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猫《キャット》と呼ばれた男 【書籍化】  作者: れもん
第19章 魔術庁

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151 襲撃 (ハドリー王国侵攻地図あり)



 挿絵(By みてみん) 


2021.3.7 港街クロス → 港街グラスゴー


 マートが魔術庁に来てから、2週間ほどが経過した。


 ハドリー王国軍はワイズ聖王国の国土のおよそ2割、ラシュピー帝国と接する大穀倉地帯を占領下に置いたものの、エミリア伯爵率いる第2騎士団は、粘り強く抗戦を続け、フレア湖流域を利用した王都防衛ラインを築き上げると、戦いを膠着に持ち込んだらしかった。ただ、王都内では物資はさらに不足してパンの値段が10倍、肉の値段も5倍程度に跳ね上がっており、人々もかなりピリピリしはじめたのだった。難民が増えており、治安はどんどん悪くなってきていた。

 

----- 

 

(キャット)、昨夜、お父様から急ぎの使者が来たわ」


 朝、ジュディはクララを連れてマートの部屋を訪れていた。

 

「へぇ、そうなんだ。何か変わったことでもあったのか?」


「ううん、ウィシャート渓谷から南の一帯か、ウィードの街近辺のどちらかをマートに任せるのはどうだろうって相談の手紙だった。たぶん、(キャット)に聞いてくれって事だと思う」


「ウィシャート渓谷から南ってことは、リネット村とかのあたりから、港街グラスゴー、そして最南端のメイスンの町までってことか。結構広くないか?」


「港町グラスゴーとその一帯は塩がとれることで有名なところね。グラスゴーの海塩っていえばアレクサンダー伯爵領ではみんな知っているわね。でも、メイスンの町から南は蛮族の支配地域だし、港街グラスゴーの西に広がる森は、バッテンの森より危険なところって言われている。領域としては広いけれど耕作に適した場所は狭くて、人は少ないわ。もう一つの候補のウィードの街近辺だと、シェリーの村も含まれるわね。こっちのほうが人口は多いけど、付近はほんと蛮族だらけらしいわ。どうして、リリーの街とか希望しないの?あそこなら蛮族も少ないし治めるには楽だとおもうのだけれど」


「辺境のほうが、他の連中の嫉妬を買いにくいからな。それも、監視の目が届きにくいだろうと思ってな。俺は周りの目を気にせず好きにしたいのさ」


「ふぅん、なるほどね。どちらにしても、花都ジョンソンやあなたが拠点にしているリリーの街からそれほど遠くないところね。(キャット)はどう思う?」


「その辺りであれば、まぁ、どっちでもいいんじゃねぇか」


「私としてはウィードの街の領主になってシェリーの村をサポートしてくれると嬉しいわ」


「それはそれで大変そうだが、まぁ、アレクサンダー伯爵に任せるさ」


「だんだん(キャット)さんが貴族になられる日も近くなってきましたね。お嬢様が杖の材料さがしの最初の依頼をされたころが懐かしいです。あの頃に求婚しておけば、私は男爵夫人に……」


 クララが横でそんな事を呟いた。


「それはねぇな」


 マートは思わずそう呟いたが、その時、ポケットでピコンとメッセージの着信を示す音が鳴った。通信の魔道具だ。最近、ライラ姫がマートの助言を求めることが多く、どうして、携帯していないのかと何度も使者が来て口うるさく咎められることが多いので、仕方なくマジックバッグには入れずに胸のポケットに入れていたのだ。


「音の鳴る魔道具?なにかを感知したの?」


 ジュディとクララであれば良いだろうと判断して、マートはポケットから通信の魔道具を取り出した。そして文面をみて息をのんだ。

 

「ライラ姫が魔術庁に来る途中で襲撃を受けてる。貴族街の5番通りだ。白昼堂々、王族の馬車を襲うとはな。ちょっと行ってくる。ジュディとクララは衛兵に連絡した後、魔術庁を守ってくれ。囮の可能性もある」


「わかったわ。今、ブライトン男爵に念話で連絡した。(キャット)も気を付けて」


 マートは、窓から壁を駆け上がって魔術庁の屋上に出、そこから、貴族街の建物の屋根の上を走り始めた。何人かの宮廷魔術師も現場に向かって飛行していっているのがみえた。

 

----- 

 

