135 ドワーフとの出会い
炎の精霊が居てくれたおかげか、ドワーフたちと争うことなく、落ち着いて話ができるようになった。彼らの話によると、この魔石鉱山は元々彼らが住み処にしていたものが、10年ほど前に人間と戦いになり、奪われたものだという事らしかった。この鉱山に住んでいたドワーフたちは千人を超えていたのだが、人間との争いのなかで殺され、今では100人を数えるほどになってしまったらしい。
マートが、街で聞いた蛮族が隠れ住んでいた魔石鉱山が10年ほど前に見つかったという事の背景はそういう話だったのだ。ドワーフたちはなんとか鉱山の奥に逃げ込んで、命を長らえているが、坑道の発掘が進めばそれも危ないという状況だという。
「そうだったのか、大変だったな。この鉱山は連中が抑えている以外に出口はないのか?」
「ノラノラクチ、モナツナノチトニニ」(ここは、貴重な魔石鉱山だった。ゴブリン連中が入り込むのを防ぐために、そういったものは作っていなかった。今、地上への道を作ろうとはしているのだが、地下から上に掘り進めるのは非常に難しい)
そこまで聞いて、マートはこの連中なら、魔法のドアノブのことがばれても、大丈夫かもしれないと考えた。あの廃坑のような場所は、魔法のドアノブが登録されていたほどの場所だ。きっとなにかあるに違いない。彼らならそれが判るかもしれない。
「もし、別の鉱山に行けるとしたら、どうする?巨大アリが住み着いているので危険だろうが、ここよりはマシかもしれない」
マートは以前に魔法のドアノブで行った、ダービー王国の湿地帯で巨大アリが巣にしていた鉱山の説明をした。あそこには巨大アリを見かけないエリアもあったので、彼らドワーフが住むことができるかもしれない。
「モラトニ、ミチミラシチ」(もし、そういうところがあり、行ける手段があるのなら、是非連れていってほしい。巨大アリや巨大クモ、巨大ムカデといった地中に住む連中は、我々にとっては脅威ではなく、むしろ味方のようなものなのだ)
彼の言葉で、マートは彼らが巨大クモに襲われなかったことを思い出した。
「良いだろう。ただし、これは秘密の方法だ。他の人間たちには秘密にして欲しい」
マートがそういうと、ドワーフたちは頷いた。
「モラカニスラミミ、ンチノナトラノナトナスナ」(もちろん、約束する)
「実は俺は、古い坑道に通じる扉を開ける魔道具を持っているのだが、その坑道の価値がわからない。そして、その坑道には先程言ったように、巨大アリが沢山住み着いてしまっている。その坑道は、ここからはるか東、ダービー王国の水都ファクラに近い沼地の地下深くに広がっている。巨大アリが沢山住んでいるため、人も蛮族もおそらく中には入ってこないだろう」
ドワーフは興味深げにマートの話を聞いている。厳密に言うと、マートの言葉をヴレイズがつたえているので、ヴレイズの姿をじっと見つめている。
「勝手な話だが、価値のある鉱山だというのなら、俺にもその儲けを分けてくれれば嬉しい」
「テチノチカカチ。ニカカイノナスイ」(わかった。あんたは儂たちの恩人だ。それ位当たり前だろう。まず、その古い坑道とやらにつれていってくれ)
マートは、魔法のドアノブを取り出し、メモリを1番にあわせると、手近の壁に差し込んだ。ゆっくりと扉を開ける。
ドワーフたちは、マートの後ろから、その坑道に進んでいった。
「ミチミミカラ、ノチモラトニスイミナ」(なんと、この鉱山は、ミスリル鉱山じゃぞ。じゃが、誰も出入りしなくなって久しいの。採りつくして放棄されたものかもしれぬ)
「廃坑……ってやつか」
ドワーフたちは手分けして、壁や地面に転がっている岩などを調べて、そう言った。
「カラクチニイ、テチノチスチミミミチ」(とはいえ、我々ドワーフの精錬技術は進んでおるでな、ミスリル鉱石には金や銀が含まれる場合もある。時間をかけて調べてみないと価値はわからんな)
「ここに移転するという事でいいんだな。何か必要なものはあるか?」
「モチツナクチナスイトニニミラナ」(まずは水場を探さねばならぬの。あとは、当面の食べ物と酒があれば嬉しいのう)
「水場は、泉の精霊に頼んで調べよう。食べ物は狩って血抜きしか終わってないものや、未調理のものでよければ提供する。酒はそんなにないが、今までの土地から新しい土地に移るんだ。少しぐらい用意する。ああ、そういえば取っておきの酒があるんだ。古代遺跡から見つかったもので、ウィスキーという名前らしいのだが」
「ナリニトナノニホマンチカラ?」(ウィスキーじゃと?)
ドワーフの目の色が変わった。マートがマジックバッグから瓶を一本出して差し出すと、飛びつくように受け取った。丁寧に栓を抜き、中の匂いをかぐ。
「チチ、ニナミラノチ?」(ああ、おそろしい程の芳醇な香り、これがウィスキー……儂も先祖から話を聞いたことしかなかった幻の酒じゃ。これを、死んでいった者たちの弔いに提供してくれるというのか?)
「ああ、良いとも。喜んでくれて嬉しいよ」
マートはあと2本ウィスキーを差し出す。他のドワーフたちも真剣な顔をしてそれを受け取った。
「カチトナノチスナ、ニノチミミノチミラ?」(助かる、あと一つ相談があるんじゃが、この巣には巨大アリがかなり居そうじゃ、腹いせでしかないのじゃが、魔石鉱山に居る連中にけしかけてはいかんかの?)
ドワーフの長はすこし意地悪そうな微笑を浮かべながらそう言った。一族の9割が殺されたのだ。抑えてはいるが、怒りの気持ちがマートに伝わってきた。
「そんなことができるのか?実は俺は知り合いが攫われて鉱夫として働かされていてな。どうやって救出しようかと考えていたんだ。もしやってくれるならその騒ぎを利用できる」
「シラナトインラナニトニンラナ」(どうせ連中の騎士団がやって来たら討伐されるじゃろうが、逃げ出す時間ぐらいなら稼げるじゃろうな。そなたの知り合いとやらが巨大アリに襲われないようにするための薬を用意しよう)
読んで頂いてありがとうございます。
ドワーフについては、地下の虫などに対して少し伝承とはずれている部分もありますが、地下で暮らす種族として、それぐらいは行えても普通かと思って変更を加えました。オリジナルとしてご了解ください。
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★2つめのレビューを頂きました。ありがとうございます。




