自分らしい王? (3)
「父上は聖女様が救ったこの世界を心を込めて守りたいと……常日頃から言っていました」
殿下の父親の声が震えているのが分かる。
「……そうか」
第三地区のおじいちゃんも辛そうに話している。
「わたしにもなれるでしょうか……父上のような名君に……」
「王は……自分らしい王になればいい。自分らしいやり方で国や民を守ればいい。無理して父親の真似をする必要はねぇんだ」
「わたしらしい王……」
「心の痛みを知る奴が王なら……リコリスの民は幸せになれるさ」
「……え?」
「心の痛みを知ってるなら……民の心の痛みも想像できるだろ? 民の心に寄り添える立派な王になれ。王にならできる」
「わたしになら……できる?」
「その前に……息子の心に寄り添ってやれ。しっかりしてるように見えてもまだまだ子供だ」
「確かに……立派な王太子になって欲しくて、甘やかすのをやめようと王妃と話して……」
「確かにそれも大切かもしれねぇけどなぁ……大好きなじいちゃんが亡くなって苦しんでる。今は甘やかしてもいいだろ……一緒にじいちゃんのフロランタンを作って、親子三人で前に進め」
「前に進む……?」
「立ち止まるのはおしまいだ。聖女もヘリオスの死に心を痛めたけど前に進む為に頑張ってる……笑顔で過ごして欲しいって願ってくれたヘリオスとの約束を守りたいってなぁ」
「父上との約束……」
「ヘリオスは波乱万丈な人生だった。身重で連れ去られた母親は船上でヘリオスと聖女を産んだ。そしてヘリオスは海賊に育てられたんだ。王としての役割を果たさなかった父親の存在を知ってからは……リコリス王になる為に大嫌いだった勉強を頑張って……妹がいると知るといつか一緒に暮らす為にと更に励んだ」
「……はい」
「でも……聖女は普通の人間じゃなくなっちまったんだ」
「……神様が……世界を魔素から救い亡くなってしまった聖女様に新たな身体を授けた……」
「そうだ……だから……聖女は死ななくなった……もうヘリオスとは一緒に暮らせなくなっちまった……」
「……聖女様。どれほど辛かったか……」
「そうだなぁ……でもそんな聖女も前に進む為に頑張ってる……」
「わたしも……立ち止まってはいられないのですね……」
「フロランタンを食ってみろ。聖女の想いが込められたフロランタンをなぁ……」
「……はい。……あ。父上のフロランタンと同じ味が……」
「そうかそうか……」
聞いているだけで胸が苦しくなってくるよ……