 貴族街の5番通りでは、群集がおそらくライラ姫が乗っているであろう馬車の周りに集まっていた。てっきり、ハドリー王国の連中が忍び込んで襲撃してきたのかと思ったら、パンを求めて、武装していない普通の人々が集まっているのだった。これは、逆に扱いを上手にしないと余計大騒ぎになってしまうとマートは考えた。どうするかと近くの建物の屋根の上で考えていると、追いかける様に空を飛んできた3人の宮廷魔術師が馬車のすぐ側に浮かび、止めろと叫び始めた。

 

「馬鹿か、逆効果だろ」


 マートは思わずそう呟いて舌打ちをした。こういうことなら自分1人で来ればよかったと後悔したが、今更どうしようもない。人々の声がだんだんヒステリックに大きくなっていく。馬車や宮廷魔術師たちに対してぱらぱらと投石が始まった。騒動を上から見ているマートは、そのとき、人々を扇動している男たちがいるのに気が付いた。考えれば、貴族街でわざわざ馬車を囲むなんて、扇動役がいなければ起こらないだろう。

 

 マートは、裏道に一旦下りて、人々の集まりの後ろにいる扇動役とおぼしき男に近づくと、毒呪文で一時的に眠らせた。介抱するフリをして道の脇にその身体を横たえる。どうしたんだと気にして近づいてくる人間は、仲間かもしれないので、同じように眠らせていく。6人ほど、そうやって眠らせたころに、衛兵隊が駆けつけてきた。扇動役を欠いた群集は、あっという間に蜘蛛の子を散らすように逃げ出したのだった。

 

「マート様、ありがとうございました」


 馬車から降りてきたライラ姫は、真っ先に彼に近づこうとしたが、マートはそれを身振りで止めた。

 

「ライラ姫様、御無事でよかったです」


 宮廷魔術師たちが彼女の周りで跪いた。

 

「扇動役っぽいのは捕まえましたが、衛兵隊に引き渡すということでよろしいですか?」


 マートも膝をつくとライラ姫にそう尋ねた。


「そうですね。馬車の中から見ておりました。マート様が処理してくださったあとは、人々も勢いを失いました。彼らのうちに扇動者がいるのは間違いありませんでしょう」


「ライラ姫様、いったいどういう事でしょう?先ほども絶対に魔法を使わないでと念話を頂き、その通りにしましたが、その者には何をさせていたのですか?」


 宮廷魔術師の1人が不審そうにマートを見ながら、そう尋ねた。

 

「扇動役を捕まえてもらっていたのです。王都内でも、ハドリー王国の間者が人々を扇動して暴動を起こさせようとしているという話がありました。私が襲われるのは予想外でしたが、扇動役が炙りだせたのは不幸中の幸いでした。みなさんが魔法を使って人々を攻撃すれば、逆に人々は反発し、暴動にまで繋がった可能性があったので、我慢してもらったのです」


 ライラ姫が3人に念話呪文を使って彼らに魔法を使わないよう指示していたらしい。ハドリー王国の間者か。マートの知らないところで、ライラ姫たちはいろいろと働いているようだ。最初のころはかなり危なげだと思っていたが、さすがにそのままではないというところか。

 

「では、マート様は、衛兵隊に扇動者を引き渡した後、私の部屋まで来て下さいね。私は一足先に魔術庁に向かいます。宮廷魔術師の皆様はお手間ですが、護衛をお願いします」


 ライラ姫はそういうと、馬車に戻り、マートはその場で姫たちを見送ったのだった。

 


読んで頂いてありがとうございます。


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[気になる点] 男爵夫人かぁ(ry。 〉「だんだん猫キャットさんが貴族になられる日も近くなってきましたね。お嬢様が杖の材料さがしの最初の依頼をされたころが懐かしいです。あの頃に求婚しておけば、私は男爵…
[良い点] テンポ良く、ストレスも感じず楽しく読み進められました。 執筆大変かと思いますが、更新楽しみにしてます。 [気になる点] ネコさんが領地を拝領すると家令はだれに? 救助した右手の欠損ありの騎…
[一言] ここまでハドリー王国にいい様にやられて間諜入り放題で 後手に回っている状況から立て直せる気がしないのですがw しかも、宮廷魔術師は使い物にならなそうで、 国内の意思統一もままならず。 ライラ…
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