111 討伐行 5
マイクの突撃を受けたオーガナイトは崖に激突してピクリとも動かない。ビルとハンニバルの突撃を受けた相手も崖にもたれかかるようにしてうめいているだけだ。だが、残った2体のオーガナイトはビルたちを睨みつけながら唸り声を上げ、戦意満々で武器を構えなおした。
「右はハンニバル頼む。左をマイクと僕とで先に片付ける」
ビルがそう指示を出す。マイクとハンニバルも乱れず彼の指示通りに動いて隊形を組み替えた。
オーガナイトはそれぞれに踏み込み、闘技を振るうが、騎士たちは危なげなく防御した。オーガナイトの膂力であれば人間には普通耐えられないはずだが、そこは熟練の騎士である。盾の角度を上手く利用して力を受け流しているのだ。
ハンニバルはそのまま、1体のオーガナイトを相手に剣を振るい、盾で攻撃をいなすのを繰り返している。無理はせず、相手の疲労を待つようだ。
一方のマイクとビルは、交互に剣を振るい始めた。2騎を相手となるとオーガナイトもさすがに分が悪いようで、攻撃のタイミングを失って防御一方となっていく。そして、徐々に体力を削ってゆき、終にビルの剣がオーガナイトの腕を切り裂いた。
ウガッとうめいたオーガナイト。その隙を捕らえた2人の騎士はほぼ同時に闘技を繰り出す。
<速剣> 直剣闘技 --- 2回攻撃
<破剣> 直剣闘技 --- 装甲無効技
オーガナイトは血しぶきを上げて倒れた。
「よし、残り1体」
もう、そうなると、いくらオーガナイトとはいえ、勝ち目は薄かった。ビル、ハンニバル、マイクの3人は残ったオーガナイトを相手に、今後の戦いのためを考えて、どれぐらいの力があるのか、どのような技を使うのかといったことをしっかりと検証した後、止めを刺したのだった。
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オーガナイトを片付けた騎士たちは、他のオーガやゴブリン連中がやってくるのを待っていたが、後続は何時まで経ってもやってこなかった。しびれを切らしたエミリア伯爵は、アニスやメーブ、マシューを連れて崖を下り、彼らと合流すると、オーガナイトがやってきた道を逆行して行った。
途中までは、弓矢を受けて倒れたオーガやゴブリン、ホブゴブリンなどが、ところどころ倒れている程度だったが、途中から、巨大な岩に押しつぶされた集団や、落とし穴の底で杭にささったり、水びたしで全身大やけどをして呻いている集団などがいた。
「あー、派手にやったからねぇ」
アニスが呟いている。
「なんだ?これは。まるで攻城戦の跡ではないか」
エミリア伯爵とメーブは地形などを見ながらそう呟いていた。巨大な岩が転がり落ちたところは、縦に溝になっている地形で、左右には逃げにくいところを狙っていたように見え、そういう地形はまるで、山の砦などで畝状竪堀とよばれる防護施設と同じに見えた。
「ああ、そこは歩きやすいところが低くなってるからね。そこを狙って用意していた岩を転がしたのさ。あの水浸しのところは、マートが魔法で熱湯をぶっ掛けてた」
「なるほどな。半日ほど待たされたのは、それを用意していたというわけか」
エミリア伯爵は感心しながらそう言った。騎士たちはまだ死んでいない蛮族たちの止めを刺している。
「ああ、2人で段取りを決めて、逃げるルートとかもちゃんと用意したんだよ。それでも、オーガナイトはやっぱり規格外でさ。落とし穴とかも簡単に飛び越えてくるから焦ったよ。最後は、猫が時間を稼いでくれて、私が先に逃げ出してきたってわけ」
「そのマートはどこだ?」
「さぁね。連中の集落とかじゃないのかね」
「ふむ、そうだな。残っている蛮族もいるだろう。急ごう」
エミリア伯爵たちは、さらに道なき道を進み、集落がすぐ近くに見下ろせる丘までたどり着いた所で、マートが弓を片手にその上でじっと立っているのを見つけたのだった。
「猫、お疲れ。向こうはどうだい?」
アニスがそう声をかけると、マートは振り返った。
「ああ、もう、動くのはいなさそうだ」
エミリア伯爵たちもすぐ近くまでやってきた。オークとゴブリンが暮らしていた集落を見下ろす。距離は700mほどあるだろう。
「ここから弓で?」
メーブは尋ねた。弓の有効射程は300m程だ。もちろん、個人では500mほど飛ばすことが出来るものもいないわけではない。もちろんここから集落は見下ろす位置にあるので、届かせる者はいるかもしれないが…。人の姿ですら豆粒のようなのに、きちんと狙えるものだろうか。
「ああ、もちろん。これ以上近づいて攻撃されるのも面倒だしな」
「伯爵、私、少し思ったのですが……」
メーブが小さな声でそう呟いた。
