115 街到着
夜を徹して歩いたマートたち4人は、明け方には街のすぐ近くまでたどり着いた。
巨人達を相手にしているためか、街を囲う防護壁はワイズ聖王国に比べてかなり高く、衛兵たちの数もかなり多い。防護壁やその外側では明け方であってもかがり火が焚かれていた。
「では、悪いが俺はここまでだ。ここから先はもう大丈夫だろう」
マートはそう切り出し、倒れた馬に積んであった鞍袋と水袋、そして大きな鞄をマジックバッグからとりだして、カルヴァンたちに手渡す。
「本当に来ないのか?あんたには本当に世話になった。あんたの案内がなかったら、俺達はこんな早くにはたどりつけなかっただろう」
カルヴァンという騎士はそういった。セドリックともう一人の騎士も横で頷いている。
「しばらく、ずっと人の居ないところで暮らしていたんでな。いろいろ事情もあって街には入りたくない。蛮族はかなり増えてるのか?」
マートはそう3人に説明した。
「3年ほど前から急激に蛮族が増えてな。ダービー王国の版図は減少する一方だ。ついに水都ファクラまで陥落してしまった。彼らの勢いを抑えることはできないだろう。他の国々に救援を求めているが、果たして叶えられるかどうか……」
3年ほど前か、ラシュピー帝国のヘイクス城塞都市でもマートは3年ほど前から蛮族が増えたと聞いた記憶があった。だが、さすがに大陸の西と東で遥か離れた場所だ。偶然の一致かもしれない。だが、なんとなく気になった。
「そなたには、本当に世話になった。礼を言う」
セドリックがそういった。彼の口ぶりからしても普通の騎士のようには思えないが、敢えてマートは何も言わずに頷いた。
「そなたは街には入らないという。申し訳ないが、今我々には手持ちがない。その代わりに、これを受け取ってほしい」
彼は、先ほどマートから返してもらった大きな鞄の口紐を解いた。そこには、キタラと呼ばれる楽器が入っていた。抱えて奏でるタイプの竪琴で、流麗な飾りがほどこされており、一目で名品とわかった。
「ずっと大事にしていたのだが、今回の逃避行でつくづく身に染みた。私は楽器を弾く手を守るという名目で剣の修行すらしていなかった。だが、それではだめだというのがよくわかった。これは私が作らせたものだが、決して安いものではない。売ればおそらく100金貨以上の値打ちはあるだろう」
「ほんとうに良いのか……?」
マートがみても、その楽器には丁寧に手入れがなされていた。彼の言うとおり、本当に大事にしていたのだろう。
「ああ、私は音楽に逃げて、現実を見ていなかったのだ。遅ればせながら、カルヴァンの言葉に従って、努力してみようと思う」
マートにはよくわからない話だったが、セドリックの決意は硬そうで、それに水を差したり、多すぎる報酬も指摘する必要もないと考えた。そこで、マートはキタラを受け取り、彼らと別れたのだった。
-----
そこから、半日かけてマートは巨大アリの巣を再び通り抜け、家に戻った。途中、巨大アリの餌となっているヒル・ジャイアントの死骸を見つけたが、3体だけだった。落とし穴につかった巨大アリの通路はアリたちがおこなったのであろう修復が終わっていた。
部屋で魔法のドアノブをあけると、家の外で、エバとアンジェ、アレクシア、アニスまでが彼の帰りを待っている声が聞こえた。レティシアから早速聞きつけたのだろう。マートは慌てて自分の身体を洗浄呪文で綺麗にしてから、扉を開け、4人を招きいれたのだった。
「ああ、すまん、カギをかけたまま、海辺の家に行っていてな」
「おかえりなさいっ」
アンジェが勢いよくマートに抱きついた。
彼女達4人は海辺の家の事を知っているので、海辺の家と言ったほうが納得するだろうと、マートはそう説明した。ダービー王国云々は説明しても意味ないだろう。
「返事はなかったですが、私たちに連絡がないということは、きっと、そんなことだろうと思っていました。おかえりなさい。マートさん」
アレクシアがそう言った、アンジェに続いて家の中に入って来る。
「猫の家はこんな感じなんだ。どうして言ってくれないんだい?水臭いじゃないか」
アニスもそう言いながら、アレクシアに続き、その後、エバも続く。
「まだ、何もないけどな。ちゃんと買い物がおわってから連絡するつもりだったのさ。アレクシアはもう仕事は終わったのか?」
「はい、先ほど帰ってきて、レティシアさんに話を聞いたので、エバさんとアンジェちゃんをさそって来ました」
「私もそのとき、たまたまクランに居てね。ほら、食べ物と飲み物を買ってきたよ」
アニスが片手に抱えた紙の包みを掲げて見せた。
「ちゃんとしたのは改めてするとして、簡単に祝いをしようじゃないか。へぇ、なかなかいい家じゃないか。レティシアが言ってた通り、部屋がいっぱいあるね」
祝いか、昨晩は寝てないんだが……マートは心の中でそう思った。
「ホントですね。これで、私達は路頭に迷わずに済みそうです」
エバがそう言い、マートはへっ?と思わず言った。ああ、リリーの街でのお嬢の家は無くなるのだったな。レティシアは彼女に声をかけたらどうだと言っていたが…。
「ほんとですね。エバさん、アンジェちゃん、行くところがあってよかったですね。私もここに住もうかな」
アレクシアがそう応える。えっと、君は?
「それがいいよ。私もそろそろ宿屋暮らしは飽きてきたし、一緒に厄介になろうかね。荷物も増えて手狭になってるし」
アニスがそう言う。おい、姐さんもなのか……。
「みんなで暮らそう。部屋たくさんあるんだし、いいよね?猫」
そう言ってアンジェがにっこりと笑った。
こいつら、相談してやがったな。
読んで頂いてありがとうございます。
ごうを煮やしたのか、4人がついに押しかけてきました。ハーレム…になるのでしょうか?(笑)
評価ポイント、感想などいただけるとうれしいです。よろしくお願いします。




