理じゃろう。どれも仮説としては不十分じゃな。しかし、理由はどうあれ相手は大軍じゃ。蛮族の勢いは当初より無くなったとはいえ、放置するわけにもいかぬし、とてもではないが、正面切っては戦えぬ。敢えてラシュピー帝国の帝都に退却し、戦力を温存しながら長期戦を強いるような戦いをするほうがよいのかも知れぬ。ここで全滅するわけには行かぬ。相手は自国から遠く、糧食にも限りがあろう」
「現在我々が保持している物資などの半分ほどを後方の鉱山都市クレーバーンに移しますか?」
「いや、そのような戦いをするとすれば、蛮族に対する防衛ラインも維持できなくなる。ラシュピー帝国側は了承せんだろう。そして我々が持つ兵力も物資も限られている。さてどうするか」
皆が考え込んだところで、伝令が1人会議室に入ってきた。
「マートと名乗る男がライナス様に面会を求めております」
「マート?それは誰じゃ。このようなところに。今は会議中じゃ……」
ロレンス伯爵は首を傾げ、後にするように言おうとしたが、ライナス子爵がそれを止めた。
「マートというと、ワイズ・クロス勲章のあのマートか。騎士団長閣下、彼は、ヘイクス城塞都市の調査隊のときの影の功労者であります。ようやく神は我々に微笑んでくれたのかもしれません」
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