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猫《キャット》と呼ばれた男 【書籍化】  作者: れもん
第16章 パン屋

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128 パン屋調査


 マートがそのパン屋の中の気配を探ったところ、5人の男が居た。店頭に1人、パン焼きや調理をしているのが2人。机仕事のようなものをしているのが1人、ソファで寝ているのが1人である。

 

 パン屋の仕事をしている3人は動きや足の運びなどからして、ほとんど戦闘の心得がない素人なのはすぐわかったが、机仕事と寝ている2人はじっとしているので判断がつかない。どうするか迷ったが、ハリソンが調べても何もわからなかったのだ。普通の手段では埒が明かないだろう。マートの判断では限りなく黒に近いグレーでもあるので、さっさと忍び込んで調べることにした。

 

 リリパットがやっていたのと同じように幻覚を使い、自分の姿を透明に変える。幻覚呪文で、透明になるというのは、自分の姿の上に透けた向こう側の光景を貼り付ける幻覚を使うということになり、その複雑さゆえに、あまり早く移動はできない。せいぜい歩くぐらいの速度が限界だ。その状態で飛行スキルを使って塀を越えるというのは奴と同じ手口で、窓から順番に部屋の中を覗いていく。机仕事をしている男には、窓の外から毒針スキルを使って睡眠毒を打ち込み、反応がなくなるのを待つ。

 

 机仕事をしている男が居眠りし始めるのを待って、マートは、家の中に入り込んだ。

 

 ハドリー王国の間諜で、これ程の規模だとすると、いろんなものを隠しているに違いない。マートは、まず隠し戸棚の類があるのではないかと、壁を探った。すぐに隠し戸棚ではなく、隠し部屋が見つかった。

 

 その隠し部屋の扉には当然鍵がかかっていたが、罠のチェックもし、開錠すると、マートは慎重にその扉を開けた。

 

 隠し扉を抜けた先にあった部屋は一面が書棚になっており、羊皮紙を紐で閉じた資料がきちんと整理され積まれていた。一番上にあったものの表紙には、レイモンド・ランスと書かれていた。アレクサンダー家前騎士団長、ランス卿の名前だ。ぱらぱらとめくると、生まれた日付や、父親、母親の血脈といったことの他に、彼の所領である村の人口といったことも書かれている。その下の資料はノーランド男爵、他にもマートにも見覚えのある男爵や騎士たちの名前もあった。おそらく、アレクサンダー伯爵家やそれに関連するものを調べたものだろう。つまり、ここは、ハドリー王国の間諜が調べ上げた事をまとめた資料室だとマートはそう直感した。

 

 ハドリー王国としては、敵対する相手をこれほどまでに調べ上げ、弱点を知るということは、おそらく重要な事なのだろう。しかし、マートにとっては、エバやアンジェたちの家族が、ハドリー王国か、或はどこかの勢力の拠点をつくるための犠牲となったことがはっきりとして、胸糞が悪いだけだ。

 

 さて、どうするかと考えていると、隣の部屋のソファの男が起き上がった。彼の見立てでは、呼吸などを見て、まだまだ目覚める様子はなかったのだが、違ったらしい。

 

 その男は、真っ直ぐに忍び足でマートが居る隠し部屋に向かってきた。ということは、その男はたまたま目が覚めたのではなく、何らかの手段で隠し部屋に侵入者がある事に気がついてこちらに向かってきているということだった。機械的な仕組みはなかったはずだったが、マートが気付かなかった何かがあったにちがいない。

 

 幻覚呪文を使って、彼は再び自分の姿を透明にした。部屋の隅に移動し、様子を覗う。

 

 マートが居る隠し部屋の扉が開いた。男が片手に剣をもち、注意深く周りを見回している。明るい髪は短く刈り込まれ、身長はマートより少し低いが、その動きからすると、筋肉はよく鍛えられており、剣の腕はかなり立ちそうだ。

 

 男はマートの姿は見えていないようだった。だが、どこかに居るはずだと確信している様子で、注意深く部屋に入って来た。元々狭い部屋である。彼との距離が3mほどになったところで、急にマートの姿を隠していた幻覚呪文が解けた。

 

「シッ!」


 短い声を放ち、その男は、すぐにマートに切りつけた。マートは大きくのけぞってその剣を避けた。

 

「やっぱり居た。逃がさない」


 その男の剣の腕はあきらかにマートより上だった。マートは声を出さないまま、呪術を放つ。

 

痛覚(ペイン)

 

 だが、男は何もなかったかのように剣を振るってきた。マートは剣を抜き、1撃目をなんとか合わせる。

 

「魔法を使ったようだが甘い。ここを発見して忍び込んだところまでは褒めてやる。だが、まだまだ若いな」


“・・”


 マートは魔剣やニーナと念話をしようとしたが通じない。いや、通じないというより、男の近くでは魔法が使えないという感じだ。何かの仕掛けなのだろう。


「くそっ。面白い手品だな。魔法を使えなくする魔道具か」


 マートが、かまをかけてみると、男はにやりとした。


「ほう、よくわかったな。俺の周りでは魔法は使えない。そして、その剣の腕では俺に敵わない。つまりお前はどうしようもないってことさ。諦めな」


 男は一歩踏み込んで、剣を振るった。マートは一歩下がって剣を受ける。


「時間を稼ごうと思っても無駄だぜ。この魔道具の効果時間は結構長いんだ。観念しな」


 男は剣を構えなおした。闘技を放つつもりなのだろう。剣で対処するのは無理だとマートは観念した。その場に剣を落とす。

 

<速剣> 直剣闘技 --- 2回攻撃

 

 一瞬、男はマートが剣をその場に放り出すのを見て怪訝そうな表情をしたが、結局踏み込んできた。目にも留まらぬ程の速さだ。

 

爪牙(クロウファング)】  

<逆突> 格闘闘技 --- カウンター技

 

 マートはその剣を掌で掴み、引き込んで体勢を崩させた。そのまま身体を左回転させながら、右手で男の身体を前に送り出すと、がら空きの背中に左手の爪を突き立てた。突き技の剣を手で掴むなど普通はできるはずがない。男の顔は驚愕で歪んだ。

 

「何?その手は……カギ爪?おまえ、人間じゃ……ない……」


「ちがう、俺は人間だ」


 30㎝ほどもある爪が簡単に根元まで突き刺さった。骨もあるはずだが、それはまるで長い時間をかけてトロトロに柔らかく煮込んだ肉の中の軟骨といった程度の感触でしかなく、指を動かすと簡単に切り裂けていく。男の背中にぽっかりと空いた穴から血が噴き出した。

 

読んで頂いてありがとうございます。


王城でもそうでしたが、窓ガラスなんて存在しません。せいぜい、教会のステンドグラス程度です。なので、窓は明り取りのために開けっぱなし(場合によって鎧戸)という設定となります。


評価ポイント、感想などいただけるとうれしいです。よろしくお願いします。

 

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― 新着の感想 ―
[一言] 好奇心はマートを殺しかける つては有りすぎるほどなんだから、せめて先に根回ししましょうね(まあそうすると貴族に取り込まれかねませんが、今更今更)
[一言] 猫は休む暇ありませんねぇ
[良い点] ちがう、俺は人間だ マートはどういう気持ちだったのだろう
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