105 出発の準備
2020.9.21 マジックバック → マジックバッグ
2020.9.26 お湯生成 → 温水生成
「これで一ヶ月分の遠征の準備ですか?」
10日して、マートは小さな荷馬車を曳いて、花都ジョンソンに戻ってきたのだが、荷物のあまりの少なさに、エミリア伯爵の補佐官メーブが不思議そうに尋ねた。
「んー、現地調達のものもあるが、大体そうだな。ああ、マジックバッグがあるんだよ。おおまかなものは見せようか?」
「はい、是非お願いします」
「姐さん、悪いがちょっと手伝ってくれ」
「あいよ」
馬車の御者をしていたアニスがひょいと飛び降りた。今回、アレクシアは別の仕事で出かけており、マートは手の空いていたアニスに頼み込んで一緒に来てもらったのだった。マートの口調は伯爵に対してとは異なり普通に戻っている。
小さな荷馬車の中から、まず飼い葉桶と水桶を下ろす。あとは水樽。どれも空っぽなので重くはないが、一番かさばる荷物だ。
次はマジックバッグから、肉の燻製の塊、ジャガイモやにんじん、硬い黒パンなどがつまった木箱、塩の箱、50㎝角程に四角くまとめた飼葉のブロック、カラスムギなどの飼料、小さいリンゴなどが入った木樽、薪といったものを次々と取り出し、中庭に山と積んでいく。
「すごいですね。マジックバッグにはどれぐらいの容量があるのですか?」
「おおよそ物置小屋ぐらいだな。飼葉はかさばるので、半月分ぐらいしか持てていない。野草があれば助かるんだが、それは行程次第だから、状況によっては途中で調達を考えないといけないかもしれない。大麦やカラス麦といった飼料は持ってるが、そればっかりじゃ体調をくずすのがいるからな」
「水は?」
「水は精霊魔法で出せるから安心してくれ。お湯も出せるからな」
『水生成』
『温水生成』
そういって、マートは1つ目の水樽にふつうの水、2つめの水樽には温かいお湯を出した。
メーブはそっと手を入れる。
「わ、温かい。もっと熱くしたり冷たくしたりもできるのですか?」
マートは水樽にひっかけてあった木の椀をメーブに手渡す。
『水生成』
『沸騰』
木の椀の中で水が沸騰した。
「これは……精霊魔法?」
「ああ、そうだ。便利だろ?だから水は心配しなくていい。人間の食料は多めに持ってきているが、現地調達もできるだろう」
「なるほど、馬が居なければ、荷馬車は無くて済んだんですか?」
「ああ、どうだろう。ラシュピー帝国の調査隊に同行したときには、シェリーと俺と後1人だったが、そのときは彼女の馬が1頭だけだったので、荷物はロバ1頭に積んだ位だった。馬の飼い葉桶と水桶がなければロバも居なくて済んだかもしれない。ああ、あとこいつも嵩張るんだが…」
そう言って、マートは設営済みのテントを一張りと、焚火用の石を取り出す。
「シェリーやお嬢にはこれは好評だったぜ。着替えるにしてもこれがあると安心だってな。布が薄いから、中で明かりをつけるのは暗めにしてくれ。焚き火用の石は、あると野営の準備がすぐに出来るんで持ち歩いてる。遠征の準備は大体はこんなものかな」
「成程、成程……」
メーブはそういいながら、積みあがった資材を調べ始めた。時折、感心するような声を上げている。
「成程、確かに安心ですね。すばらしいです」
「俺達冒険者は地下遺跡とかに長い期間潜ったりもするからな。もし、何か足りなそうなものがあったら、言ってくれ。明日出発なのだろう?途中の街で手に入るものならいいんだけどな」
そういう話をしていると、2人の男が中庭にやってきた。1人は身長が2mぐらいで、赤い髪の毛を短く刈り込んでおり、もう一人はマートと同じぐらいの身長で、金髪の髪を丁寧に整えていた。2人共、鍛え上げられた身体をしている。
