122 小男の企み
マートは、ライラ姫に渡されたボードをつかって、今夜王城には行けないが、小男を見つけたという報告を済ませると、見張りを続けた。本当は、忍び込んで、もっと調べてみたいところであったが、前世記憶持ちの魔龍同盟のメンバーが2人も居るので油断できない。
魔龍同盟といえば、以前出会ったリッチの前世記憶持ちも、持っていた指輪からすると魔龍同盟のメンバーであった可能性が高いが、あいつは、前世記憶の魔物が進化するのは確認したと言っていた。それを考えると、もっと様々な事を調べているはずで、他になにか隠し技をもっていないとも限らないのだ。
屋根の上に身を隠し、マートは半ば眠りながら動きを待っていると、夜明け前になって、中年の夫婦が起き出し農作業を始めたようだった。彼らに脅かされたりしている様子はなく、会話からすると、魔人ばかり集まって気持ち悪いとか、金もらえるんだから我慢とかいうやりとりが聞こえてきたので、空いている部屋を貸しているのだろうと推測できた。
日が昇ってしばらくたつと、小男とトカゲ、鱗ともう一人の男が起きてきて、会話を始めた。
「ワイズ聖王国の王都だから、沢山魔人が拾えると思ったのにたった2人か。ドルフよ、他に魔人は知らないのか?」
ドルフというのは、鱗の実名だ。
「俺の知ってるのは、前にも言ったトカゲや猫ぐらいだな」
「ちっ、トカゲはエイトの幹部だし、猫というのは王都に居ないんだろう。まぁ仕方ない、2人とも前世記憶が蛮族だったからな。よかったと考えよう」
「蛮族なのがよかったのか?この水中呼吸と水中行動ってあんまり使わないとおもうんだよな」
「お前さんはちょっと働くだけで後はうまいものを食って、飲むだけの生活ができるって何度も言っただろう」
「いや、まぁ、それは聞いたが、そのためには、あんたと一緒に行かないといけないんだろう?」
「まだ未練があるというのか。その条件でステータスカードを作る金を出してやったのに」
「ああ、それは判ってる。判ってるんだが……」
「この話はもう終わりだ。2人は自分の部屋に帰ってしばらくのんびりしておれ」
小男とトカゲだけが残り、2人は部屋を出て行った。それを見届けるようにしてから、ふたたびトカゲが口を開いた。
「リリパットよ、もうこれ以上は魔人を拾うのは難しそうだ。そろそろ出発したいが、そっちの仕事はどうだ?」
小男がそれに答えるように話し始めた。声は高くまるで子供のようだ。
「ああ、ほとんど終わっている。ついでにワイズ聖王国の騎士団の編成とラシュピー帝国にどれだけの部隊を派遣できそうなのかの情報を仕入れようと思ってな。明日の夜にそれを聞き、仕上げに呪いをかければそれで終わりよ」
「どのような呪いにするのだ?」
「そうだな、王を殺せないか、試そうとおもってな」
「ほほう、それは楽しそうだ。うまく行けばよい実例になる」
そこまで聞いて、マートは考え込んだ。
エイトというのは何かわからないが、以前、トカゲがボスがどうこうと言ってたので、聖王国での魔龍同盟みたいな組織ってことかもしれない。鱗は魔龍同盟に借りを作ってステータスカードを作ったらしかった。水中呼吸と水中行動がある蛮族はなにかわからないが、何かに利用するために、連れて行こうとしているのは確かだ。リリパットというのは、小男の事だろう。一番の問題は王女を使って国王を殺そうとしているということだ。
しかし、前世記憶のことを隠したままでは、辻褄の合う話はできそうにない。だが、それを明かしてまで国王を救う義理はないだろう。正直なところ、明かすという事が怖い。しかし、いつまで前世記憶の事を秘密にしておけるだろうか。魔龍同盟の活動が活発になれば、否応無しに公になってしまう可能性も高い。その場合、どうしたらよいのだろうか。全ての能力を明かすのは論外だが、一部の能力だけなら?
いろいろと思い悩んだ結果、彼は前世記憶のことは隠したままで、宰相に今の話をすることに心に決めた。信用する、しないは宰相が判断すれば良い話で、彼が辻褄を合わせる苦労をする必要は無いだろう。
そんなことを考え、マートはライラ姫と魔龍同盟については伏せることにしようと口裏をあわせ、宰相であるワーナー侯爵に怪しい2人組を尾行して、王城に忍び込み悪いたくらみをしているのを発見したとして、屋根の上で聞いたことを報告した。
だが、その報告を聞いてワーナー侯爵はこう尋ねたのだった。
「魔術師ギルドの長老と話をしてみたのですが、前世記憶というものがあるらしいですね」
読んで頂いてありがとうございます。
ついに前世記憶のことが……
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