言葉にしないと伝わらないから
パパとタルタロスに戻ると、おじいちゃんは相変わらずベットで布にくるまっている。
側付き二人とコットス達はまだいないみたいだ。
「父上……離乳食を作る間、カサブランカの世話を頼んでも?」
パパがおじいちゃんに話しかけているけど……
「……」
おじいちゃんはずっと黙っているんだね。
でも布の隙間から手が出てきた。
抱っこしてくれるのかな?
パパが優しくわたしを預けると、おじいちゃんが布の中に入れてくれる。
あ……
すごく嬉しそうに笑っている。
「ではカサブランカを頼みます」
「……」
おじいちゃんはずっと無言だけど……
「パパ。おじいちゃんはすごく嬉しそうだよ?」
これくらいなら教えても大丈夫だよね?
「……そうか。嬉しそう……か。カサブランカ……ありがとう」
パパがわたしにお礼を言った?
「……パパ?」
「父上の笑顔をわたしも見られたら嬉しいが……」
「パパ……」
そうだよね。
おじいちゃんには強過ぎる魅了の力があるから、パパの顔を見られないんだ。
「いつか……その時が来たら……」
「その時?」
おじいちゃんの笑顔が見られたらっていう事かな?
「抱きしめたい」
「抱きしめる? おじいちゃんを?」
「これからもずっとずっと父上を愛していると伝えながら……抱きしめられたら嬉しい……」
おじいちゃんがパパの言葉を聞きながら悲しそうにしている。
「……いつか絶対に……抱きしめられる日がくるよ」
こんな事しか言えないけど……
ママが話していたお面が完成したら抱きしめられるよね?
「カサブランカ……」
「おじいちゃんはパパの事が大好きだから」
「……わたしの事が……好き……」
「パパは……おじいちゃんのお腹にいたの?」
「……え? あぁ……そうだな。遥か昔の事だが……」
パパが辛そうな顔をしている。
もしかしたら訊かれたくない話だったかな?
おじいちゃんは、パパがお腹からいなくなったのはおじいちゃんの事が嫌いだからだと思っているんだよね?
心が聞こえるおじいちゃんならそれは違うって分かっているだろうけど……
そう思わなければいられないくらい心が疲れているんだ。
きちんと言葉で聞けば安心できるかも……
「……どうしてパパは、おじいちゃんのお腹から出たの?」
「……それは……父上が……辛そうだったからだ」
「辛そう? おじいちゃんが?」
「腹の中にいた時に……父上の感情が聞こえてきた。共に呑み込まれていた姉弟はその時の言葉をよく覚えていないようだが……わたしは覚えている。……気が狂いそうになるほどの絶望。父上はずっとその絶望の中で、もがき苦しんでいたようだった」
おじいちゃんが、もがき苦しんでいた?
遥か昔からずっと独りで苦しんでいたんだね……




