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猫《キャット》と呼ばれた男 【書籍化】  作者: れもん
第20章 ラシュピー帝国へ

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153 飛行ルートに異常あり


 12人の連中にラシュピー帝国の話をそれぞれ聞いたマートは、王都から、北西に向かって真っすぐ飛んだ。本来、ワイズ聖王国からラシュピー帝国に向かうには北に向かい、山脈の東側を迂回していくのが本来のルートであるが、そのあたり一帯は現在ハドリー王国の占領下にあり、現在戦争が行われている地域にあたる。飛行して越えようとした魔法使いもそこで捕まった、あるいは殺されたのだろう。そんなところを通るのは危険すぎると考えたのだ。

 

 このラシュピー帝国とワイズ聖王国の国境にそびえる山脈は、ラシュピー帝国の北側やワイズ聖王国とハドリー王国との国境と同じく、高山帯が連なっており、昔から鳥も越えることができないといわれている。その高さはどれ程あるのであろうか。山の頂は夏であっても氷雪が消えることなく、通常の生き物の侵入を阻んでいた。ただし、魔獣については例外で、翼を広げれば何百メートルにもなるという巨大な鳥、ロック鳥やドラゴンをはじめ、氷狼、雪男など伝説は逆に枚挙にいとまがないほどである。

 

 マートは周囲に注意を怠らず、慎重に飛行した。幸い天気は快晴で、氷壁に光が反射してまぶしい程だ。風は身を切るほどに冷たく、泉の精霊(ナイアド)のウェイヴィに耐寒の呪文をかけてもらっていても、震えそうなほど寒い。山頂付近には移動するものの影は一つとしてなかった。

 

 だが、彼は飛行の途中で不審なものを見つけた。氷に覆われた岩壁に四角く開けられた窓のようなものだ。以前ウィシャート渓谷で見つけたものとよく似ており、庇と木製の窓戸がついているそれが10個、規則的に並んでいた。


 マートはそれの一つに近づいた。中に何者かが居るような気配はない。窓戸はどれも老朽化しており、簡単に取り外すことが出来た。

 

 中は広い空間を持った天井の高い部屋だった。作りとしてはまるで城か教会の大広間のようであるが、壁に装飾などはあまりなく全面薄いグレーで、シンプルな感じだ。扉は3つあり、机がたくさんあって、衝立で区切られていた。壁際には棚が一面に並んでおり、ぼろぼろになった本が置かれていた。

 

“魔剣、どう思う?ウィシャート渓谷にあったのと似てねぇか?”


“作りは似ておるな。机などもほぼ同じようじゃ”


“あっちは廃墟だったが、こっちはそうじゃ無さそうだな。こりゃ何か宝物があるんじゃねぇの?”


“うむ。じゃが机なども古いものが多い。すぐに崩れそうじゃ、丁寧に扱ったほうがよいぞ”


“ああ、わかった。急ぐのは急ぐが、あまり早すぎると詮索されちまう微妙な旅だ。1日2日ぐらいかけて調べるなら丁度良いだろう。前と違って魔法感知呪文もあるしな”


 マートは机の引き出しなどを順番に開け始めた。中身が残っているところはあまりない。指ぐらいの太さで掌を拡げたほどの長さのものが数本見つかったぐらいだ。先端は太かったり、細かったりだが、ペン先みたいなものが付いているのでおそらく筆記具だろう。

 

“それは見たことがあるぞ。無限ペンといわれる魔道具じゃな。インク壷につけなくても書くことができるというものじゃ”


 あまり高くは売れなさそうな魔道具だ。マートはとりあえずマジックバッグに放り込むと、魔法感知呪文を使った。天井の照明、複数ある扉のうちの1つの向こう側と、一段高くなっている場所の床がぼんやりと光ったが、部屋の中ではそれだけだ。魔法感知呪文は知覚できている範囲という制限があり、鋭敏知覚などのスキルのない普通の人間であれば厚めの布で覆ってあるものはもう知覚できないが、鋭敏知覚スキルが★4あるマートであれば厚み十センチ程度までであれば石壁で覆われていても、それを感知するすることができるので、おそらく部屋の中に魔道具の類は床だけということになる。

 

“どうする?今調べておくか?”


“念動や加速は使わず、識別呪文だけだとしても使えるのは1日3回じゃ”


“3回か。これ以上の魔道具があるかもしれねぇしな。識別は全部調べてからにしよう。その一段高いところは後回しだ”


 マートは魔法感知で光らなかったほうの扉の先を調べることにしたのだが、そちらの2つの扉は、トイレとあとは簡単な調理などができる小部屋だった。そのほとんどが海辺の家にあるものとよく似ている。水が出る蛇口、湯が出る蛇口、排泄物が自動で綺麗になるトイレ、部屋の温度を一定に保つ操作パネル、部屋を明るくする操作パネル、魔道コンロなどだ。いずれも、壁や台に固定されており持ち出しなどは出来そうにない。


“ここで、昔の連中は何をしてたんだろうな。大きい部屋ではあるが……”


“それはわからんな”


 微妙なものを感じながら、マートは最後に残った扉の前に立った。この先は廊下になっていて、魔法の反応がある。もしかしたらハドリー王国とおなじような警報装置かもしれない。扉には鍵がかかっていたが、中身の構造が見えるマートにとっては解錠は問題ない。


 マートは警戒しながら扉を開けた。何も起こらない。

 

 慎重に1歩、2歩……

 

“セキュリティ警告です。移動しないでください。三十秒以内に身分証を提示してください”


 正体不明の念話がマートに届いた。

 

“セキュリティ警告ってどういう意味だ?身分証ってなんだ?”


“わからぬ。身分証ってことは身分証明書ってことではないのか?”


“ためしに、ステータスカードを出してみるか?”

 

 マートは、自分のステータスカードを手に持って突き出してみた。

 

“認められません。身分証を提示してください。あと十秒です”

 

 マートは、ポケットから魔法無効化の魔道具を取り出した。何か判らないが魔道具による警報装置なのだろう。それならこれで無効化できるはずだ。魔法無効化 開始、半径3m魔法の力が全て止まる。

 

 その途端、マートの足元が崩れた。




読んで頂いてありがとうございます。


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― 新着の感想 ―
[一言] カウントダウンの描写にドキドキしてた時にマートが魔法無効化の魔道具を使ったのには、そう来たか、と思いました。結果はいつも吉では無いかもしれませんが、マートは何より柔軟な思考や咄嗟の判断能力、…
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