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猫《キャット》と呼ばれた男 【書籍化】  作者: れもん
第12章 王都の下水路

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101 国王謁見

2020.9.21 マジックバック → マジックバッグ

2020.10.7 サラマンダー → サラマンドラ

2020.10.8 二等→2等

 

 ジュディとランス卿、そして王城で待っていたアレクサンダー伯爵と一緒に、マートが通されたのは、朝にライラ姫と話をしたのと同じ部屋だった。前日に彼が(スネーク)と酒を飲んでいた酒場を考えると、天と地ほどの差であり、彼はふと、この差は何なんだろうなという気になった。

 

 使用人らしき男が扉を開け、壮年の男性が男性、女性2人ずつの使用人を連れて入ってきた。おそらく国王陛下だろう。マートは膝をつき礼をする。

 

「よいぞ、アレクサンダー伯、ジュディそしてランス卿もご苦労。そなたがマートか。面を上げよ」

 

 1度目はそう言われても上げないのがワイズ聖王国でのマナーだ。

 

「ふふん、冒険者と言うから、何の作法も知らんのかと思ったがそうでもないではないか。マートとやら、改めて、面を上げよ。そして、聖剣発見の時の話をきかせてくれ」

 

「?」

 

 マートはわざととぼけて見せた。

 

「ジュディが献上してくれたのじゃよ。聖剣が見つかったとな。そなたとサラマンドラの髭を捜しに行ったときに見つけた剣のことじゃ。どのようにして見つけた?」

 

 マートは、ジュディたちとともにサラマンドラの髭を手に入れた後、壁の色の変わった土を見つけたところから話を始めた。おそらく埋められたのであろう洞窟と、そこからしばらく入ったところにあった宝箱だ。

 

「おおお、まるで吟遊詩人の語る英雄物語(サーガ)の一節のようだ。宝箱か…どのような大きさであったのだ?」

 

「もし、お許しをいただけますのなら、床が汚れますが、この場にお出しいたしましょう」

 

 マートは、国王の許可を得て、来る途中の馬車の中で、再びニーナと交換していたマジックバッグから宝箱を取り出した。夜の蝋燭の明かりの中、金貨や銀貨がキラキラと光る。

 

「おお、これが盗賊の財宝か。このようなものが闇の中に光っておったのじゃな」

 

 国王は、硬貨を二、三枚手に取った。

 

「そして、その中に、あの聖剣と聖盾があったというわけか」

 

「そこで見つけた財宝は、最近のものではありませんでしたので、我々冒険者と致しましては皆、発見者のものというのが慣例でございます。そのうち、剣と盾は鑑定などしないままでしたが、拵えが極めて立派でしたので、ジュディ様に献上し、残りの宝箱は、発見した私が頂くことになりました」

 

 盗賊の財宝で所有者がわかれば返還されることもあるが、百年、2百年経ったものは所有者本人は亡くなっているため返還などはせず自分のものにしてよいというのが通例だ。今回のように失われた王家の聖剣だと判明するようなケースは極めて稀である。さらに言いつのろうとしたマートを国王が制した。

 

「心配せずとも良い。それらの話はアレクサンダー伯と済ませておる。剣と盾は王家に戻され、今年の収穫祭で、伯爵家は王家より褒賞され、その際に、長男セオドールを嫡男として正式に認めるということで決着済みだ。あとはそなたじゃ。ランス卿の話ではそなたは仕官を望んでおらぬというが、改めて問おう。どうじゃ、王家に仕えぬか?このような事は極めて異例の事ぞ」

 

 マートは国王陛下直接の申し出に驚き、ためらったが、ゆっくり首を振った。

 

「申し訳ございませぬ。私はそれほどの器ではございません。王家に仕えるなど、恐れ多うございます」

 

「そうか」

 

 国王陛下はここで少し言葉を切った。

 

「では、代わりに勲章を受けてくれぬか。今回、新たに設ける勲章じゃ。そうじゃな、ワイズ・クロス勲章とでも名付けようか。二振りの聖剣が交差するデザインが良いの。世襲ではないぞ。年に1度、冬の王都での新年のパーティだけは出席せよ。パーティに参加するために必要な費用として幾ばくかの金額を支給しよう。他に細かい事は、別途決めるが、その程度なら受けてくれぬか?」

 