「よう、資材の打ち合わせか、ご苦労さんだな」
赤毛の方がマートに話しかけてきた。
「スチュアート卿、ハインド卿、もうお着きになられたのですか?」
メーブは2人を見て少し驚いたような顔をした。
「ああ、強いのが倒せると聞いてな。楽しみですこし早く着いちまった」
「僕は、彼と途中で出会ってね。一緒に来たよ」
2人とメーブは顔見知りのようだった。
「そっちの兄ちゃんたちは、ガイドかい?冒険者なんだろうな。動きに無駄がない。結構腕が立ちそうだ」
マートは2人に会釈を返した。
「こちらの身体の大きいほうがマイク・スチュアート卿。第3騎士団所属です。金髪のほうはビル・ハインド卿。彼は第1騎士団所属になります。お2人ともそれぞれの騎士団から選ばれて今回の蛮族の討伐に参加される予定の方々です」
メーブはそう2人をマートに紹介した。そして、次にマート達を紹介する。
「こちらはマートさん、そちらの女性の方はアニスさんと仰います。今回の訓練で案内役をしていただくことになっています。共に冒険者で、マートさんはランクB、アニスさんはランクAです」
「ほほう、成程な。地方だと若い高ランクが居ると聞いていたが、2人共僕と同じ年ぐらいなのに、AとかBなんだ。噂は正しかったな」
「王都だと、ランクA、ランクBと言っても長年の実績でというのが多いからな。すげぇのやっつけたりしてるんだろ?どんな奴を倒したことがあるんだ?」
アニスはマートをちらりと見た。あんたが雇われたんだろ?私は手伝いだよと言っているようにマートには見えた。
「そうですね、最近だとオーガナイトですね。とはいっても、ラシュピー帝国での話です。私はメインは斥候なんで足止めをしてただけでした」
「オーガナイト!ああ、今年の春の調査隊で遭遇したと聞いたが、そのときか。たしか、アレクサンダー家の騎士とその従者が討伐したと聞いた」
「その従者というのは私です」
「その話は俺もライナス卿から聞いているぞ。奴とは同じ第3騎士団だからな。そのアレクサンダー家の騎士っていうのが凄い美人だって言ってた。今日はその騎士は居ないのか?」
「さぁ、それは詰め所のほうで聞いてもらわないと判りません」
「そうか、どうせ今晩は顔合わせで飲むんだろう。その時にまた聞かせてくれよ。それと、俺は2等騎士でしかないし、あんたはランクBなんだろ?もっと気楽に喋ってくれていいぜ。そちらのアニスさんもな。ビルもそれでいいだろ?」
「ああ、いいよ。僕も気楽に喋るほうが楽だな。アニスさんも腕は立ちそうだ。冒険者の戦い方っていうのを見てみたかったんだ。2人共どうだい?ちょっと訓練試合をしてみないか?」
王国騎士団は伯爵も含めてみなこんな感じなんだろうか。確かにこんな感じのほうが気楽だがとマートは考えた。
「んん、じゃぁ、普通に喋らせてもらうよ。俺もこれのほうが助かる。でも、腕比べは…どうだろうな。俺の腕じゃ、あんた達にとっては遊び程度にしかならないと思うぜ。あとは準備がこれで揃ってればいいんだが」
「んー。準備のほうは大丈夫です。マートさん、全部しまってもらって結構ですよ」
メーブがそう言った。
「おお、じゃぁ、遊び程度でもいいから、ちょっとだけやろうぜ。訓練場を借りられるか聞いてこよう」
嬉しそうに金髪を掻き上げながらビルが言った。
「わかりました。今回の旅に神官の方が同行されることになっていますので、その方を連れてきますね。私もどんなものか興味あります」
「そいつは安心だ。俺も是非、1手頼むぜ」
「姐さんもいいかい?」
マートの言葉にアニスも頷いた。
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