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猫《キャット》と呼ばれた男 【書籍化】  作者: れもん
第17章 ハドリー王国の調査

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136 監獄脱出

2020.11.14 感想欄で複数の方よりドワーフ語について希望・提案を頂きましたので書き直してみました。いかがでしょうか?ご意見次第で他の話のところも書きかえたいと思います。


2021.5.5 誤記訂正 魔法学院 → 魔術学院


 ドワーフたちの移住の手伝いや段取りの確認を大急ぎで終えたマートは、アンジェの親父さんたちが収容されている監獄の部屋付近まで移動した。部屋は8人部屋で、ワイズ聖王国からの収容者は男性2、女性1の3部屋に分けられており、ハドリー王国の犯罪者たちとは区画も分けられていた。

 

 彼らの部屋の前の通路には、例によって探知のための魔道具が設置されていたが、魔法を無効化する魔道具で、無効化することができたので、脅威ではなかった。

 

 この魔法を無効化する魔道具は、この施設内の魔道具の研究室で最新型のテストをしていたものがあったので、魔剣の識別呪文を使って性能を調べ、持ち出してきたものだ。全周囲ではなく、指向性があるものもあったので、今後もいろいろと使えそうである。マートは秘かに今度、王都に行った時に、ジュディの師匠である魔術学院のウルフガング教授に情報を提供し、その見返りにカスタマイズしたものを作ってもらおうと思っていた。

 

“待たせたな、アンジェの親父さん、お袋さん。今晩決行するぞ”


 鉄格子越しに寝ている親父さんたちに幻覚の言葉を送ると、2人はいきなり飛び起きた。服も普段着のままで着替えておらず、鞄代わりのずた袋をしっかり右手に抱えている。いつでも脱出できるように準備万端のようだ。

 

“しっーーっ、静かにみんなを起こしてくれ”


 マートは追加で幻覚の言葉を送る。親父さんは、他のベッドで寝ているほかの男達をゆり起こした。皆準備万端だ。まだ言うなと言ったのに、きっちり説明まで終わっているようだった。すぐに目処が立ったから良かったものの、これが、明日の晩になってたら看守たちに露見してたかもしれない。ただ、今回は説明の手間は省けたとも言える。

 

 マートは監獄の鍵を静かに開けたが、まだ中の連中には監獄の外に出ないように手で合図した。看守の詰め所で奪ってきた武器やランプ、食料などが入った袋と、ドワーフからもらった液体の入った壷を渡す。

 

「静かに聴いてくれ。この様子だと、アンジェの親父さんたちから話は聞いてくれているのだろう。俺はリリーの街の冒険者でマートだ。あんたたちを助けに来た」


 真剣に皆、マートの話を聞いている。

 

「鉱山のなかで巨大アリの巣を見つけた。これから俺は戻って巨大アリを怒らせてくる。巨大アリは大量に居る。あっという間にここは巨大アリで埋め尽くされるだろう。檻の中に居ても安全じゃない」


 その話に皆顔を見合わせた。

 

「でも、安心してくれ。最後に渡した壷には、巨大アリが嫌がる薬が入っている。これを顔や身体に塗りたくれば、巨大アリに襲われることはない。巨大アリたちが看守たちを倒してくれるのを待てば、あんた達は安全にここから逃げ出すことが出来る。それまではここでじっとしてれば良い」


 連中はまだ、少し不安そうだが、頑張るしかないといった風でお互い頷き合う。


「わかった、マート。ありがとう。俺は2等騎士のパウルだ。君を信じて全て従おう。どれぐらい待てば良い?」


 そう言ったのは、落ち着いた様子の男だった。顔にはたくさんの傷が残っており、無残にも右手は肘から先がない。

 

「騒ぎが落ち着くのを待って移動することになる。薬は大丈夫だと思うが、念のため、武器も渡しておく。防具までは手に入らなかったが、それは勘弁してくれ。俺としても、巨大アリを怒らせた後できるだけ早くあんた達に合流するつもりだが、大混乱に陥るだろうから、どれだけ早く来れるか判らない。もし、俺が合流するまでに脱出するのであれば、とりあえず南に向かってくれ」


