王との対面
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朝、昨日の部屋で食事を取ると、いつの間にか送られていた衣装に着替えて、待ち合わせの場所までのルートと話の内容を打ち合わせることになった。
幾日ぶりかにベッドで休めたからか、皆顔色も良く、大丈夫そうだ。
そこに、高級なドレスに着替えた、絶世の美女が入って来た。
オーレンへ送られた衣装は、予想通りの美しいドレスだったようだ。
「ねえねえ。見て見て。王都の最新のドレスだって!綺麗でしょう~?」
目の前のオーレンは仕立ての良い青いドレスを身にまとって、まるで天使だ。
器用に結い上げた髪は王冠を被っているかごとき黄金の髪だし、化粧をせずとも白磁のごとき白い肌、宝石のような青い瞳は濡れたように輝いて、薄く赤く色着いてる唇はプックリと柔らかそうだ。
「綺麗だね。良く似合ってるよ。しかし、あんたのサイズどうやって知ったんだろうね。」
目の前の光り輝く美貌の淑女を褒めつつも、これは認識阻害の魔法を使わないと余計なものまで引っかけそうだとジェーンは内心ため息をついた。
現に、アルタイトは口を開けたまま固まっているし、慣れてるはずのビルケム侯爵も頬を赤らめて見惚れている。
ちなみに、ジェーンは侍女風の控えめなドレスで、ビルケム侯爵が私服の騎士、アルタイトが騎士見習いといった格好だ。皆、控えめだが上等な衣装である。
城の近くならともかく、ギルド周辺ではこれだけでも結構目立ってしまうだろうから、認識阻害は結界を使って全員にかけようかとジェーンは話をしながらも魔法の内容を思案していた。
「ん~。僕、ここ100年くらい体型変わってないから、前に王都にいた時に懇意にしてた仕立て屋さんに頼んだんじゃないかなあ。」
「そういや、ドレスもプレゼントされてたね…。」
遠い昔のことだが、一時期王都にいた際、オーレンが当時の皇太子にいろいろな物をプレゼントされていたのは覚えている。
また、それがオーレンに良く似合うものだから、当時彼が来ていたドレスやアクセサリーは飛ぶように売れたため、懇意にしていた仕立て屋はあっという間に王都でも指折りの店になったという逸話つきだ。
その店にドレスの仕立てを頼んだなら、サイズが合うのもわかる。
おそらく、オーレンの大ファンである王が、いつか呼び寄せた時のために仕立ててあった物だろう。
それを言うとオーレンが嫌がるので、ドレスについての話はそこでやめた。
この分だと、帰る時は、王にかなり引き止められそうだが、それはその時のことである。
「迎えの馬車が近くに来ることになってるから、乗り込むまではジェーンに結界で認識阻害かけてもらっていい?」
「その方がいいだろうね。」
「うん。衣装が素敵なのは嬉しいんだけど、これはちょっと目立っちゃうから。」
さすがにオーレンもこの一行では街中で目立って仕方ないとわかっているらしく、苦笑していた。
設定としては貴族の令嬢とそのお付きなのだろうが、これで目立たないのは城の周辺の一等地だけである。
今日会うのはそれくらいわかってそうな相手だが、どうせ、オーレンのドレス姿が見たかっただけだろうと予想はつくので、オーレンもジェーンも愚痴るのはやめた。
厄介ごとを持ちこむのだから、こちらも少しくらい譲歩をしなくては交渉も上手く進まないだろう。
時間が来て、ジェーンの魔法で姿を隠しつつ、待ち合わせの場所に向かう。
馬車は目立たない黒塗りされただけのものだった。
見た目は質素だが、乗り心地の悪くないそれにつれて行かれたのは、どこかの一軒屋だった。
貴族の館としては小さすぎる。裕福な商人のお屋敷といった所だろうか。
案内されたドアを開けると、中には金髪と銀髪の若者がふたり座って待っていた。
ふたりとも商人風の衣装だが、オーラがそうではないと言っている。
少年だった頃から知っているため、ジェーンにはすぐに相手が国王と宰相だとわかった。
2人とも、まだ青年と言っても差し支えのない若々しい容貌に、光輝くオーラをまとっている。
「おお!久しぶりだ!相変わらず美しいなオリー!!」
金髪の美丈夫が立ち上がって、ジェーン達を出迎える。
その圧倒的なオーラと捕食者の目をした相手にオーレンが思わず一歩下がりそうになるのを、ジェーンが後ろから支えた。
ドレスのことで覚悟はしていたが、王のオーレンへの熱愛は未だ健在だ。
やはり、帰る時が面倒そうだと、ジェーンは疲れた様子の宰相と共にため息をついた。




