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猫《キャット》と呼ばれた男 【書籍化】  作者: れもん
第15章 聖王家に忍び寄る影

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120 ワイズ聖王国 宰相 ワーナー侯爵

 

「キャサリン姫とザビエル子爵が、怪しい人間を王城内に引き込んでいる。ライラ姫はそう仰るのですね」

 

 ワーナー侯爵は、ライラ姫の顔をじっと見ながらそう言った。その横で、マートは少し手持無沙汰に話が終わるのを待っている。ワーナー侯爵の横には補佐官らしき男が3人立っており、ライラ姫の横にはメイドが2人立っていた。

 

 ワイズ聖王国の宰相を務めるワーナー侯爵というのは、ワイズ聖王国の南部に大きな領地を持ち、年齢はまだ30才と比較的若く、容姿も整っているというので、王都の住民からの評判はそれほど悪くない。だが、マートにとっては、それ以上の事は何もわからない。宰相というからには偉いのだろうな程度しか思っていなかったのだが、ライラ姫の説明を聞いている様子ではかなり頭の切れる男のように思えた。

 

「今のところ何も証拠はありません。だけど、前回みたいに背後はハドリー王国じゃないような感触があります」


「違うもの?」


「そうです。王城に入り込んでいるのはあれは人間じゃなく、蛮族……じゃないかしら」


「蛮族が……ですか?蛮族というのは、オーガやオーク、ゴブリンと呼ばれる者たちで、彼らに知能はありません。道具は使えますが、それは、猿や犬が棒を使うのと大差ないのです」


「みんな、そう思っています。私も少し前まではそう思っていました。でも、知っているでしょう?蛮族は集落を造り、連携をとることができます」


「それは、その通りですが……」


 そこまで言って、ワーナー侯爵は考え込んだ。


「とりあえず、キャサリンお姉さまの動向に注意をして頂きたいの。そして、犯人として蛮族の可能性があるというのを考えて欲しいのです」


「他ならぬライラ姫のお話です。わかりました。キャサリン姫、ザビエル子爵の身辺については、調査させていただくことにします」


「お願いね。あと、彼を紹介しておくわ。知っているとは思うけれど…」


「ワイズ・クロス勲章を受勲されたマート殿ですね。しかし、アレクサンダー伯爵家ではなく、ライラ姫から紹介いただくというのは、少し意外です」


「彼はブライトン・マジソン男爵から紹介してもらったの。今回の話で、私から彼に調査の依頼をしようと考えているのよ」


「ブライトン男爵……ああ、ラシュピー帝国の調査隊ですか。男爵もマート殿も同じ調査隊でしたね。しかし……マート殿は冒険者であって、調査の専門家ではないのです。気づかれたりする可能性が……」


 ワーナー侯爵は少し首を傾げつつ、じっとマートの方を見る。


「彼は凄腕の斥候よ。大丈夫。私が保証するわ」


 ワーナー侯爵は少し考え込んだが、頷いた。


「わかりました。ライラ姫の推測から独自の調査を行いたいということですね。マート殿1人だけであれば、問題ないでしょう。第3騎士団副団長のライナス子爵、第2騎士団団長のエミリア伯爵からも、能力は極めて高いという話は伺っています。特別に王城への入場を許可するための手続きを行っておきます」


 そう聞いて、マートは軽くお辞儀をした。

 

「そう言えば、マート殿のように、瞳の形が縦長だったり、身体に鱗がある、耳が尖っているといった特徴のある人間が居て、魔人と呼ばれているそうですね」


 ワーナー侯爵の言葉にマートはピクリと反応する。ワーナー侯爵は言葉を続けた。

 

「魔人は、人間にはない特別な力を持っている。成人になると魔獣になる。そういった噂を聞いたことがあります。先程のライラ姫の蛮族と言う話は、実は魔人の仕業であるという可能性は考えられないでしょうか?」


 そこまで聞いて、マートは固く拳を握りしめ、思わず発言を求める。


「可能性は否定できませんが、よろしいですか?」


「はい、何でしょう?」


「魔人という言葉が蔑称として使われていることはご存知ですか?」


「いえ、私の周りには魔人などいませ……あ……」


「気づいていただけたようですね。ありがとうございます。魔人と言う言葉は、人間ではない、人間以下として使われていることが多い言葉です。あなたも今、魔人など(・・)と仰られた。無意識だとは思いますが、そのような気持ちがある場合があります。私のように外見に特徴の或るものは、真っ当な商売につくことは難しく、見世物にされたりすることもございます」

「何かの捜査で、魔人であるからと無条件に連行して話を聞くというようなことも今まで何度もありました。もちろん、今回の事件では魔人が関わっている可能性は否定できませんが、様々な事柄で、少しだけでも配慮していただければとお願いしたいのです」


「なるほど」


「差し出たことを申し訳ありません」


「いえ、私には思慮が足りなかったようです。私こそ申し訳ありません」


侯爵にそう言われ、マートは深く頭を下げた。


-----


「じゃぁ、ライラ姫、俺は調査に行ってくる」


マートは上機嫌だった。国の宰相であり、侯爵でもある男が『申し訳ありません』と言ってくれたのだ。あり得ない事だった。無礼と言われて捕まっても不思議ではない事を言ったという自覚はあった。第一、犯人は魔人だというのは彼には判っているので、結果としてはおかしい事になるというのも判っていた。でも我慢できなかった。言ってしまった。そして、自分の話を聞いてくれたのが非常にうれしかった。


「今晩もまた連絡に来てくださいね。いつもの時刻にメイドに迎えに行かせます」


マートはライラ姫にわかったとばかりに一礼し、王城を後にしたのだった。


読んで頂いてありがとうございます。


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― 新着の感想 ―
[一言] ……まあ、居ないという時点で、雇わなかったり、貴族に生まれても表に出さなかったりってのはありそうだし……。 ……まあ居るんですけどね!
[気になる点] 流されやすい主人公 [一言] 女に甘いだけかw
[気になる点] 「など」って相手を下に見て使う言葉じゃないと思うのですが。
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