「南?北西ではないのか?」


「南は蛮族の地だ。ハドリー王国の連中の拠点がないのが唯一そっちの方角になる。追っ手を撒くにはそちらに向かうしかないと思う。だが、万が一、蛮族が出たときには、なんとか切り抜けてくれ。巨大アリが出たところに向かってくる蛮族はいないと思うが保証はできない。合流したら、脱出ルートを指示する」


 パウルという騎士は頷いた。マートはぐるっと周囲を見回す。アンジェの両親たちも、他の連中も皆力強く頷いた。

 

「よし、なんとか逃げ出して俺達は帰るぞ」


 オーと歓声をあげようとした男が周りの連中から慌てて制止され、マートは思わず苦笑したのだった。


-----


 マートが魔石倉庫や研究室を経由してドワーフの住みかまで戻ると、彼らは皆、渡したウィスキーが入った杯を片手になにやら壁に向かって喋りかけていた。何人かの目許には何か光っていたものがあったような気がした。おそらく、この鉱山に別れをつげているのだろう。マートと炎の精霊(サラマンドラ)のヴレイズが姿を見せると、ゆっくりと立ち上がった。

 

 

「マンナミミコニクチ……(準備は万端だ。そちらも大丈夫か?)」


 ドワーフの長はマートに言った。

 

「ああ、頼む。巨大アリをこちら側に送り終わったら、二つの鉱山を繋いでいるこの扉は閉じる。そっちに顔をだせるとしても、早くて1週間後ぐらいになっちまう、それで良いか?」


 マートの言葉を炎の精霊(サラマンドラ)のヴレイズはドワーフたちの言葉に変えて伝える

 

「チチ、シチニマンラナコナシチ……(ああ、大丈夫だ。水源も見つけてくれたし、注意すれば外に狩りにも行けそうだ。新しいところは巨大アリがたくさん居るから、坑道に入れば安全だしな。マート、お前さんのおかげで我が集落には希望が生まれた。本当に感謝している)」

 

 ドワーフの集落の長とマートは堅く握手を交わした。

 

 数人のドワーフたちが、どろっとした赤い液体を点々と地面に垂らしていく

 

「チスイキチトチニキラミラトニチキイシチ。チ……(あれが最後の仕上げだ。あの臭いを嗅ぐと、巨大アリたちは自分たちの女王が危険になっていると勘違いして、暴れ始める。すぐに来るぞ。人間共が居る坑道へ繋がる道以外はもう全部塞いである。2体の女王アリグループにちょっかいをだしているから、巨大アリ自体は千体を超えるだろう。上に居る人間共はひとたまりもなかろう)」

 

 マートの耳にはカチカチ、カチカチという巨大アリが怒った時に出す、独特の顎をかみ合わせる音が聞こえて来た。マートはアリ避けの薬を身体に塗り、ドワーフたちと細い通路に潜む。その前を、奔流と言っても良いぐらいの巨大アリの集団が、ハドリー王国の看守達のいる坑道出口の外に向かって進んで行ったのだった。




読んで頂いてありがとうございます。


評価ポイント、感想などいただけるとうれしいです。よろしくお願いします。


書評家になろうチャンネル occchiさんが、拙作を紹介してくださっていました。

気付いてビックリ! いっぱい褒めていただいていて照れくさいですね。

どうもありがとうございます。

https://www.youtube.com/watch?v=Nm8RsR2DsBE

 

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 魔剣最近話さないな
[一言] \アリだー!/
[一言] 巨大アリは1m強とのこと。魔法のドアを1000体も興奮状態の巨大アリが通ると擦れて何処かが削れそうな気がする。中にはもっと大きくて通れない個体もいそうですね。 優秀な魔法文明の遺産だからそこ…
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