自分らしい王? (1)
「王太子にはカサブランカがオレの孫って事になってるからなぁ。気をつけてくれ」
第三地区のおじいちゃんが殿下の父親と話しているみたいだ。
「はい。聖女様は……今は……」
「大切な兄ちゃんを亡くして悲しんでたけど、だいぶ落ち着いたみてぇだなぁ」
「そうですか……」
「息子の王太子はかなり疲弊してるみてぇだなぁ」
「……はい。ですが……王太子としてこの痛みを乗り越えなければ。いずれ大国リコリスの王になるのですから」
「しっかりしてるように見えてまだまだ子供だ……背負うものがあまりに大き過ぎるよなぁ」
「……はい」
「王として強い子に育てなきゃいけねぇのも分かるけどなぁ……王太子はこの広い世界にひとりぼっちだって思い込んでるぞ?」
「……そんな」
「リコリス王もかなり顔色が悪いなぁ。名君と呼ばれた父親を持つ息子の苦悩……分かるぞ。でもなぁ、父親と同じになる必要はねぇんだ」
「……え?」
「王太子よりも王の方が追い詰められてる……違うか?」
「……ヨシダ殿」
「亡くなったリコリス王は確かに名君だった。でもなぁ、どんなに頑張っても全く同じ人間になんかなれねぇんだ」
「……それは……そうですが……」
「自分らしい王になればいいんだ」
「わたしらしい王に……?」
「先代のリコリス王が平民として育ってきたのは知ってるだろ?」
「……はい」
「だから先代は平民の気持ちがよく分かったんだ。それで平民の生活の質が上がった」
「……はい」
「じゃあ王族に生まれ育った王には何が分かる?」
「……え?」
「自分らしい王になれ。王になるべくして生まれた自分にしかできねぇ事をしろ」
「王になるべくして生まれた……わたしにしかできない事……」
「ゆっくり考えればいいさ。リコリス王国は……世界は平和になったからなぁ」
「はい。五十年前……聖女様とヒヨコ様が現れてから、魔族と人は適度な距離を保ち穏やかに暮らすようになりました」
「……先々代の王が……王としての役割を放棄した理由を知らねぇだろ?」
「……え?」
「三代前の『名君』と呼ばれた父親……その死に耐えられなかったんだ。それまでは立派な王太子だった……」
確か、千年以上前……
リコリス王は追放されていた堕天使に協力してもらって、数千年前の聖女の亡骸を幼女に使って何かをしたんだよね。
それで幼女が聖女の力を手に入れたんだっけ?
幼女はオケアノスの子孫だったらしい。
当時の王はその幼女が成長したら王妃にしようとしたんだけど全く成長しなくて……
代々のリコリス王が隠して世話をしていたんだ。
でも色々あって三代前の王は幼女に殺された……
その時幼女も殺されたんだけど……
血まみれの父親の亡骸を見た先々代の王は心を壊したんだ。




