152 ライラ姫の依頼
いつも誤字訂正ありがとうございます。助かっています。もっと精進します。
「マート様、ありがとうございました。ハドリー王国の動きは一時的でしょうが、少しは収まるでしょう。いろいろと噂があって懸念していたのですが、この程度で助かりました」
マートを部屋に迎えたライラ姫は、そういってにっこりと微笑んだ。以前よりしっかりと、王族らしくなってきたような印象だ。
「そして、魔術庁ではマート様が来られてからの2週間、魔道具の研究がかなり進み始めました。マート様が、ハドリー王国から持ち帰られた資料のおかげもありますし、エドガー男爵の事件以来、宮廷魔導士たちの中にも危機感を強く持ち、研究に尽力する者も増えました。先日、最初の目標であった感知の魔道具の魔道回路と言うべき内部構造の解析が終わり、試作品を作る道筋がようやく出来上がったのです。すべてマート様のおかげです」
「いや、どうなんだろうな。ブライトン男爵あたりは、いつも騒ぎをおこしやがってって思ってるだろうけどな」
マートはそう言って首を振った。部屋にはメイドしかいないので、普段と同じ口調だ。彼自身は、ジュディやウルフガング教授に頼まれてテストの手伝いをしていた位で、それほど研究の手助けができた訳でもなかったし、皆が頑張ったんだなというぐらいの認識だった。そして、正直、王都で魔術庁に居るのに飽きてきてもいた。
「ところで、2週間ほど前、魔龍同盟のメンバーがこの王都で調査活動を行っていたのは、マート様もご存知でしょう。彼らは私と水の救護人についていろいろ調べていたようだと報告が上がってきています」
「俺を尾行してたから、何か関係あると思っていたが、姫様もか」
マートは、その事は知っていたが、敢えてそう言った。リーダーをしていた魔龍同盟のメンバーを殺したことを含めてライラ姫にも報告はしていない。演技する必要があった。
「魔道具の研究も少し目途が付きました。魔術庁の仕事としては逸脱しますが、マート様は魔龍同盟について、調べて頂けませんか?」
「それは、ラシュピー帝国に行ってってことかい?」
「そこまでは、状況次第ですね。まずは国内で足跡を追うところから始まるのかと思います。衛兵隊の調査では、まったく足取りはつかめませんでした。私やマート様の事を調査した理由もそうですが、元々キャサリンお姉さまを陥れた目的も判りませんし、魔龍同盟とはどういう組織かすらも不明なのです。相手は呪術魔法なども使う危険すぎる調査ですが、全く調べないわけにはまいりません」
「わかった。調べよう」
「あの、それで、もし……」
ライラ姫は何かを言いかけて止めた。
「良いぜ。他にも何かあるのならどうせついでだ」
「いえ、やはり……」
かなり迷っていたが、意を決したようにマートの顔をじっと見た。
「もし、ラシュピー帝国に行くことが可能であれば、お願いしたいことがあります。非常に危険なのですが、もしかしたらマート様なら可能かもしれません。実は、私達はラシュピー帝国に協力するために出撃した第3騎士団と今現在連絡が途絶えています。騎士団も宮廷魔術師も連絡をとろうとしたのですが、皆帰ってこないのです」
「今は戦場だからな。しかし転移呪文や飛行呪文でもダメなのか?」
「転移呪文は行ったことのない場所に跳ぶことは出来ません。転移呪文が使える者で、ラシュピー帝国に行ったことの有るものが居ないのです。空を飛んで向こうに行こうとしたものは居ますが、先程言った通り行方不明です」
「なるほどな」
「第3騎士団と連絡が取れれば、北からと南からとで挟撃できるかもしれません。おそらく戦況をひっくり返すことができる唯一の手段です。ただし、きちんと連携がとれれば……ですが」
「そっちのほうが余程大事じゃねぇのかよ」
「ですが、宮廷魔術師ですら失敗している任務なのです。マート様に依頼するのは……」
「心配してくれるのはありがてぇけど、まぁ、わかった。とは言っても俺も何もかもできる訳じゃねぇからな。出来る範囲で頑張ってみるさ」
マートはそう言って部屋を出た。どちらにしても彼自身も気になっていた事だ。
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「魔龍同盟について知ってる限り教えてくれ」
マートは海辺の家でニーナにしごかれているワイアットたち元魔龍同盟の連中を訪れると、そう訊ねた。
「急に来たとおもったら、一体どうしたの」
ニーナが横で呆れている。
「魔龍同盟について、改めて調べることになった。何日かしたらラシュピー帝国に向かう。訓練は一旦中止にしようと思う」
「良いよ。みんな一通りは魔獣スキルが判ったみたいだし、しばらくは自分で訓練してみるのもいいだろう」
「へぇ、そうなんだ。じゃぁ、もうどこに行くとか決めたのか?」
「それがさ、みんな僕たちに恩返しがしたいっていうんだよね」
「恩返し?別にそんなの要らねぇ」
「そんな事言わずにさ。貴族になるんだろ。いろいろ手伝ってもらえるよ。今回の件だって、みんなラシュピー帝国出身だから道案内とかもできるよ」
「魔龍同盟に見つかっちまうぞ。命が惜しくねぇのかよ」
「魔龍同盟を調べるつもりなんだったら、僕は逆に彼らから寄ってきてくれたら丁度いいって思うけどな。どう思う?」
ニーナは周りで話を聞いていた12人に尋ねた。
「案内させてください。俺たちは猫様とニーナ様に助けていただきました。囮になるのは構いません。少しは役に立ちたいです」
そんな事を言い出す12人に、マートは顔をしかめた。
「ニーナ、お前、何か洗脳的な事をしただろ。感情操作か?それとも呪いとか」
「そんな事はしてないよ。訓練の合間にいろいろ話を聞いたんだ。みんな行くところがないっていうのさ。どこかに行くぐらいなら、僕たちの近くに居て役に立ちたい。そうやって居場所を作りたいんだってさ。独り立ちするには、まだ早いんじゃないかな」
「そうか、自分の意思というのなら、止める気はねぇけどな。12人全員とかじゃ守りきれないが1人、2人なら大丈夫だろう。俺とニーナの関係については聞いてるか?」
「分身みたいなものと聞きました」
「いろいろ説明してたんだな。まいったな。こんな風になるとは思わなかった。わかった。じゃぁ最後に一つだけ。どこか行きたいところが出来たら、遠慮せずに言ってくれ。それまでなら居てくれていい。俺たちの手助けをしてくれ」
12人は頷いた。
「じゃぁ、話は決まり。みんなよかったね」
読んで頂いてありがとうございます。
そろそろ猫はお出かけタイム/次は章を改めます。
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