 マートは迷ったが、おそらくこのあたりが落としどころとして用意されたものなのだろう。これ以上、国王の申し出を断るのは、後に遺恨を残しそうだった。

 

「……受けさせていただきます。ありがたき幸せ」

 

「よろしい。マート。楽しい話であった。今の時代でもこのような事が起るのじゃな。改めて受勲の栄誉を宰相に伝えておく。宝箱はしまっておけ。宮廷には欲張りが居るからのう、もう見せる必要はないぞ。ふむ、アレクサンダー伯、これで全て落ち着いたかの」

 

「はっ、ありがとうございます」

 

「よし、これで終わりじゃ。退出してよい」

 

----- 

 

「陛下、ありがとうございました」

 

 別室に移ったアレクサンダー伯爵とランス卿は、国王に頭を下げた。ジュディにマートを先に送らせたので2人ともここには居ない。

 

「ふむ、本当にあれでよかったのか?仕えよと命令したほうが余は良かったと思うがの。あれは、そなたらがそれほど気を使うほどの者なのか?」

 

 国王の言葉に、アレクサンダー伯爵はちらりとランス卿を見た。

 

「かの者の斥候としての素質は、我らが伯爵領にハドリー王国の魔法使いなどが手を伸ばしていたときの対処や、ラシュピー帝国へ派遣させたときの実績などを含めても、おそらく王国内でも指折りのものと思われます」

 

 ランス卿は口を開き、そう説明し始めた。

 

「そして、彼の精霊魔法の素質もかなり高い…おそらく★4以上と考えております。わが国としては、騎士団に随伴する斥候、場合によっては間諜としても極めて有為な人材だと考えております」

 

「うむ、それはライナス子爵からの報告も一致しておる。数キロ先からの敵襲も感知する能力があると思われ、是非騎士団に欲しいとな」

 

「しかしながら、あの者は冒険者のままがよいと申します。わが国への愛国心は乏しい。調べたところによると、捨て子で旅芸人の一座に拾われて育ったとか。無理に仕官をさせても逃げ出される怖れがあると考えました」

 

「ふむ、わからんの」

 

「言葉も我々と同じような言葉が使えるにもかかわらず、下賎の言葉を改めようともしません。そのため、我が領の騎士たちとは衝突してばかりなのです」

 

 アレクサンダー伯爵がそう付け足した。

 

「だからこその、勲章なのであろう?自覚を持たせるのはそなたらがすれば良い。あとは、どうしようと言うのだ?」

 

「我が騎士団にシェリーという者がおります。まだ若い女性の2等騎士ですが忠誠心は高く、将来は有望な者です。お互い面識があり、嫌っている様子はありませんし、娶せてはどうかと」

 

 そう聞いた国王はふむふむと何度も首を縦に振った。

 

「なるほど、そうすれば逃げ出すことも無くなると考えたわけじゃな」

 

「はい、いかがでしょうか?」

 

「ふむ、騎士シェリーというのもライナス子爵の報告に載っていたな。女性で珍しいほどに腕が立つと書いてあった。それは好きにすれば良いが、しかし、マートとやらは本当にそれほどの価値があるのかのう。今回はそなたらがあまりに言うので、勲章を新たに設けることまでしたがのう。もう一度試してみようではないか」

 

「とおっしゃいますと?」

 

「聖剣が見つかったことで、予言がすこし現実味を帯びてきたような気がするのじゃ。今までは、聖剣を使える者といっても、残る1本の聖剣を実際に持たせてやるわけにはいかなかったからの。騎士団から、剣の得意な者を何人か選抜し、実際に働きや考え方などを確認する試みをしようという案が上がっておる。それに同行させて、素質を確認したい」

 

「なるほど、了解いたしました」

 


読んで頂いてありがとうございます。


次は章を改める予定です。


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[良い点] むしろばか寄りのオウサマで良かった。 [気になる点] 水使い放題で火精霊追加の時点で他に何も無くてもアレなんだよオウサマ……。
[良い点] 魔龍同盟頑張れ。前世記憶持ちの中でマウント合戦が起きて自滅するまでは頑張れ(笑) そしてそういうのを猫の予感で感じ取れる主人公も頑張れ! [気になる点] なんだか頭が回らない権力者が多…
[気になる点] 諸々はともかくとしても、冒険者に「毎年新年のパーティーに参加しろ」って、「そのタイミングを挟む仕事をせず、王都に来い」になる話では……? 割と微妙感が強い。
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