121 もうひとりのトカゲ
「身長1mぐらいの小男?いや見たことがないね」
トカゲは、マートの問いに首を振った。
彼らが居るのは王都第8街区にある派手な飲み屋だった。この店は彼の馴染みの店らしい。店の真ん中が一段高くなっていて、そこで下着姿の豊満な女性が踊っている。彼女の肌はまるで蛇のようで、瞳は黄金色に光っている。
「そうか、残念だ。あんたなら知ってると思ったんだがな」
マートは残念そうに呟いた。
「そいつは何者なんだ?」
「わからない。だが、蝙蝠みたいな羽根を生やして、呪術魔法を使う」
「どう考えても僕たちの同類だね。ああ、もしかしたら魔龍同盟かもしれないな。最近、この国にも魔龍同盟の連中が出没し始めてるって言う話はしたっけ?」
「いや、初耳だ」
「ただし、そいつは小男じゃない。身長は2mに近いらしいから、猫より高いね。スキンヘッドで白目部分が黒くて瞳部分が縦長で赤いんだって。じっと見られると気持ち悪いってみんな言ってたよ。そんな奴が何人かに声をかけてたらしい。自分の隠された能力を調べてみないかってさ。そいつも僕と同じトカゲって名乗ってるらしいよ。しかたないから、僕らはのっぽのトカゲって呼んでる」
「詳しく話を聞いたのが居て、そののっぽのトカゲは、魔龍同盟っていう組織のメンバーなんだって言ってたらしい。今こそ助け合うべきだってさ」
「へぇー、気になるな。そののっぽのトカゲは、どこに行けば会えるんだ?」
「いや、住み処まではわからないが、よくこのあたりでもみるらしいぜ。ああ、その詳しく話を聞いたって言ってたのはお前さんの友達の鱗だよ。彼に訊いてみたらどうだ?」
「そうなのか。あいつは年末から仕事に行ってまだ帰ってきてないんだ。ますます気になるな。ちょっと探してみるか」
「ああ、それが良いかもな」
マートは、カップの酒を一気に飲み干し、踊り手に銀貨を投げて、店を出た。
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鱗の臭いを探し始めたマートは、すぐに壁に行き当たった。あの強烈な臭いだ。すぐわかるはずと考えたマートの考えは甘かった。たしかに鱗の臭いはきついが、似た臭いがそこらへんにある側溝からも絶えず漂っているのだ。例えは変だが、いわば、流行のきつい香水をつけている女のようなものだ。同じ香水がいろんなところから流れて来、体臭そのものは打ち消されてしまっていた。
仕方なくマートは、酒場などの店のあつまるあたりを中心に、小男、のっぽのトカゲ、鱗を求めて順番に回っていくことにした。いまだに水の救護人の話を歌っている吟遊詩人なども居たりしてぎょっとするが、顔がばれているわけでもないので、知らぬ顔をしておく。
酒場で聞くと、のっぽのトカゲについては、ところどころで話を聞いた。身長が高く、スキンヘッドで、白目部分が黒い、いわゆる黒白目というやつで、瞳の光彩が縦長で赤いという容貌は目に付くのだろう。何かを探している様子で、うろうろと飲み歩いているらしい。3時間程王都を歩き回っただろうか、夜更けになった頃、ようやく、『ついさっき、のっぽのトカゲを見かけた』という情報に出会えたのだった。
その情報を元に、マートは注意深く周囲を探した。そして、酒場の席に1人で座り、エールを片手に、周囲をきょろきょろと見回しているその男を見つけたのだった。
“魔剣、ニーナ、あいつを見てどう思う?”
“そなたと同じように前世記憶があって、その特徴が外見にでておるのじゃろうな。黒い目……デーモンや悪霊といったものに良く見られる特徴じゃが……。あとはたしかサラマンドラもそうじゃな”
魔剣がまずそう返してきた。
“殴ったら判るんじゃない?目の配り方とかから見ると、接近戦はたいしたことなさそうだよ”
ニーナは相変わらずだった。マートはその男が出てくるのを待って、後をつけることにした。
のっぽのトカゲは、それから何軒かの店をハシゴしたあと、尾行を気にしているのか、何度か街角を曲がり、足を速めたり、遅くしたりしながら町外れまで移動してゆく。
実は王都は貴族街と王城はきちんと城壁に囲まれているが、一般の市街区画の城壁はどんどんと区画が拡張されているため、城壁がないところも結構ある。もちろん、非常時は川にかかる橋が関門となったりするようになってはいるのだが、平常時であれば、そのまま郊外に出ることが可能である。
のっぽのトカゲは、薄暗い道を明かりもつけず、そのまま徒歩で郊外に出、さらにしばらく歩いて農場のりっぱな家に入っていった。
マートは家の屋根の上に移動し、家の中の気配をさぐる。広い家の中では、帰ってきたばかりののっぽのトカゲが上着を脱ぎ、水を飲んで居たが、他のいくつかの部屋があり、ここの住人らしい中年の夫婦や3人の子供、そして鱗、緑色の肌をした男、そして王城で見た小男が寝ているのを見つけたのだった。
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