「うむ、私も思ったぞ」
「そなた(マートさん)第二騎士団に来ないか?(きませんか?)」
「あなたがいれば、100騎規模の別働隊が数日輜重がなくても移動ができ、長駆して敵の後ろを奇襲することも自由自在です。そして、たった一人でも100人程度の軍勢なら砦を守ることができ、野営中奇襲を受けることも無い。そして、敵の弓兵が届かない遠距離から弓による先制攻撃すら可能……」
メーブが珍しく長舌を振るった。マートにすがりつかんばかりである。
「いや、それは魔法使いでも同じだろ。彼らは格納呪文で物資を運べるし、空すら飛べる。遠距離も瞬間移動できる。遠距離で魔法を撃つこともできる。俺以上だろ?」
マートは不思議そうにそう尋ねた。
「それは……それはそうかもしれませんが、魔法使いで高い素養がある者は宮廷魔術師として王家や、高位の貴族に仕える者ばかりで騎士団に配属されることはないのです。必要に応じて協力してくれることはありますが…、それは非常時だけなのです」
「悪いが、俺は誰かに仕えるという気は無い。以前、アレクサンダー伯爵家の前騎士団長にもそう答えた。冒険者の魔法使いで高い素養があるのも居るからそっちを当たるほうが良いと思うぜ。今回、俺は仕事を安すぎる値段で引き受けてしまったようだ。あんたがたも今回は100金貨だからそう思っただけで、もし1000金貨だとなってたら、そんな事は言わなかっただろう」
メーブとマートのやりとりを聞いて、エミリア伯爵は軽く苦笑を浮かべ、微かに頷いた。
「ふふ、メーブ、仕方ないね。彼の言うとおりかもしれない、今回は諦めよう。今回の調査遠征でおおよそ半径30キロぐらいの蛮族の大半は平らげることができた。アレクサンダー伯爵家の所領にその1/4ぐらいの面積はあらたに組み込むことが出来るだろう。それでも十分だと考えておこうよ」
「はい。非常に残念ですが……」
「マート、今回は引き下がるが、まだ諦めてはいないということは憶えておいておくれ。何かあったら、これでも伯爵だ。頼ってくれて構わないよ。それと、年始のパーティには来るのだろう?その後ででも、私の館に遊びに来てくれないか?」
エミリア伯爵は微笑んで、そう言い、マートも頷かざるをえなかったのだった。
読んで頂いてありがとうございます。
畝状竪堀というのは日本の山城での防護設備の名称です。マートの世界でも、それに似たようなものがあり、日本語で表記したら畝上竪堀という用語に成ったと解釈いただければと思います。
ここで、討伐訓練の話は一旦終わりです。
ご希望がありましたので、この時点でのマートのステータスカードを載せておきます。
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名前:マート
種族:人間
所属ギルド
冒険者ギルド リリーの街 ランクB
戦闘力評価
訓練所初段
※以下非表示
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前世記憶:デイモスマンティコア
顕現可能:人間体
スキル
戦闘:片手剣 ★★★☆
短剣 ★☆☆☆
格闘 ★★★★(★)
投擲 ★☆☆
弓術 ★★★★★
精霊: ★★★★☆☆
(神聖: ★☆)
(真理: ★)
運動:斥候 ★★★★★(☆)
体術 ★★★★(☆)
生活:調理 ★★☆
音楽 ★★★
動植物 ★★★
魔獣:飛行 ★★(★★)
毒針 ★★★(★☆☆)
爪牙 ★★(☆)
鋭敏感覚★★★(★)
呪術 ★★★(★★☆)
肉体強化★★(★☆)
死霊術 ★★★☆
魔法
呪術:痛覚 ★★
毒 ★★☆
幻覚 ★★☆
生命力吸収★☆☆
呪い ★☆☆
(感情操作 ★★☆)
( 即死 ★★☆)
( 変身 ★★☆)
(記憶奪取 ★★☆)
(神聖:治療 ★☆)
( 防護 ★☆)
( 祝福 ★☆)
( 治癒 ☆☆)
( 解毒 ☆☆)
(真理:光 ★)
( 魔法の矢★)
( 魔法感知★)
( 洗浄 ★)
死霊:生成【スケルトン】6
【ゾンビ】 6
【ゴースト】 1
【レイス】 1
※ニーナのみ
((【各種ゾンビ】 152))
((【マンティコア・ゾンビ】 1))
((【オークウォーリヤ・ゾンビ】 1))
操作 ★☆☆
精霊契約
泉の精霊 ウェイヴィ
炎の精霊 ヴレイズ
※ニーナのみ
樹の精霊 アニータ
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※()でくくってあるところは、ニーナ顕現中は使えません。
評価ポイント、感想などいただけるとうれしいです。よろしくお願いします。




